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映画『LOVE!TAMAGAWA!』脚本【VOL.5】

○アパート・階段

2階に上った寛人。201号室の玄関前で 菅野涼さんにばったり会う。だらしない身なりでベースを抱えて泥酔。ビールの空き瓶を片付けて、自分の204号室に向かう寛人。

○204号室 (夜)

ベッドで横になってスマホで料理動画 を検索する寛人。

寛人「これ、むずそう…電子レンジ、持ってきてない…これシンプルに見える、お手軽料理だね、ただキャベツない…ああ、せっかく料理を作ってみようと思ったのに、こうなんじゃ、できないじゃん」ウーバーイーツを開いて注文。

寛人「もう7時半か…隣まだ料理を作ってないか」玄関に行き、ドアの隙間から匂いをかぐ。

○203号室

瞬、食べ済みの容器を片付ける。冷蔵庫を開ける。

瞬「果物、野菜、ほとんどなくなってるな。まあいっか。買い物に出かける気もないし。金曜日まで踏ん張ろう」

洗濯物入れを取り出し洗濯を始める。

○204号室

ぎっしりの冷蔵庫からスイカを取り出 す。半分に分ける寛人。

○204号室・ベランダ

半分のスイカを手に持って瞬の壁に向 かって

寛人「この間、停電の時ありがとうございました。よかったら、スイカをどうぞ…いやいや、だめ……暑いですね!スイカを買ってきたんですけど、よかったら…いや、だめ……この間のパンおいしかった。このスイカも甘くておいしいです。良かったら食べてください…」向こうのベランダから扉の音と洗濯物を干す音が聞こえてくる。日が暮れる前の静かな多摩川を眺めながら、洗濯物を振るう音もコオロギの鳴き声も聞いて、うっとりする寛人。

寛人(目を閉じる)「いいにおい(スイカを鼻先まで持ち上げる)スイカよりも」左へ顔を出して瞬にスイカを送ろうとするときに、201号室から荒いドラムの音が届く。

寛人(声をあげて)「あの…暑いですね、この間のパンありがとう。良かったらスイカをどうぞ」声がドラムの音に覆われる。「だめか」手すりにかかりよって一人でスカイを食べる寛人。

○教員室(夕)

瞬、入念に生徒の宿題を添削する。

○パチンコ屋(夕)

寛人、パチンコに夢中する。スマホが鳴り出す。寛人、平井からの着信を見て店を出てから電話に出る。

○街

歩きながら電話に出る寛人。

寛人「僕のこと忘れてないか」

平井「もちろんさ。どう?この頃。俺が探した部屋悪くないでしょう」

寛人「十分田舎、十分ダサい」

平井「おいおいおい、そっちから役を慣らすために素朴な部屋を探して欲しいと頼んできたんだろう、お礼ぐらいは言いなさいよ」

寛人「防音がめっちゃ悪くて、俺の部屋から隣の部屋で料理や洗濯、ドアの開け閉めしたりする音すら聞こえるし。しょっちゅう騒音以上の音楽もあるし…隣どんな料理を作ってるかどのブランドの洗剤を使ってるかさえもにおいでわかるよ!まして夕方にはたまに酔っ払って廊下で寝込む隣人もいて、最悪!お礼なんて言えるかよ」

平井「あははは、そうなんっすか。それはそれは…まあ、それこそ庶民の生活だよ!スーパースター!東京には比べ物にならないけど、君の基準にはぴったりだと思うよ」

寛人「何の基準?」

平井「これから寛人が演じる役の生活環境に」

寛人「まあ、確かに、職場で挫折して辞めて、だらしない生活を送る独身男性が暮らしそうなところだね」

平井「そうだ、まだ気づかれてないのか」

寛人「まだ」

平井「隠れん坊上手。で、毎日帽子とマスクの完全武装?」

寛人「いや別に」

自分のことを無視する通行人へちらちら。

寛人「…平井さん、正直教えてほしいんっすけど。こっちの人たちって俺のこと知らないから、気づいてないだけじゃないっすか」

平井「そんなわけないだろう。工藤寛人だぞ!演技大賞もいっぱい獲得した人気俳優だぞ、知名度だけ自信を持て」

寛人「そうかな…」

平井「もちろんさ…寛人さ、こん間ATCテレビの話もしたんだけどさ、やっぱりそのうち挨拶ぐらいはしてきな。多くの芸能人が行ってるから。輝也も行くよ、あと小林裕も行く。局に挨拶したら小林裕にもして…運がよかったら、年内にでも、共演するチャンスもあるかもよ。なんといっても先輩だから、こっちから挨拶しておかないと…」

寛人「前にも言ったと思うんですけど。行きたくないって。断ってもらってもいいっすか」

平井「寛人、もう3年間もドラマに出てないんだろう。前回の映画は2年前。接待、番組のオファー、台本、気に入らないものなら全て断ってあげたの。今回はせっかくのドラマだから、俺がどんだけ嬉しいか知ってる?部屋探しも、高温の日に多摩川の近くを何度も何度も足を運んだ。お願いだから、ATCテレビの記念イベント、出てくれ」

先方を歩いてる瞬を遠くから視界に入 った寛人。

寛人「晩御飯が買ってある(瞬が手に持っている惣菜ケースを見る)わかりました。この話また今度にしよう。では」

平井「ちょっ…」

電話が切れる。

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