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母の短歌・字余り

檻に近く眼を閉ぢて聞きゐたり盲の児らと熊を見るべく


 昭和30年の句だそうです。母は盲学校に勤めていました。
近所の公園に小型の動物園があったそうです。

昭和30年、私はまだ生まれていませんが、白黒やセピアの写真で知っている世界です。松林、ホイールカバーのついた車、オールバックのヘアスタイルと開襟シャツに太いズボンの男性、パーマネントに白いシャツの婦人、三つ編みとかおかっぱ、坊ちゃん刈りなんかの子供たちの情景が浮かびます。

 母が盲学校の生徒たちを引率した時にふと、同じ視点から熊を感じてみたいと思ったのではないでしょうか。

 母の句の中で時々出て来る字余りの句、これがなかなかの効果を発してるなと思うのです。
母は基本に忠実なオーソドックススタイルが好みで、普段から気をてらった表現を嫌います。削ぎ落として削ぎ落として、その上で字余りのものを敢えて選び取った時は大胆に崩して来ます。
五七五七七から外れても、そのリズムはより印象的に情景を語っているな、と感じるのです。

母は『ぢ』や『ゐ』など旧仮名遣いのリアル世代でした。
80年代初期でしたか、イラストや漫画、広告などの世界でこういう旧仮名遣いを新しいものとして取り入れた作品が多くありました。
今となっては相対的にどう見えるのかわかりませんが、趣があって良いと思いませんか?◾️


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