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酒とビンボーの日々 ⑩金持ちとビンボー
もう4年前くらい前のことだからいいと思う。
店に迷惑をかけたわけじゃないし。
お客で、素性がよくわからない人なのだが、
働かなくても良いのだけど、世界というものを知るために働いている、
という人がいる。
その人の家は代々大臣を出している家系の人らしく家は金持ちなのだとか。
服を店で買ったことがなくてショップの人が服をもって来てくれると言っていた(笑)
要はその人が着ている服はとてもいいものだそうで全身で100万はくだらないそうだ。
イメージとしてはYoshikiとかGacktのような黒系の服とメタリックな装飾品と言えばよいか。
NIKEを「ニーク」と読んでいた僕だ。
もっと良い言い方があるやもしれぬが、そいつはご勘弁願いたい。
この日着てきたジャケットも
ただの黒いジャケットかと思っていると縫製もなかなかきちんとしているし、
わざと皺を作っていて、なんていうんだっけ?
ケミカルウォッシュ? よくわからないが、
そんなことをして手間暇をかけているらしい。
そんな服を着ているお客と差しで飲むことになった。
神楽坂は僕に任せてくださいよ、と言われて任せたら高級焼き鳥店だった。
干支が一回り年下の不労所得でも暮らしていける金持ちの若造。
僕はこんな若造に対して正直、ルサンチマンに身を焦がしている(笑)
階級闘争は僕にとって、ありとあらゆる場面で自分を駆り立てる必要なものだ。
それ自体が僕という人生の中での重要なテーマであるらしい。
せめて次に生まれるときには金持ちで生まれたい、
金が無いよりはあった方が断然いいに決まっている。
そんな若造と神楽坂で待ち合わせて焼鳥を食べようという。
カウンターに二人で座り、コースを最初に入れて足りなければ単品を足すか、ということに。
佇まいがもうすでに高そうな店である。気を付けていかないと大変なことになるぞと思いながら最初にビールをば。
お通しの「クリームチーズ豆腐」を食べながら、冷たいビールを流し込む。
もうコースが始まる。黒いまっ平な台のような皿の上に載ってくる焼き鳥。
外をカリッと焼きあげて中にある旨味を逃さない焼き方。千ベロの焼き鳥とは違う。
![](https://assets.st-note.com/img/1672648172237-jVaHdJoiCu.jpg?width=1200)
特に「ぼんじり」は驚異だった。
外のカリッと焼かれた皮が破れると旨味と溶け出した脂が溢れだし、口の中をぼんじり一色に染め上がる。
まさに鶏の爆弾と言ったらよいか。丸々と太った肉汁の風船は口腔内で爆発し、よだれをも誘発する(笑)
![](https://assets.st-note.com/img/1672648145372-7JK3KSh6Pg.jpg?width=1200)
「手羽」も炭の遠赤外線に焙られて手羽の表面をカリッカリに焼き上げてあり、
閉じこめた旨味を大放出するべく、
歯をあてるとサクっと音をたててその身を崩していく。
その崩れ方が骨から身を削ぐような武骨なものではなく、
はらりと身を翻しながら骨を残していくような
まるで舞姫のように優雅な狡猾さを孕む。
わが貧しき企みをも暴き立てながら、その骸を残して去っていくものは、鶏。
この焼き鳥の美味さは筆舌に尽くしがたい。
今だって筆を舐め舐め、いや、指を舐め舐めパソコンに字を打っているのである(笑)
![](https://assets.st-note.com/img/1672648196625-7hUtlJm6d2.jpg?width=1200)
「エビのカダイフ揚げ」も、口の中での触感がたまらない。
サクサク、シャクシャク、天使の髪とも呼ばれるカダイフ。
あ、これ揚げたんだっけ? 焙って焼いたんだっけ?
2年前のことで忘れてしまったが、こんな美味いものになるなんて人が悪い。
それに何よりも美味かったのが白ワイン。
グラスワインであるが、これは何本飲んだのか分からない。
スイっと口に入るごとにさわやかな風を思わせる黄金色の液体。
すっきりと冷やされているのに少しも尖るところがない。
おそらくだが、ブドウの成分が濃いのではないかと思われる。
美味しい出汁を飲んだ時に思い知らされる、舌を包み込むような感覚。
写真を撮っては来たが、何のブランドなんだかよくわからない。
一杯1000円ほどしたかと思うが、
それをアホみたいに10回以上もおかわりする(笑)
酔いも巡るのだが、すっきりと酔うというのか、
明日の二日酔いを気にしながら飲む必要がない感じ。
とにかくこんなに美味い飲み物があったなんて!
なんだかんだで11時を過ぎたあたりでお開きにしましょうというところになり、
はた、と会計をしなくてはならないことに思い至る(笑)
懐には3万ほどあったが、レシートを見ると5万を優に越えている(驚)!
これは何回かに領収書を分けてもらうかな、などと考えていていると
酔った若造がゴツい財布を取り出して有無を言わさずにパッと6万円で払ってしまったのだ。
我ながら、しまった‼ カネ払いが遅いのは一番の恥だ!と考えている僕はこういう時、
即時に対応できなかった自分を深く恥じた。
しかも干支が一回り下の若造に払ってもらったなどいい恥である。
「うん、美味しかったですよ、行きましょう。ああ、美味しかった!」
僕には何の言葉もない。
次の日、改めてそのお客に御礼の電話をする。
「あ、そうそう僕が払っていたんですね、結構高かったのでビックリしましたぁ」
あ、それは完全に僕のせいだ(笑)
僕が一杯1000円もするワインをガバガバ空けていたからだ。
僕は何も言えない。とりあえず御礼を欠かさない。後日、菓子折りくらい持っていくか。
「あ、今度ポンコさんごちそうしてくださいねー」
「何がいいですか?」
「うーん、そうだなお寿司は?」
「了解です。お店考えますね。あはは(笑)」
完全に金持ちの若造にしてやられたポンコの巻。
遅くはなったがそのお返しは東中野の名登利寿司で行うことになったのである。
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