カルダー,ケント・E(2023)(中山雅司訳)『グローバル政治都市ーアクターとアリーナ:国際関係における影響力ー』潮出版社
友人といっては失礼だが、本学顧問であり、来日時には本学総長と共にディスカッションをする仲であるケント・E・カルダー氏による最新著である。
グローバリゼーションを動かす国家を凌駕する(可能性のある)力として、グローバル政治都市の存在を指摘する本書における最重要概念は「近接性の力」である。
この指摘は、経営学においてもクラスターに関する議論で用いられるが、カルダーはあくまで国際関係論のなかの議論として、グローバリゼーションにおける都市の強さの源泉を探る。
このような国境を超えた多様な人々の集積地としての都市の強さを強調した上で、先に述べた「近接性」が都市の強さをもたらす理由について語る。
それはまとめれば、
1:近接性により都市特有の人的ネットワーク形成が促進されていること。
2:近接性を活用することで複雑な資源配分をより簡潔にできること。
3:近接性はアイデアの形成と伝播を促進し、アジェンダ設定を更に容易かつ効果的にすること。
私はいつも大学の講義や講演で、今般のグローバリゼーションにおける重要な特徴は知識社会であることだ、と言っている。つまり、利益の源泉は知識なのだ。そして知識は、知識を持つ者同士が触れ合うことで増幅し、新たな(ときにイノベーティブな)知識を生む。そしてそれが、さらなる利益を生むという構造になっている。
また、EUの気候変動・エネルギー・環境政策/政治を研究している身として、いつも「アジェンダ設定」能力がいかに大切かを述べてきた。どのようなアジェンダをたてて議論を喚起するかで、結果が自分に都合の良いものになるかどうかが決まるのだ。
このような能力は日本の教育機関(特に小中学校)で涵養されているだろうか。(ちなみに大学では、Strategic Discussionという名に近い科目で、アジェンダ設定の重要性を教えるが、果たしてその重要性を大学生は理解しているかはわからない)。
本書は、いまだにグローバル化の主要アクターが国家であると考えている方や、更には、多様な人々を惹きつける努力をすることなく地方創生を語る地方自治体の首長や職員に、ぜひ手に取っていただきたい。グローバル政治都市は、もはや遥か彼方に行ってしまっているのだ。
グローバリゼーションにおける知識社会の全体像を、国際関係論の観点から見事に描いた本書が、日本社会の啓蒙に果たす役割は大きい。