運動音痴の私が人生で唯一憧れ続けたスポーツ、バスケットボールの話
幼少期から今の今まで、ずっと運動が苦手な人生だ。
とにかく体力がない。絶望的に足も遅い。
小学生の頃、マラソン大会のある冬の日が一年で一番嫌いな日だった。
中学ではソフトテニス部で、たとえばラケットが振れないとか、球が打てないというタイプの運動音痴ではなかったのだけど、やはり体力と足の速さの問題が立ちはだかった。鍛えて向上させようという気概はなし。根性がないのである。
なんとか辞めずに三年間続けた。でも引退して部活がなくなったらより一層、その後高校でも輪をかけて、体育が嫌いになった。体育祭や球技祭では、とにかく何事もなく、目立たないようにその日を終えるのが目標だった。
鈍臭さが露呈するから大人になってからもスポーツをする機会は注意深く避けてきたし、わざわざ観る機会を持とうとも思わなかった。子どもの頃から、夕飯の時間に野球中継を観る父を見ていても、結婚後にリビングでサッカーを観ている夫を見ても、一緒に楽しもうなんて欠片も思わなかった。なんなら「スポーツ観る人ってなんでこんなにうるさいんだろう」とすら思っていた(スポーツファンの方々ごめんなさい、今は思ってません)。
そんな私が、この夏唐突に、初めて、スポーツ観戦にハマったのである。
8月25日に沖縄で開幕したFIBAバスケットボールワールドカップ2023。
藤井風くんがテーマソングを手掛けると耳にしたのは何月だったか。その時は「へー、バスケあるんだ。ちょっと観たいな」くらいの気持ちだった。それが9月に入った今。なんと私のスマホには、10月に開幕するBリーグのチケットが入っている。いそいそとインストールした、Bリーグアプリの中に。
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バスケとの出会いは、現在アラフォー、私の世代のご多分に漏れず『スラムダンク』だった。二つ上の兄の影響で漫画を読み、アニメを見た。個性的なキャラクター、かっこいいプレー、ドラマティックな試合の数々に、すぐに魅了された。
素直にバスケに憧れ、素直にミニバスに入った。小四の春だった。その頃からすでに運動神経に不安はあったのだけれど、それでもスラムダンクで見たあのバスケットボールを、自分がプレーしていると思うと小四なりに高揚した。嬉しかったし、ドリブルやシュート練習は実際楽しかった。運動音痴だけれど、レイアップシュートなんかは結構できていたと思う。フリースローも入っていたはずだ(私が記憶を改ざんしていなければ)。
でもやっぱり、体力的についていけなかった。フットワーク練習が地獄だった。特に夏休みの蒸し暑い体育館での、長時間の練習。フットワークが終わるといつも吐きそうになっていた。夏休みが終わり二学期になると、私はあっさりミニバスを辞めた。やっぱり根性なしなのである。
それからバスケに触れる機会は一切なかった。ただ、憧れの対象ではあり続けた。思い返して気付いたことだけど、小四で憧れたのは女子ミニバスのキャプテンの六年生、中一でも男子バスケ部の三年生に憧れ、高校では同じクラスのバスケ部の女の子に憧れた。そして今。ずっとスポーツが嫌いだった人生の中で、バスケットボールだけが唯一、私の憧れ続けたスポーツだったのだ。
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今回、なぜこんなにバスケにハマったのか。順を追って考えてみる。
バスケW杯があるらしいと耳にして気になっていた私が、まず最初に観たのは8月17日の強化試合フランス戦。負けてしまったけど、勝敗関係なく「やっぱりバスケおもしろい! 次も観たい!」と思った。でも19日のスロベニア戦は用事があって残念ながら観られず、次は8月25日の開幕戦。相手はドイツ。ティップオフ前にテレビの前にいたはずだから、「観るぞ!」と気合いは入っていたんだろうけど、この日はまだまだ「日本がんばれ!」とか「勝って!」とか、全然思っていなかった。ただかっこいいプレーが観たいだけ。私の中では、テレビでスラムダンクのページを繰っている感覚だったのかもしれない。
でも、ドイツ戦を観ている間に選手の名前とポジションを覚え、次第に目が慣れなんとなく展開を追えるようになり、縮まらない点差にじりじりするくらいには感情移入して観るようになっていた。知っているバスケのルールはほぼスラムダンクから得た知識のみでありながら、観ていて大枠は何が起こっているのかわかるんだから、井上雄彦先生は本当にすごい。
そして終わった後に思ったことは二つ。「ポイントガードめちゃくちゃ好き」「河村選手推せる……」そう。これが沼の入り口だった。
27日のフィンランド戦までに、選手を紹介する動画やアカツキジャパン密着動画、これまでの試合の神プレイ集などを見て情報を入れた。見れば見るほどのめり込んだ。だってかっこいいんだもん。
フィンランド戦の時にはすでに、「ギャー!」とか「すごい!」とか、「やばい!」とか「いい!」とか、アホみたいな語彙で我を忘れて声をあげて観戦していた。劇的な展開、歴史的な勝利。もはや漫画だった。
終わった後、「ママがそんなに夢中になってスポーツ観るなんて珍しいね。声、めっちゃうるさかったよ」と、バスケにはイマイチ熱が入らない夫に言われた。ああ、スポーツ観ながら大声でああだこうだ言う人たちに心の中で暴言吐いてたいつかの私、マジで反省しろよな……。そう思いながら「ごめんうるさかったよね」と小さく夫に謝った。
ちなみに翌日、大声を出して両手を挙げたり拍手したりしながら観戦していた母を、寝る前にちらりと見ていたらしい小二の娘が言った。「ママあれみたいだった。ほら、頭の上で手を叩くおさるさん。あれ」と。
まあそんなことはいいのです。
大事なのは、私はここで完落ちしたのだということ。バスケの沼、そして日本屈指のポイントガード、河村勇輝の沼に。
そこからの私は早かった。日本代表関連のSNSアカウントをフォロー、Bリーグのアカウント、河村選手の所属チーム、ビー・コルセアーズのアカウントをフォロー、もちろん河村選手ご本人のアカウントも。そしてチームのHPや公式プロフィール、これまでの試合のハイライト動画、オフの動画などもチェックした。Bリーグのチケット購入方法もリサーチした。推しのことになると本当に仕事が早い。おい見習え、締切直前まで仕事を溜める私よ。
そしてオーストラリア戦、ベネズエラ戦、カーボベルデ戦と、文字通り熱狂して応援した。負けた日も勝った日も、夜は興奮してなかなか眠れなかった。バスケ関連記事を読み、動画を漁り、翌朝のスポーツニュースは欠かさず見た。
どうした、この変わりよう。
自分でも本当に不思議だった。
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沼落ちする時、そこには自分なりの法則がある。
色々と考えてみて、私の場合は「才能」と「ギャップ」が決定打なんだと気が付いた。
圧倒的な才能。一見するとクールなビジュアル。笑うと目がなくなるほどのキュートな笑顔。誠実でピュアな人柄。聡明でありお茶目。どれも、私の推しに共通する要素だった。
そういうわけで、河村勇輝の話をしよう。(どういうわけで……?)
2001年生まれの22歳。身長172㎝、ポジションはチームの司令塔、PG(ポイントガード)。スラムダンクの湘北で言えば宮城リョータである。それはポジションやサイズだけではなく、プレースタイルも同様だ。
河村選手が鋭いドライブからインサイドに切り込んで相手を抜き去り、シュートを決めるor華麗なパスをする姿を見て、このリョータの名台詞を、いったい何人の視聴者が口にしただろうか。
世界を相手に戦うにはどうしたって小さいその身長。「この身長で通用するのか」。その葛藤はプロ入りする時から、さらには海外を見据えて、ずっとあったのだろうと、いくつかのインタビューを見て読んで、感じた。
だから大活躍したフィンランド戦で、サイズ関係なく世界と戦えることを、河村選手は証明したんだと思うと胸熱だった。元NBA選手アイザイア・トーマスが河村選手にSNSで賛辞をおくったというのも、なんだかドキドキする展開だった(私はこの時にアイザイア・トーマスを覚えました)。
河村選手と宮城リョータのプレースタイルは基本的には近いのだと思うけれど、でもリョータにスリーポイントはなかった。河村選手はスリーもいける。ディフェンスもいつもハード。つまり何でもできる。冷静。それでいて情熱的。ストイック。もうとにかくずっっっっっっとかっこいい!!んだよ!!!!!(ハァハァ)
あとですね……試合中の河村選手の眼。眼がヤバいっすよ。ね。見ましたか。
これね!! ゾックゾクする。このゾーンに入った眼。超冷静。超クール。でもその奥底には、メラメラ闘志が滾っているのが伝わって来る。
フィンランド戦の河村くんといったらもう、無双でしたよね。「河村劇場じゃん!」って、そりゃ言ったよね。爆速ドリブル、キレッキレのドライブ、多彩なパス、そしてスリーポイント。何しても当たる。バッキバキに冴えわたってる。もうたまらんでした。
なんだろう? ポイントガードフェチなのかな………。小さい体で大きい選手を翻弄するところとか、床スレスレのドリブルとか、めちゃ腰を落としたディフェンスとか、涼しい顔で決めるノールックパスとか。はああ、全部かっこいい。
そういう時の河村くんを見ると、ありがとうございますありがとうございますって、何にかはわからないけどとにかく感謝してしまう。大丈夫大丈夫うまくいくよって、祈る気持ちで画面を凝視してしまう。
そして、それがさ、オフコートではどうよ。それがさぁ、、、
か、わ、い、い、の、よ!!!!!!
なぁにこの笑顔……さっきまでの緊張感が嘘のよう、膝ガックンで力抜けていきますわ……。そうだよねコートであまりに頼りになるから忘れちゃうけど、まだ22歳、大学生の歳だもんね……。
それとですね、忘れてはいけないのが、その人間性。試合中から気になっていた、コートインする時の深々とした一礼にまつわるエピソードも、沼の入り口で早々に見つけた。
いい子過ぎる……人間が出来過ぎている。ファンの間では「人生何回目?」でお馴染みらしい。渡邊選手への「まだまだ引退させませんよ」発言といい、ウィニングボールの件といい、インタビューの受け答えといい、マジでいい子、真面目、男前エピソードしか出てこない。推さない理由がない。もうおばちゃんビックリだよ……非の打ちどころって言葉、河村くんの辞書にはないんかいな……。
そして同じ日本代表の22歳コンビ、富永選手との仲良しっぷりも話題。色々若い頃の動画を深堀りしていくと(今も十分若いんだが)、実はお茶目で末っ子気質なところも見えてくる。(実際、お姉さんが二人いる三姉弟の末っ子らしい)なんなん、ギャップまであるやん……どうなってるん河村勇輝……。
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っていうことで、ちょっと興奮して書きすぎた気もするけれど、とにかくバスケ最高におもしろい。運動音痴とか関係ない! 運動できない人でもスポーツ観戦は楽しめると、身をもって実感しました。(推し選手が見つかるとなお楽し)
明日(9/8)は日テレ、明後日(9/9)はテレ朝で特番がありますよ。みんな観よう!!
そうそう、こんなにスラムダンクスラムダンク言ってはいるけど、ずっと漫画は手元に持っていなかった。実家では兄の単行本を読んでいたし、息子が小学生になって読ませたいなと思った時は図書館で順に借りていった。映画公開で盛り上がった時に大人買いしようかと、本屋で平積みになった新装版を何度も見ては悩んで、でも結局買わなかった。で、今。
バスケ熱がすごい私を見て、夫がサプライズ誕生日プレゼントとして買ってくれていました! 夫ー! やるじゃないかー!
また一巻から読み直しています。もう一度、彼らと出会い直せるなんて幸せです。
改めて、日本代表の皆さん、パリ五輪出場決定、本当に本当におめでとうございます。これからも楽しみにしています。たくさん応援します。
そしてスポーツが嫌いだった運動音痴の私に、バスケの面白さを教えてくれてありがとう。井上先生とアカツキジャパンに大感謝です。
さあ、来月は初めてのBリーグ観戦だ。いつ海外に行ってしまうかわからない河村くんが日本にいるうちにと思い、横浜ビー・コルセアーズのチケットを取りました。
生で河村選手のプレーを観られるの、めちゃくちゃ楽しみだな~~!!!
#バスケW杯 #推し #推し活 #スポーツ #バスケットボール #スラムダンク #漫画
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