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変わるということ

コロナウィルスの世界的流行により、私たちは否応なしにこれまでの生活からの変化を余儀なくされた。
変化は誰にとってもストレスであるし、変わるということは、それ以前に手にしていたものを手放すことでもあり、何らかの喪失体験を意味する。
いま全世界の人びとが一斉に、変化とそれに伴う喪失を体験しているといえる。

変わりたいに向き合う仕事

願わずとも変化を強いられる場合もあれば、自ら変化を願いそれに取り組もうとする場合もある。

カウンセリングやコーチングでは、変わることがその主題となり、プロセスが進んでいく。
あるカウンセラーやコーチの仕事は、そのプロセスに伴走することである。
私たちは、「〇〇したい」という願いをもった人びとと日々対話を重ねている。

ネガティブ思考を変えたい
逃げ癖をなおしたい
コミュニケーションが上手になりたい
適性のある仕事を見つけたい
自分の能力を今よりもっと生かしたい

クライアントはこうした悩みや願いをもち、今の自分のあり方を変えるべくカウンセリングやコーチングに取り組む。
自分の課題に正面から向き合い、努力することで、ありたい方向への道がひらかれ、変化がもたらされるのだ。

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変わりたいに向き合うと起こること

これまで数多くの変化に出会ってきた。
人が変わっていく姿は本当に尊く、人のもつ変容力に日々驚かされている。

この仕事をしていてよく思うことは、変わることを志向し、カウンセリングやコーチングに取り組もうとした時から、その人は確実に変わりはじめるということである。

これまでの感情や思考、行動に小さな変化が起こりはじめ、やがてはその人のあり方が変容していく。

興味深いことに、自分が変わりはじめると、変わりたい方向を後押しするチャンスが訪れたり、関係する周囲の人びとも変化しはじめたりすることがある。

例えば、ある人が転職を考えはじめた時、
興味のある分野の人と偶然出会うこと場合がある。
また、ある人が夫婦関係をよくしたいと願い、話し合いを考えた矢先、
相手から同じような申し出を受ける場合がある。

これは、脳科学的に言えば RASが働きはじめたといえるかもしれないし、ユング心理学的に言えばシンクロニシティを意味するのかもしれない。

人が「変わる」に真摯に向き合おうとした時、自らの努力の範疇を越え、自ずとチャンスが巡り、変化に追い風をもたらすことがよく起こるから、本当に不思議である。

変わりたいのに変われない

しかしながら、変化は簡単に起こることばかりでないのも事実だ。
先に述べたように、変化は誰にとってもストレスであるから、何らかの負荷が生じるし、変わることは、今あるものとの別れを意味する。
だから、それらを引き受ける覚悟がもてた時に、人は本当の変化に近づくことができる。

変わりたいと願っても変われないことは多い。
簡単に成せないことだからこそ、人びとはカウンセリングやコーチングといった特別な場を利用する。

その舞台においては、「変わる」を巡ってさまざまな対話がなされるが、「変わりたくない」に向き合わざるをえないこともしばしば生じる。

無意識の欲求

精神分析学の創始者であるフロイトは、人のこころは、意識・前意識・無意識の3層から成り立つと考え、無意識に存在する欲求などを意識化することの重要性を説いている。

こうした考えに照らし合わせてみると、「変わりたいのに変われない状況」には、「変わりたい」という意識の背後に「変わりたくない」という無意識の欲求が存在する可能性がある。
そして、それが変わるための動きにブレーキをかけている場合がある。

変わるための方法を考えることは大切であるし、変わるために行動を起こすことで変容する場合も多いが、一筋縄にいかないこともある。

そのような場合、「変わりたくない」の裏側にある欲求や感情を見つめることが、変化への前進に大きな役割を果たすことがある。

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変わることへの不安や怖さ

「変わりたくない」への理解を深めていく中でよく語られることは、変わることへの不安や怖さである。

例えば、夫婦関係を改善したいと思うがなかなか行動できない人がいる。
話し合いをしようと思っているが、ついつい後回しにしてしまう。
このような場合、「改善したくない」に焦点を当てることで、本人が意識したくなかった「失敗するかもしれない」「なんとか均衡を保っている今の関係性を失うことが怖い」といった思いが語られることがある。
また、逃げ癖をなおしたいと思った人がいる。
やり遂げたいと思って計画を立てるが、いつも途中で諦めてしまう。
やり遂げるための方法をいくつも考え実行するが、結局続かない。
このような場合に「逃げたい」について考え進めていくと、こころの奥底には「自分を信じられない」「頑張ったところで変われるかわからない怖さ」といった感情が語られることもある。

変化したいと願う時、これらの思いや感情は邪魔になると感じ、無意識に追いやられてしまうかもしれない。
しかし、無意識には確かに存在し続けて、私たちの思考や感情・行動に確実に影響を与える。

ブレーキをかけているものの存在に気づかず、無闇に行動を起こしても、エネルギーだけが消費され、疲弊する危険があるので注意が必要である。

変わることの不安や怖さを受け容れ、その覚悟ができると、本質的な変化が起き大きく前進することができる。

このように、カウンセリングやコーチングでは不安や怖さに直面化し、そのことを引き受けるための対話が非常に重要な役割を果たすことがある。

「変わりたい自分」と「変わりたくない自分」

あなたが何か変えたいことがあった時、「変わりたい自分」と「変わりたくない自分」の両者に目を向けてみて欲しい。

どんな風に変わると幸せだろうか?
変わることで何を手にすることができるだろうか?

自分自身に問いかけ、「変わりたい自分」を明確にすることにより、変わりたい方向性や進みたい道がひらけ、その足取りも素早いものとなるだろう。

加えて、自分の影の存在にも気づいて欲しい。

変わることで失うことは何だろうか?
どんなことに不安や怖さを感じているのだろうか?

こうした問いを重ねて、「変わりたくない自分」に対する知を深めてみることが大切だろう。

光と影。
どちらの問いに対しても正面から向き合った時、
人は本当に変化していくものである。

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