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【読切】サクラ。忘れられたキレイゴト

新世界政府によって
思考が支配された世界。

私は、新世界政府公認スナイパー

キレイゴトの抹殺が使命だ。

世界は、
合理的かつ効率的社会を
追求した
政府によって思考がコントロールされた世界。

夕日に涙することも
秋の風情に詩を読むことも
花を愛でることや
歌うことも禁じられた世界。

私の装備する
超長距離ライフルに装填された
思考転換薬入り弾丸は

キレイゴトに下った
下郎どもを抹殺し、
キレイゴトの狂気から解放する。


個人は全体のためにあり
全体のための一部だ。

ある日、
政府指名手配の
キレイゴトレジスタンスの一員を
ライフルのスコープに捉えた。

手に持った枝木は
植物を育てるための苗木。

重要犯罪だ。

そいつの後を追った先に
狂い咲く花を見た。

引き金を引く瞬間、
私の脳裏に蘇る記憶。

「あ、あれは…サ、サクラ?」

かつて、思考転換薬を接種した
私の脳裏に忘れられた記憶。

なんだろう?
どこか懐かしい
そして、胸の奥があたたかい。

絶滅したはずのサクラ
それが目の前に満開の姿を見せている。

その圧倒的美しさに
わたしは心を奪われて

引き金からゆっくりと
指を離した。

ああ、知っている。
私が忘れていたキレイゴト。

それはこんなにも
心を奪う麻薬だったなんて……

私は取り戻す。
サクラの記憶と、
かつてのキレイゴトの世界を。

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