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地域みらい留学LIVE「探究で切り開く自分の未来 ~なぜ地域で子どもを育てるか~」イベントレポート

 地域みらい留学にご興味をもってくださった中学生・高校生・保護者の方を対象に、地域みらい留学の様々な情報をお届けする、オンラインイベント、地域みらい留学LIVE。今回は、情熱大陸にも出演し、社会から注目を集める「受験勉強も教科学習も教えないのに、子どもたちが学びに熱狂する塾」を経営する探究学舎代表 宝槻 泰伸さんと、今年お子さんを地域みらい留学に送り出された、かもん まゆさんをゲストスピーカーにお迎えし、「探究で切り開く自分の未来 ~なぜ地域で子どもを育てるか~」というテーマで語ります。

■ ゲストスピーカー
【1】宝槻 泰伸(ほうつき・やすのぶ)
探究学舎代表。1981年東京都三鷹市生まれ。京都大学 経済学部 卒業。幼少期から「探究心に火がつけば子どもは自ら学び始める」がモットーの型破りなオヤジの教育を受ける。高校を中退し京大に進学。次男、三男も続き、リアルオヤジギャグ「京大三兄弟」となる。開発期間5年、子ども達が「わあ!すごい!」と驚き感動する世界にたった1つの授業を求めて、北海道から沖縄まで、時にアメリカ・ヨーロッパ・アジアからも親子が集まる。2017年はのべ約2,000人、2018年は年間約3,000人が参加。5児の父。

【2】岩本 悠 (いわもと・ゆう)  
一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム 代表理事/島根県 教育魅力化特命官

【3】かもん まゆ
2011年の東日本大震災でのママや子どもたちへの物資支援活動を機に、乳幼児ママ向け防災講座「防災ママカフェ®」を立ち上げ、全国で講演活動をしている。昨年(2019年)の地域みらい留学フェスタに不登校中の息子と参加し、日本最北の高校、北海道礼文高等学校に出会う。親子3人で千葉から飛行機、フェリーに乗って礼文島に高校見学に行き、受験を決意。無事合格し、今年(2020年)4月より、息子が礼文高校に地域みらい留学をしている。

■ モデレーター
今村 久美(いまむら・くみ) 
一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム 共同代表/認定NPO法人 カタリバ代表理事


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あえて地域に留学する越境体験「地域みらい留学」

今村:「探究で切り開く自分の未来 ~なぜ地域で子どもを育てるか~」というテーマで本日はお3方をゲストにお迎えしました。

 このイベントは、地域・教育魅力化プラットフォームが主催しています。私自身は、NPOカタリバという団体の代表者でもあるのですが、岩本 悠さんと一緒に「都市部で育った中学生が越境して、あえて地域に留学するって面白くない?」という話をしたのが3年前。

 「地方の子たちが、優秀な人たちから都市部へ出ていくという流れではなくて、むしろ地域にある地域資源を教育に変えていくという新しい流れをつくっていこうじゃないか」と意気統合しました。岩本悠さんが、まさに島根県海士町で手がけられたことを、全国の地方の1つの流れにしていきたいということで、地域・教育魅力化プラットフォームという団体を一緒に立ち上げて一緒にここまでやってきました。私自身は共同代表として、お仕事をさせていただいている者でもあります。本日は進行をさせていただきます。

 私たちのチームは日本財団さんに大変お世話になっております。このチームを結成したのも、日本財団の方々に1番最初のシードマネーを出していただいて、全国の方々にこの取り組みを広げようということで、活動を始めることができました。岩本さんが、この流れの仕掛け人であるわけなのですが、地域・教育魅力化プラットフォームを立ち上げてからのこの3年間はどうだったのか、ということも含めて自己紹介をお願いします。


「学校の外に、本当の学校があった」大学を1年間休学し、世界を流学。でも1番のカルチャーショックは日本にあった。

岩本:改めましてこんにちは。岩本悠です。よろしくお願いします。今、地域みらい留学の話があったので、地域みらい留学と僕のつながりにも触れつつ、自己紹介をしようと思います。

 僕は、東京で生まれ育ちました。探究的な学びというのは、正直僕が通っていた、家から最も近い公立の高校では行われていた記憶はありません。そのような中で、なんとなく進学するということを目標にしか勉強できませんでした。そうして大学に進学をするわけですが、大学ではやりたいことが見えなくて、「このまま生きていくと、この人生で命を燃やして後悔なき人生を送れないんじゃないか」という気がして、1年休学して海外のいろいろな地域をまわりました。今思えば、その1年間で総合的な探究の時間を、自分でカリキュラムマネジメントする体験をしていたのだと思います。

 その経験で、僕の人生がものすごく衝撃的に変わりました。「学校の外に、本当の学校があった」という衝撃。そういった学びを教育の中にちゃんとインストールしたいと思ったがの、僕の原体験です。その後、1度企業に就職しましたが、ご縁があって、日本海の隠岐諸島の海士町という島へ行くことになりました。

 そしたら、それがまた衝撃で。途上国やいろいろな地域に行っていたので、「自分は海外でもやっていける」という、異文化、越境に強いという自負をもっていたのですが、その海士町という地方の町に行ってみると、旅とか留学で行くのと、そこで暮らす、働くというのは全然違うということを知りました。

 そこで、相当こてんぱにされ、何度も打ちひしがれてというかですね。ものすごいカルチャーショックを受けました。同じ日本のはずなのに、海外の都市で仕事するより、地方でする仕事のほうが上手く行かなくて、「こんなに違うんだ!」と衝撃を受けました。その時は逆境の嵐で大変でしたが、今思えば海士町での数年間というのは、自分の人生でものすごい学び豊かな時間でした。そして、海士町には9年過ごし、島根県のエリアだともう15年くらい過ごしています。

 3人の子どもがいるのですが、都会で子育てをするより、地方のほうがいいなと思って、もう都会にとかいう思考は完全になくなってしまいました。海外を含めたいろいろな地域に行って、自分が成長させてもらったという経験から、「中学生、高校生にも越境する機会を」という思いで始めたのが「島留学」。そして、「地域みらい留学」という形で、全国のいろいろな地域と一緒に、新しい学びの選択肢としてこの取り組みを進めています。

 僕は「自分が生まれた地域の中で、自分の偏差値のランクだと、だいたいこのあたり」みたいな、地域や偏差値の枠を超えていっていいと思っています。地域みらい留学では行く所は、そういう偏差値などが全く関係ない学校、地域です。そういった新しいキャリアの作り方を提示しているのが地域みらい留学です。自分にとって幸せなことは、どこで生き、どこで暮らし、どこで学ぶことのか。それは自分が今後決めていくことであるし、それは変えていってもいいことである。そんなことを、15歳とか16歳のタイミングから、小さくてもチャレンジできる。それを、日本の当たり前にしていきたいなと思い、この取り組みを続けています。

今村:実は私は岩本さんと同級生なのですが、当時の大学生就職人気ランキング5本指に入る企業で働いていて、そこで3年くらいバリバリやってたのだけれど、海士町のほうがいいと言っていきなり移住したということですよね?

岩本:そうでね。本当のところは海外に行こうと思っていたんです。途上国などで、教育を通して持続可能な地域づくりや社会づくりに貢献したいという思いがありました。それがたまたま海士町に行った時に、「国内でもこんなところがあるんだ!」と衝撃を受けたんですね。しかもそこでは、リアルな課題が山積していました。人口減少、少子高齢化、財政難、独居老人などなど。日本の未来の課題がこんなに顕在化している、こういう未来の箱庭みたいなところで、教育が何ができるのかということに、チャレンジしたいなと思いました。

今村: マニアックな趣味ですね。課題大好きということですね。

岩本:そうですね。そういうリアルな課題を見ると、ちょっと燃えちゃうみたいなところがあります。


「今から田舎行くぞ!」父親の一言で突然引っ越し

今村:続きまして、自己紹介タイム2人目ということで宝槻さん。都市部の子育て親世代、特に小学生の親たちには超有名人でいらっしゃるわけですが、ご自身について自己紹介をしていただければと思います。

宝槻:「探究学舎」という教室を東京の三鷹市というところで主催しています。一応学習塾なのですが、受験やテストの対策は一切やりません。その代わり、子どもたちが「もっと知りたい」「やってみたい」という興味を作り出す授業をお届けしています。メインは小学生。今は、オンラインでもやっていて、全国に学んでいる方々がいらっしゃいます。

 僕自身と地域のつながりで言うと、自分が小学校6年のときに父親が会社をやめて売っ払いまして、「お前ら、今から田舎行くぞ!」と言い、東京から栃木に引っ越しました。その後、「もっと田舎に引っ越すぞ!」と言って、宮崎に引っ越しました。なので、結局6年間、東京ではない、都会ではないところで過ごしていました。とはいっても、栃木は足利市、宮崎は宮崎市だったので、中都市くらいところで生活していました。

 地域というところで暮らして、大学から京都という大都市に行き、社会人になってからまた東京に戻ってきたのですが、今年の3月に、軽井沢に家族7人で引っ越しました。小さい子どもが5人いるのですが、子どもたちと一緒に、森の中で過ごしています。岩本さんもさっき都会に戻る気はないと言っていましたけれども、僕もおんなじで、「もう東京なんか絶対戻ってやるか!」と思っています。今日はそういった自分の体験を通して、田舎、地方で暮らし学ぶってことの可能性について、僕なりに知りうることをお話できればと思っています。

今村:ありがとうございます。ここで参加者の方から宝槻さんに質問があります。

Q 軽井沢だとISAKとか念頭に考えてるんですか?

ということですけども、いかがでしょうか?

宝槻:なるほど。僕から見ると、ISAKってグローバルリーダーになろう!みたいな、そういう学校に見えるんですけれども、僕自身はそういう価値観を持っていません。なんとなく岩本さんの顔にもグローバルリーダーになろうとは書いてないから、波長は同じかなと思っています。インターナショナルスクールに小さいころから入れて、バイリンガル教育をしたりして、プログラムもやらせてISAKに行く!みたいなご家庭もありますが、僕はそういう考えはありません。

今村:宝槻さんは、探究という学びの領域では非常に有名な方ですが、今日は、父親として何を今考えて、何を今の生活の中で感じてのかっていうことについてお話いただければと思っています。よろしくお願いします。


「ここに行く」不登校の息子の心に響いた礼文高校

 そして、急遽イベント開始30分前くらいにお願いさせていただきました、かもん まゆさん、自己紹介をお願いします。

かもん:こんにちは。今年の4月、コロナでいろんなことが止まる前の週に息子が北海道礼文高等学校に入学しました。私には子どもが3人いるのですが、真ん中が「自分があるべき場所はここではないのではないか」と多分ずっと思っていて、行くべき場所にたどり着いたというところです。

 去年の今頃は、彼は中学校に行っておらず、お布団に潜って悶々と悩んでいました。でも中学生なので、言語化ができなくて、何で自分がモヤモヤしているのか、どうして学校に行けないのかというのもよく分からなかったようでした。ただ、「ここじゃない」というのは、分かっていたんだと思います。

 そこで「地域みらい留学フェスタに行ってみない?」と息子に声をかけてみました。いつも絶対行かないものは、絶対に行かないのですが、いろんな玉を投げ続けてみたら、「行ってみようかな...」という感じだったので、「じゃあ行こう行こう!」と気が変わらないうちに新幹線で名古屋まで行き、地域みらい留学フェスタに参加しました。

フェスタ様子

 家は千葉なのですが、新幹線乗れるよー!みたいなことを言って息子を連れて行き、10校くらいまわって、お話を聞きました。地域みらい留学では有名校がたくさんあると思うのですが、それこそ有名な高校の校長先生が半被を着て、ノリノリで、先輩たちもすごいプレゼンをしている学校もありました。いろんな学校をまわったのですが、その中で、本当に地味で、ただ1人の先生が座って、ぼそぼそぼそって説明して、「ここ北海道なんですよね。すごく遠くて稚内から2時間かかるんですよ。」と話している高校がありました。私としては「稚内から2時間... ええ~っ!?」という感じだったのですが、それが礼文高校でした。

 フェスタの最後にアンケートを書くのですが、「どこがよかったですか?」というところで、息子は礼文高校に丸をつけていました。「礼文高校ってどこだったっけ?」と私がきいたら、「あの、北海道の」と言われて、「え?あんなとこ行ったら人生変わっちゃうよ!」と言ったのを覚えています。

今村:有名校がいっぱいあったのに、1番目立たなかったところが彼の心に響いたんですね。

かもん:私はちなみに九州のえびの市の高校がいいなと思っていました。いろいろな東京の著名人を連れてきて、地域を活性させているという話をしていて、校長先生もすごい素敵で元気な方だったのですが、息子には礼文高校がすごく響いたみたいで。そこから、ずっと礼文高校1択でした。

 それでもなかなか息子は動くことができなくて、学校にも行くことができませんでしたが、10月に礼文高校に親子3人見学に行きました。父親は「こんなセブンイレブンとかないとこ無理!(笑)」なんて言っていましたが、 息子はもう「ここだ、ここに行く」と。

 その後、自分から中学の担任に「自分で校長先生に礼文高校に行ってきた話をしたい」と、電話したんです。私は知りませんでした。北海道外からは、学校長の推薦を受けないと受験ができなかったんですよね。息子は、当時毎日お布団かぶってたので(笑)、自分から電話なんて絶対しない人なので、本当にびっくりしました。受験も、自分で面接の準備をしていましたが、不登校なのに受け入れてくれるのかとすごく心配していました。受験日前夜、礼文島の宿泊先で面接の練習を何回もして、「なんで不登校だったのか?」と聞かれたら、どう言おうかなどと親子で悩んでいたのですが、面接当日、一切聞かれなかったんです。「なんで不登校だったのか」ということを聞かれなかったことによって、息子は「過去は問わない」「これから先のことを一緒にやっていけるかどうか」ということを問われていると感じたようです。めちゃめちゃ男前な学校だなと思いました。

今村:在校生1200人の千葉県の中学校の子が、全校生徒30人の礼文高校で高校生活をしているということですね。とっても素敵なお話です。


実際どうなの?田舎暮らし。

 では、ここからは、ゲストの方々のお話を聞いていきたいと思うのですが、宝槻さん、実際のところ田舎暮らしはどうなのか、というところが気になります。軽井沢ではどのような生活を送っているのですか?

宝槻:今仕事はコロナの影響もあってオンラインになっています。本当は行ったり来たりする予定だったのですが、ほとんど軽井沢にいて、軽井沢にスタジオもつくり、軽井沢から授業を配信しているという生活をしています。

 生活は東京のときとは全然違いますね。週に2回くらいゴルフ、週に4回くらい露天風呂、週に2回くらいBBQと焚き火を自宅でするという生活をしています。軽井沢はゴルフ場がいっぱいあって、車で5分で行けるんです。ちなみに温泉もですね、星野リゾートの超すごい温泉が、謎に軽井沢町民割引で500円では入れます。東京の銭湯より安いじゃないか、そういう感じです。簡単に言うと、すごい豊かです。

今村: 子どもたちにとっても、変化はありましたか? 日々の様子はどうですか?つまんないとか、言い出さないですか?

宝槻:庭で遊んだり、公演で遊んだり、森を散歩したり、僕と一緒にゴルフ行ったり、温泉行ったりいろいろやるんですけど、結局家にいるときはユーチューブを見ています。その辺はしょうがないかなって思いますが。

 上3人の子どもは風越学園という新しくできた学校に通っていて、その学校がすごい面白い学校なんですよ。チャイムもない、職員室もない、黒板もない、授業もない、時間割もない。「お前ら自由に学べ!」そういう学校です。

 衝撃的だったのが、子どもを学校に送っていったら、「朝の会は今日は教室じゃないです。こっちに来て下さい。」と言われて、手をつないで歩いていったら、森の中に切り株が20個サークルで用意してあって、「ここで朝の会を始めます!」って。「ここ学校なの!?」みたいな。そういう不思議な体験をしています。

今村:お父さんとしては、価値観の変化はありましたか? 

宝槻:東京にいたときは、「えー軽井沢?東京に行くの遠いじゃん!」みたいな感じだったのですが、妻が引っ越すと言い始めました。でも住めば都なんでしょうね。もう都会へは戻れなくなってしまった、という点では価値観の変化があったかもしれません。

今村:岩本さんはどうですか? 最近引っ越したという話ですが、 松江からさらに、どちらへ引っ越したんですか?

岩本:日本海側の漁村に引っ越しました。松江の市内にも30~40分で行けるところです。先月よりちょっと前までは、団地みたいなところで住んでいました。横も上も下も人が住んでいる、密空間に住んでいて、全然体が喜んでる感じがしませんでした。

今村:なるほど、島根の中でも都会だったのですね。

岩本:シティボーイだったんです。松江で人生初の団地で暮らしてみて、こういうところに住んでると、自分が狭くなっていってしまう感覚もありましたし、やっぱり広くて海とか空とかあってっていうところがいいなと思い、子どもをたくさん遊びたい盛りなので、海の近くに月3万円で空き家かしてくれるところを見つけて引っ越しました。

 引っ越してからは、毎日砂浜に行ってパチャパチャやって遊んでいます。やっぱり体からエネルギーが湧いてくるし、すごく幸福度が高い。充実度というか。暮らす場所とか空間ってすごく影響するなとこの1ヶ月でもすごく感じているところです。

今村:まさに、求めていた生活になっているわけですね。


地域みらい留学の帰国子女生の受け入れについて

今村:ここで質問がいくつか来ています。

Q 海外在住ですが、海外で育っているミックスの子供たち(日本国籍もあり)も、この制度に参加することはできるのでしょうか?その場合の日本語能力の基準などありますか?

この質問については岩本さん、どうでしょう?

岩本:学校によってある程度日本語能力の基準などはある程度違う部分はあると思うので、全ての高校がどうかということは分かりません。ただ、僕が島前高校という学校にいた時に、生徒たちを連れてブータンに行ったことがあります。その時にブータンで知り合った日本人の方は、旦那さんがブータンの方でした。子どもはブータンの現地の学校に通っていて、家の中でだけ日本語をちょっとお母さんと話すという子でしたが、地域みらい留学を知って行きたいと言って、今来てます。

今村:高校だから、全員入れるというわけではなく、どの学校も受験があるということですよね?だから、落ちることもあるし、受かることもあるということですね。

岩本:そうそう。帰国子女枠など、都道府県によって、入試の枠は違うと思いますが、日本国籍があって地域みらい留学に行きたいという話であれば、全然ウェルカムですね。結構喜ぶ学校はあると思いますよ。

今村:むしろ、魅力化の1つとして、いろんな国の多国籍言語を話す子が来てくれるということを良しとしている学校もありますよね。だから、それは事前に学校に相談されるといいかもしれません。


息子が日本最北の離島の高校に行くまで

今村:では次の質問です。

Q 地方暮らし本当にいいなと思うのですが、踏み切れる人と踏み切れない人は何が違いますか?

 この質問はかもんさんにお聞きしたいと思います。改めて、超都会家族のかもん家にとって、息子さんの移住はどんな変化があったのでしょうか?家族に変化はあったのでしょうか?

かもん:礼文高校は今年の新入生の内、北海道外からの地域みらい留学生は7名います。宝槻先生も奥様が先に引っ越すとおっしゃったという話でしたが、多分どのお家も、父か母、どっちかがやる気満々で、もう一方は引き気味(笑)というお家が多いように感じました。入試のときに初めて、地域みらい留学生のお父さん、お母さんと会ったのですが、その7人は親友みたいな気持ちで「説得大変でしたよね」「よくここまで来れましたよね」なんて話していました。やっぱりみんな夫婦で考えかたは違うし、子どもを出すことに対しても、「本当にそんなことやって大丈夫なのか?」と感じる方もいらっしゃると思います。

礼文高校

 息子が行った高校はこんなところです。写真に写っている山は、利尻富士。北海道の銘菓の白い恋人のパッケージにある、あれです。私も知らなかったのですが、町の人たちもすごく大好きな山だそうです。

礼文高校位置

 礼文島までは、稚内から船で2時間かかります。初めて息子が行った時はものすごく海が荒れていて、乗船して5分で酔ってしまい、残りの1時間55分ずっとトイレに入りっぱなしでした。

花の浮島

 礼文島はすごく美しい島です。緯度が高いので、平地にも高山植物が咲いていて、花の浮島と言われているそうです。この先に見える島はもうロシア領なのかな?本当に最北端。何も遮るものがないので風がすごく強いと息子が言っていました。今年1期生だったので、もともとあった民宿みたいなところを買いとって、礼文町が寮をつくり、そこに1期生として入りました。

寮からの景色

 息子の寮から見える景色はこんな景色。何もないです(笑)。コンビニまで自転車で30分と言ってました。今年、息子は笑顔で入学することができましたが、思い返すと去年はほんとに苦しい時期でした。

 息子はごく普通の子で、穏やかで優しい子です。小さいころから競争競争という環境で育ってきました。大人数で、すごく厳しいバスケのクラブに入っていて、スタメンに入らないとダメ扱いされる、それに応える生活をしてきました。中学校は1000人以上いる学校で、70人以上部員がいる陸上部に入っていました。成績も良く、無遅刻無欠席の皆勤賞で、高校も姉と同じ進学校に行くと決めていたのですが、中学1年生の終わりくらいからちょっとずつ体調が悪くなっていき、ある日パタッと止まってしまいました。

 本当に切ないのですが、学校の机に自分の目標を貼らないといけなかったようで、私が学校に呼ばれたときに「休まないこと。少しでも努力すること。」と書いた紙を机に貼っていたんです。学校に行けていない時だったのに、これを貼ってるから、なんて真面目な子なんだと思いました。本当に真面目だから、倒れるまで頑張ったんだと思うのですが、その時は全然分からなくて。我々は「昭和チックな親」なので、学校に行かない=サボってる!と思って、学校に「行け!」と。本当に分からなかったので色々ひどいことをしてしまいました。

 ただ学校に行けないだけなんだと思っていたので、「学校に戻さないといけない」「あの入れ物に入れないといけない」と思ってたんですよね。

 知り合いに明橋大二先生という児童精神科医の先生ががいらっしゃって、その方に息子のことを相談していました。先生から、いろいろチャットでアドバイスをいただいたのですが、「フル充電するまで休ませて」と仰る先生に、しつこく私が「でも来年3年生で...」「受験で…」「内申が…」と言っていたら、「来年を考えたら、子どもは行くことができるのでしょうか?」「これ以上子どもを追い詰めて果たして来年まで生きていてくれるでしょうか?」と。そう言われたときに、ああ、学校に戻す戻さないというレベルの問題じゃないんだ。これはほんとに命の問題だし、生き方の問題なんだということに気がついて、そこから私もすごく考え方が変わりました。

 夫は、子どもを愛するあまり、どうしてもこの状態を認めたくない部分があり、「どうして学校に行けないのか」「みんなができることがどうしてできないのか」と思ってしまう部分があったようでした。そんな中、去年の今頃、息子と私は地域みらいフェスタに行き、礼文高校を知り、「パパにも見てもらわないと」と10月に親子3人で礼文高校へ見学に行きました。

 礼文島も、町をあげて地域みらい留学生を歓迎してくれていました。先輩たちは各学年10人ずつしかいなかったのですが、今年もし10人以下だったら、廃校もあり得るかもという話でした。でも、地域みらい留学生を含めた島外生が入ったので、全員で21人になり「とても良かった」と歓迎してもらいました。今、息子は笑顔で、元気よく生活しています。こんな顔は1年以上見たことがなかったので、とても驚いています。

 小さい頃から、「笑うって何?」「どうやってやるかわかんない。」と言っていて、そのくらい繊細な感じの子だったので、この何もない、スカッと抜けたような顔ってすごいなと思っています。「やっぱり人間はいるべき場所が自分で分かっているんだな。私が無理やりに戻そうとしていた学校って何だったんだろう?」って今は思います。


「お母さん、火ってなんだろう?」

ホッケ

 礼文高校を受験するときに、息子と礼文島名物のホッケのチャンチャン焼きを食べたのですが、普通、この網の上のホッケを見て思うことって「焼けてて美味しそうだな」「これちゃんと焼けるのかな」「いい匂いだな」とか、それくらいだと思うんです。でも、息子はこの網の前にいたときに、「お母さん、火って何なんだろう?」と言い出しました。すぐ携帯で調べて「お母さん、火って酸化なんだって」と教えてくれました。

 でも、学校に1000人もいたら、「火ってなんだろうね」っていう子を受け入れることできないですよね。各クラス50人くらいいたら、火ってなんだろう?っていう質問にはいちいち答えていられない。「いいから、ホッケに集中しろ。ホッケが焼けるのを見てろ。」ということになると思うのですが、息子はそこで「火ってなんだろう?」っていう子だから、あーやっぱり厳しいよねって。そういう意味で、1クラス10人とか20人だけの学校で、思いっきり自分が探究したいこと、自分が知りたいことを知れるっていうのは、本当に豊かなことだなと思います。


息子から始まる地域とのつながり。礼文高校の取り組みはまだ始まったばかり。

息子本人が礼文島に行くと言ったのですが、それによって、私たち家族もすごく豊かになりました。全然知らない、1回も行ったことない、名前も知らなかった礼文島を知って何度も行き、祖母たちも「ちょっと行ってみたいみたいな」と言い出したり。関係人口って言葉では聞いてたけど、まさに私たちがそれだなって思います。夫もコロナでちょっとお休みがあったときに、「ヒマだから俺1人で礼文行ってこようかな?」とか言ったりして(笑)。

それから、コーディネーターさんみたいな、どこにも属してない方がいるということが大事だなと思っています。やっぱり学校とか、町とか、親とかなっちゃうと、その立場から話すので、どうしても「子どものために最善のことを」という話にもっていくまでが大変だなと思っていて、それが今まさに私たちがぶち当たってるところです。

今村:礼文高校は地域みらい留学の受け入れを始めたばかりなので、コーディネーターさんがいらっしゃらないのですが、子どもたちにとっては、そのぐちゃぐちゃが見えるのも魅力って捉えていいんでしょうか?

かもん:この間、意を決して校長先生に親たちみんなでお手紙を書いて、「オンラインの面談をやってください」とお願いしました。コロナで色々ありますし、お便りで来週の金曜日に面接と書いてあってもすぐには行けないので(笑)。そんな感じで、今ちょっとずつ進めているところです。来年もまた地域みらい留学生を受け入れるみたいなので、ぜひ後輩を募集しております。


「探究」は内側から湧き出てくるもの

今村:地域・教育魅力化プラットフォームとして提案して地域の方々と一緒にやっている取り組みは、ただ地方に行けばいいというものではなくて、そこにあるただの田舎をとても素敵な田舎と捉え直すような、リフレーミングがカリキュラムや、環境整備にあって、子どもたちの受け入れ体制を変えて行きましょう、ということが岩本さんが提案されていることというわけですよね。それが、ただの田舎が素敵な教育資源になっていくというわけなのですね。

 でも、その環境をどんなに使っても、やっぱりかもんさんが息子さんをそこに導いてあげたというように、ある程度大人の働きかけが必要だと思うのですが、宝槻さん、「探究」という切り口で見ると、さっきの、魚を焼いていて「火ってなんだろう?」という問いはどうですか?都会と地方を両方知っていながら、ご自身がお子さんたちと田舎、森の中いう環境に住んでいる立場から「探究の目の可能性」について、どう見られますか?

宝槻:「探究」っていうのは、その自分が興味をもったことを掘り下げてみようとか、自分が知りたいと思ったことを学んでみようという話で、誰かが「お前これ学べ」と言って、強制的に学ばされている状態とは違います。だから「勉強」とは違いますというコンセプトだと思うのですが、もともと探究は人類の歴史の中にずっとあったわけです。むしろ、勉強のほうがこの150年くらい、近代社会になってから取ってつけたようにやらされていて、もともと人間というのは探究的に学んできましたよとう話なわけです。とはいえ、近代社会の中で勉強させられている子に、もう1回、好奇心、探究心に火を付けるためにどうしようってなったら、例えばレイチェル・カーソンは、『センス・オブ・ワンダー』という本の中で、自然の中に連れて行けと言うんです。森とか海とかに連れて行ったら、子どもは自動的にスイッチが入って学びだすから、と言ってるけれど、僕はこれは、若干嘘があると思います。

 森の中、海の前に連れて行ったからみんながときめいて、学びだすわけないと思います。むしろ、結局森に住んでいるけど森に行かないし、海辺に住んでいるけど、海に行かず、家の中でユーチューブとスイッチとスマートフォンでデジタル漬けになっている子は、この国にはたくさんいると思うんです。だから、ハードウェアの部分で都会から地域、地域から都会って変えることによって子どもの学び方が明確に変わるっていうのは、多分、幻想だと思うんです。もちろんその影響力は強いと思います。身体性とか、あるいは自由度とか。でもやっぱり重要なのは、その子の内側に、何かそれに対する姿勢というものが備わっているのか?というのが、すごく問われている。分からないけど、かもんさんの息子さんは、もともとそういうものを持っていたかも知れないですよね。それが礼文高校っていう場所で都会とは違う形で華やいでいる。そんな気もしなくもないですね。


自分に心地よい時間の流れ方を見つける

かもん:あとは多分時間の流れ方が違うかな、と思います。今私大正大学で92人の1年生のチューターのお手伝いしてるんですけど、オンラインの授業しか今やっていなくて、私は20人くらいのグループを見ています。やっぱり90人だと学生の名前も誰が誰か分からない、という感じになるけど、20人だったら、どの子がどんな子で、どんな事を気にしているのか、1人1人のあだ名まで全部覚えられます。関係性が作りやすいのかなって。

 火ってなんだろうなっていう子って、「火ってなんだろうね」って言った時、先生とか誰かに「なんだろうね」って言ってほしいんですよね。1人で火ってなんだろうねって考えたいわけではない。別に不登校だから暗いわけでもなくて、人と関わりたい、誰かと喋ってもっと知りたいという子なのですが、やっぱり「火ってなんだろうね」っていう子が1人いると全体がまとまらないので、「お前黙ってろ」みたいになりがちだと思うんです。自分も「火ってなんだろうって思う自分がおかしいんじゃないか」って、思えてくる。息子は多分ずっとそう思っていたと思うので。みんなは美味しいしか言わない。火ってなんだろうって思う俺っておかしいのかなって。その時間の落とし方っていうのが、多分礼文のような地域に行くということと合っていたのかなと思います。


「越境」と「リアル」が人の好奇心を刺激する

岩本:僕も宝槻さんや、かもんさんの話を聞きながら本当にそうだなと思います。僕は自然は好きですが、地方や、自然の中に行くということより、「越境」というものが人の好奇心や探究心を強く刺激すると思っています。越境って今まで自分が当たり前だと思っているような、ある種、目もつぶっても生きていけるような日常の中から、その人にとっての非日常に行くわけです。何が起こるか分からないという環境に身をおいたとき、本能的に好奇心や、これってどうなっているんだろうか?という探索が、必然的に起こってくるのだと思います。身を守るという意味においても、異質な環境の中に身を置いた時に、本能的に五感でいろんなものをこれって大丈夫なのか?どうなっているのか?ていうことを考えだすし、刺激を受けやすいのだと思います。

 あとは、オーセンティック(authentic)、本物の、リアルな五感で感じられるものとの出会いから人は強く刺激を受けると思います。やっぱり五感で感じられるものを体験するとか、目の前で何か起きるということ、例えば、怒られるとか、そういう時に「なんでこれってこうなんだろう?」っていう風に、刺激を受けるのだと思います。それを本などから入ってくる情報から、知的に探究できる子もいれば、さっき宝槻さんが「身体性」と言われてましたが、五感を通じてくるものに対して、ものすごくばっと感性が働く、興味が出るという子たちもいるのだと思います。なので、その、オーセンティックなものとの出会い。それが田舎なのか都会なのかというよりは、そういうものと出会う機会や環境が、探究心に影響するのかなと思いました。

宝槻:「越境」というのは、すごい僕も超共感するワードです。だから、田舎に住んでる子は逆に都会に言ってみたらいいんですよね。

岩本:そうそう。

宝槻:逆に島根から大分とかは、あんまり意味がないかもしれないです。それよりは、北国から南の島とか、諸条件の異なる場所に越境してみるっていう体験を思春期のときにもつっていうのは、たしかにすごいなるほどなっていう納得感がありますね。


期限つきの越境

岩本:そういう意味で今年から始める「地域みらい留学365」という1年間だけの国内留学というのは、中学生・高校生にとってもチャンスが広がると思います。「地方 to 都会」もあれば、「田舎の小規模校 to 都市部の大規模校」とか。例えば、全校生徒が30人というところで育った子が、全校生徒が1200人いるマンモス校に行くということは、ものすごく大きな越境で、その刺激たるや良い部分も悪い部分もあるわけです。越境という機会がより多くの子たちあればいいと思います。自分の経験から海外に行くことは良いと思うけれども、海外留学って高校進学時となると、経済的な面であったり、治安なども含めて、ハードルが高いと思います。でも日本国内の地域への留学となると、経済面、治安、言語などを含めて越境のハードルがそこまで高くないと思います。

 それに、地域みらい留学を通して、1度越境の面白さを体で知ってしまった子たちって、わりといろんな越境に怖がらずにどんどん飛び出していく子が多いという気がしています。海外へ行ったり、移住をしたり、仕事を変えたりとか、いろいろな意味での越境、新しいチャレンジをするということへの抵抗が下がるからなのだと思います。

宝槻高校生活3年間より、365日に限定してもらっている方が越境へのハードルが低いっていうのは、なるほどなと思います。例えば、Teach for Americaが、なかなか優秀な大学生たちはみんなグーグルやアマゾンに行ってしまって、なかなか教育の現場にはこないとなった時に、 2年間という期限をつけて募集をかけたら、優秀な学生がガバーっと来たという話があります。それと同じように、永久就職となると都会の子は、「地域は嫌だな」となってしまうかもしれないけど、1年間という期限つきなら、「まあ行ってもいいか」って、っていうのはありそうですよね。

岩本:宝槻さんが言われるみたいに、期限があるっていうのは、最初の越境で踏み出すときの、背中をだいぶ押してくれると思います。僕が最初、東京から海士町に行くとなったときも、3年という話だったんです。それで、「3年なら行けるか」と。何が起きても「まあ3年だったら、人生における修行だと思えるかな」と思って行ったら運の尽きというか、9年くらい行っちゃったわけなんですけれども。


地域みらい留学のその先にあるもの

今村:ここで、また質問が来ています。

Q 都内の私立女子中学に通ってます。担任の先生に地域みらい留学に行きたいと相談したら、その後どうしたいか明確にしないといけないのではないかと言われたそうです。留学後の明確な進路が見えていないといけないのでしょうか。

このあたり、悠さん、かもんさんいかがでしょうか?

かもん:行けなくないですよね。

今村:とりあえず行ってみるという距離感にしてみてもいいと思いますよね。

かもん:分からないですけど、私の経験だと地域みらい留学を知らない先生もいると思います。実際、息子が北海道立の高校を受験するとなったときに、すごく学校が動揺しました。「えー!?」みたいな。「入試も願書も、千葉県とは全部違うから、全部書き方も違うし…」みたいな感じで言われたので。多分先生方のほうが大変なんだと思うんですよ。だから「大丈夫ですよー。怖くないですよー。」って、写真を見せたりとか、先生にその気になってもらうのに色々苦心した気がします。

今村:多分まだ私たちの努力も足りなくて、知名度がある取り組みにはなっていないので、まだご存じないだけかもしれないですね。なので、先生方に新しい選択肢をみなさんが体現して教えていただくと、広がっていく部分があるかもしれません。

岩本:たしかに今村さんが言うように、進路に対する不安というのは、保護者の方も教員の方にもあると思うので、地域みらい留学に行った子たちが、その後どういう進路を結果的に選んでいる情報はあってもいいかもしれませんね。


これからは、「ときめくこと」を仕事にする時代

宝槻:僕ちょっとこれ仮説あるんですけど。要するに、今までの日本って、いい大学に進学するっていうことが、高校までの準備として評価されやすかったわけじゃないですか。結局、地域みらい留学をした子が慶応大学とか東京大学に進学する割合が高いですとかってプロデュースされると、すごい今までの文脈に乗っ取りすぎていて、僕はちょっと違和感があります。

 そっちじゃないわけですよ。要するに、その岩本さんが、就職ランキング5位に入るような人気企業を蹴っ飛ばして、今島根県に住んでますとかっていうのは、慶応とか東大を卒業した人が今大都会のビルディングの45階でパソコンをカタカタやりながら、50億動かしてますっていう大人との結果とは違うわけじゃないですか。

 どっちに魅力があるかっていうと、今までは後者だったわけですよ。大都会の大企業に就職して、大資本を使って世の中を動かすみたいな仕事がSo Coolっていう価値観だったし、またそこが高収入が得られるし、高ポジションだから、承認欲求も満たされるというということだったのだと思います。僕はそういうのを、ファンクショナル(functional)産業と呼んでいます。でも、便利で役に立つファンクショナル産業が、これからどんどんロボットやAIとかを組み込んで、人間から仕事を奪っていく可能性は十分ありえるわけです。それよりも、ときめく仕事をするってことのほうがSo Coolな時代になる可能性は十分にあります。ときめくというのは、大都会で大資本を使って大金を稼ぐ仕事とはまたちょっと違うんですよね。例えば、地方の田舎に焚き火レストランをやって、人々をもてなしするというのも、すごくときめく仕事。あるいは、田舎の海辺で海の家をして、来た観光客を楽しませるとかもすごくときめく仕事。そういう仕事のほうが、より人間的でより面白みがあるよねっていう価値観が一方で膨らんでいると。だから、そういうのをエモーショナル(Emotional)産業と僕は呼んでいます。

 そういう担い手になる可能性があるのであれば、十分にその高学歴ルートっていうのを手放して自分の将来を探究してみるという意味で、既存のルートから離れてみるという越境体験は極めて戦略的に良いんですよね。ただ、お父さんお母さんが、今の2020年くらいだとそこまで腹決められていなくて、「いや、やっぱり就職に有利な大学進学が保険かけておかないと...」とか思ってしまっている人はだいぶ多いから、そういう意味でも地域みらい留学というのが、まだキャズムを超えられていない部分があるのだと思います。でも、だからこそ積極的に、大学進学率ということとは別軸の価値観として、地域みらい留学をプロデュースをしていくということが重要だと思います。


「越境体験」そのものに価値を置く、地域みらい留学の在り方

今村:これはね。難しい問いですよ。去年、実は地域みらい留学に出している保護者の方々で飲み会をする場に私も居合わせたのですが、宝槻さんが言っているポイントで意見が分かれたんです。とある方は、地方に行ったのに、こんなにインターナショナルだったとか、イノベーティブだったみたいなポイントで地域みらい留学を語っていました。例えば、都市部の子がちょっとハイスペな子が高校に行っていたけれど、やめて地方にの学校に行ってみたら、地方で自然豊かな環境なのに、探究的でイノベーティブな環境だったと語る人もいました。

 一方、とある別の島に送り出している親御さんが、そっちじゃないと。むしろ、あの島にしかない人間関係とかリズムが好きで行っているのに、その先の進路保証とか、そういうのことではないのだけれど、地域みらい留学はそっちで行くんですか?と、その部分を運営側に問いかけられました。

 そこは私たちとしても非常に悩んでいるポイントなわけですね。やっぱり、地域みらい留学を知っていただきたい人たちのマスは既存の価値観の中にいる方たちなので、まずはその方々に地域みらい留学について知っていただいて、導入のところで興味をもっていただくのには、やっぱり伝え方のところは、「地域にいながらにしてあったイノーべ―ティブ」みたいなところになるわけです。すごくマニアックな内部の話題になってしまいましたが、そこの捉え方というのは、すごく難しいところなんです。

宝槻:だから、逆に今これを聞いている中学生・高校生やお父さん、お母さんにこの地域みらい留学に期待しますか?と言った時に、何を求めているんだろうねっていうところで対話をしながら、地域みらい留学のベネフィットっていうもの紡いでいかないとですね。そこにずれがあると、一行に噛み合わないということになるのだと思います。

今村:あとは、地方に行ったのにそんなにイノベーティブじゃなかったと怒る方もいらっしゃいました。地域にいっても、やっぱり同調圧力の嵐だったと、がっかりする声が聞こえてくることもあります。

かもん:私も去年の今頃は脱力していましたけど、やっぱり子どものことは信じて放つ、放たないとだめなんですよね。いつか、どこかしらで放つことにはなると思うのですが、放ち方としてどこかの島や遠くを選ぶということだけで、その先の大学ってどうかしらとか、そこは親が干渉することではないのではないかと思います。もちろん、私も心配はしていますし、地域みらい留学を検討してたときは、大学とか行けるのだろかと考えていました。具体的に言うと、うちの息子だと、順調なら偏差値が65とか67くらいの学力があったのですが、礼文高校は39くらい。多分、島の子たちしか居ない高校なので、もちろん中には頭がいい子もいるんだけど、偏差値で見ると、そうなるのだと思います。もっと偏差値が高いところに行きたいという子は、札幌とかに親が出しているんですよね。息子は学力という軸ではない、別の軸に何かを感じたから礼文高校に行くことを決めたのだと思います。

 この間、礼文高校に見学にいったとき、こんなことがありました。今までだと、息子は40人とかいるクラスにいたわけですよね。40人もいるから、いろんな人がいて多様性があるような感じはあります。一方で、礼文高校には1学年10人しかいないんですよね。見学に行った時は、授業でバレーボールやっていたのですが、そうなると足りないんですよ。5対5になるので、すでに足りていない(笑)。中には、下手な子もいるわけですよね。ちょっと運動が苦手で、ボールを落としちゃうような子もいるわけです。

 これがもし1クラス40人もいるような学校だったら、「あいつ外せよ」「だめだだめだ、違うやつにかえろ」とか、上手な子たちしか出られなくなって、選抜メンバーみたいなことになってしまうのですが、礼文高校では、人数がいないから、その運動が苦手な子も活かさないといけないんですね。だから、その下手な子も含めて一緒に勝てるように、どうにかしないといけない。逆に豊かな多様性を認め、活用方法を模索せざるを得ない。それって本当に自然とおんなじで、みんな違うけど、全体として調和しているというか、それを見た時にすごいと思ったんですよね。

 やっぱり一人ひとりを大事にしないと、その調和って生まれない。会社にはいっても、どこへ行っても、他の人を認めつつ自分も輝くということって、大事なスキルだと思うんです。やっぱり40人だと、同じことをぴしっ!と、右なら右!みたいなことをちゃっとやらないといけなくなってしまう。逆に個性を出したら、陽キャとか言われちゃうらしくて。陰キャとかそういう言葉があるらしいんです。そう考えると、さっき皆さんもお話していたように、越境や行ったり来たりして、自分の居場所とかを変えることで見えるものっていうのは絶対にあるし、それが若いときのほうが、面白いのかなと思います。

宝槻:若いときにほうが面白いというよりは、若いときに越境体験というものをカルチャーとして獲得しておかないと、おじさん、おばさんになってから越境してくださいっていわれても、時間切れっていうことなんじゃないですかね。

今村:家族とかもっちゃうと、行けないっていう条件も揃ってきますからね。

宝槻:今聞いていて思いましたが、地域みらい留学で何を得られるかなんて、そんなの分からない。だいたい北海道に行くのと、沖縄に行くのだって違うわけです。だから、何を得られるかっていうのは、「結果」ではなく、「プロセス」としての越境というそこにのみ価値があるんだと言い切ってしまって、残りの部分は知らんと言ってしまう。でも、越境しない二十歳までの人生と、越境した二十歳までの人生は、明確に違うんじゃないですか?と言いつつ、越境したことがある僕もそうだし、今村さんも岩本さんもそうだと思いますが、自分の中の越境体験が今にどうつながっているのかということを、ひたすら語っていけば、越境せずに留まっていることの方が逆にリスクだというのを人々が感じて、期限つきの越境をまずはやってみようかな、という気になるかもしれないですよね

今村:越境を流行らせようということですね。では、最後に一言ずつ。代表理事の岩本さんどうでしょうか。途中から、地域みらい留学のコンサル時間みたいになってきていますが。


越境の価値を出していくこと。軸は自分軸。

岩本:コンサルいただいて本当にありがとうございます。今回のイベントを通して学ばせていただいたことが大きく2つあります。1つは、地方の田舎の魅力みたいな出し方は、それはそれであっていいと思うんですけど、僕はやっぱりその、「越境の価値」というものをもっとちゃんと言っていいんじゃないかっていうことはすごく思いました。それが田舎だろうと、都会だろうと、越境して行くこと。さっき若いうちに越境をしないとという話もありましたが、自分が変わりたいとか、環境を含めて変えたいって思うのって、年齢というよりも青春的な若さだと思うんですよね。年をとってしまった人たちって、「自分はもう変わらない」となってしまう。そういう意味でも、越境の価値っていうのを、勝手に越境学会みたいなものをつくっちゃって、やっていこうかなと思いました。

 2つ目は、やっぱり進路とかキャリアとか、その先の結果が何なの?それで何が得られるんですか?みたいな人がいる中で、数字で示すという何割が国公立難関大学行きましたみたいな話よりも、軸は自分軸にすることの大切さに改めて気付かされたました。自分軸で生きているっていう、ストーリーを伝える。こんな生き方、あんな生き方をしているっていうことが、やっぱり「自分らしく在る」ということで、自分の幸せに向かって生きていくということが多様に起きていってるっていうこと。その価値をコミュニケ―ションしていくことの大切さを感じました。そういった生き方の集まりの一つが難関大学に行っても幸せだった子もいるかもしれないし、高卒で就職してとか、漁師になってもそれで幸せで、みたいな子たちも当然いる。そんなことを社会とコミュニケ―ションしていくってことって、これからすごく大事だなっていうことを痛感させられました。


コミュニティ再起動のエネルギーになる、越境力

宝槻:じゃあかぶせますね。ここに『NEW TYPE ~ニュータイプの時代 新時代を生き抜く24の思考・行動様式~』という山口 周さんの本があります。この本すごい売れたんですけれども、この中にもやっぱりオールドタイプは1つの組織にとどまるが、ニュータイプは組織を越境するという言葉は出てきています。更にいうと、2030年、2050年とかになってくると、会社に所属するより、プロジェクトに所属するという感覚のほうが社会人強くなると思うんですよね。だから、1個の会社で1個の仕事をする人のほうがレアで、いろんなプロジェクトという単位の仕事に越境しながら人生関わっていくことになる。そのときに、コミュニティをもう1回再起動していくということが1番大変だし、1番時間がかかるんですね。人間って、地域に住んだら地域のコミュニティがあるし、転職すれば、転職先の会社のコミュニティがあるし、そこをもう1回再起動していくためのエネルギーがものすごい問われるわけです。でも、小さい頃から越境を練習することでコミュニティの再起動というものを練習できると、その子は越境性が強い子になるんじゃないかなという、今日はその部分をすごい改めて感じさせられた90分になって、僕も勉強になりました。


花が咲くかはその子次第。でも、越境力は必ず人生の財産になる。

かもん:今、私は防災の話をして全国をまわっているのですが、その時にいつも聞かれるのが、「どんなリュックが1番いいんですか?」とか、「どうしたら絶対助かりますか?」ということです。100円入れたらジュースが出てくるみたいな正解を、「先生なんだから知ってますよね?」みたいな感じで聞かれるのですが、災害や地震って自然のことなので、こうしたら絶対正解なんてことはないんですよね。

 出産とか育児も同じ。親が同じ態度をしても、子どもたちは全員違う反応が返ってくる。なので、うちだと子どもが3人いるので、3つ植木鉢をもらったと思っています。私にできるのは自分が育つことじゃなくて、水をあげるとか、虫をとるとか、ちょっと曲がったらぐって押さえるとかそういうことくらいしかできないわけです。花が咲くかどうかとかは、その子の話なので、親と子どもがぐちゃっと一緒になっちゃって、「地方で良い体験できると思ったのにってなんで?」と親が怒るというのも違う気がします。なので、そこは、この人はこの人の人生を生きる、と捉えられるといいのかなと思います。

 もしこれから「もう礼文イヤだー」とか言って帰ってきちゃったとしても、地域みらい留学という経験は無くならない。この後の人生の中で、苦難があっても「あの時は越境できたよね」って言えるかなと。なので親も子もビクビクしないで、親ももっとドーンと構えて、「思い切りやっていいよ!」みたいな感じで、出してくれるといいなと思います。去年の今頃は、私も「礼文!?どうしようー」とか言っていたのでそんなに偉そうなことは言えないのですが、今、山を1つ超えて考えると、「よっしゃ、分かった!やってみなはれ!」と言えばよかったな、かっこよかっただろうなと思っています。

※ 本記事は、2020年7月11日の地域みらい留学LIVE「探究で切り開く自分の未来 ~なぜ地域で子どもを育てるか~」のイベントレポートです。


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