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狩猟を始めた先に見えた自分の生き方。感覚と思考を両立させて、社会を見つめたい。ー有田麻梨奈さん

最近、友人が狩猟を始めたらしい。

狩猟とはその名の通り、山の中にいる獣を狩ること。
密猟や乱獲と連想されて、あまりよくないイメージを持っている人もいるかもしれない。しかし、狩猟をしないと山の動物が増えすぎてしまい、畑を荒らされたり、道路上での交通事故に繋がってしまったりする。命を奪う仕事だが、遊びでやっている人は少なく、無意識に肉を食べている私たちより、よっぽど命と真摯に向き合っている人たちだ。

都市で暮らしていた彼女はなぜ狩猟を始めたのか?
そして、その狩猟という経験を通して感じた、彼女の生き方や働き方について聞いてみた。

<ゲスト紹介>
ありまり(有田麻梨奈さん)
新卒で務めた企業を半年で辞め、Change Makers' College5期生として陸前高田市広田町に移住。今は広田町を拠点にお菓屋さんをしたり、野菜を配ったり、牛の餌やりバイトをしたり、CMCの”ネイチャーダイブクラス”のコーディネーターをしている。
最近のキーワードは宇宙、仲間。

狩猟は自分の「本能」と向き合う時

ーありまり今日はよろしくお願いします!まず、狩猟に行こうと思った理由を聞かせて!
 猟師には大学生のころから興味があったの。偶然、食人族を扱う映画を見て、「人間も動物やん」とすごく衝撃を受けた。でも、普段私たちは肉を食べているけど、全然殺していないし、そんな感覚も持っていない。私はそのことに違和感を持って、いつか自分で命をいただくところから関わりたいと思ってた。そして、それが出来るのが「猟師」という仕事だと思っていたから、猟師に興味を持つようになったの。その後、東北に移住して、近くに住んでいる猟師さんと繋がって、今も狩猟に連れて行ってもらってる。

ーなるほど。実際に猟を体験してみてどう?
 狩猟のプロセスの中で、自分の動物本能と向き合っている感覚があってすごく面白い。狩猟で命と向き合いながら自分の感情を観察すると、苦しさだけではなく、どこか興奮する自分もいて。その時、狩猟って人間の本能に近い行為をしているんだなと実感したね。
 人間は今までいろんな命を奪って、命をつないできたから、狩猟という行為も苦痛だけではなく、ある程度の喜びもないとできないし、生きていけない。だから、狩猟をしていると、思考では説明できない自分の本能的な感覚と向き合えている気がして、すごく自分の幅が広がった気がする。

ー狩猟をしてみて、食肉とかに対する意識は変化した?
 体験するまで、狩猟は「食肉」への問題意識とか、ビジネスとしてはどうなんだろうという視点で見てた。でも、今は食肉は本質的に人間の欲求にすごく繋がっていると思うし、その他の物事も人間の理性というよりも、欲求がすごく関係していると思ってる。だから、今は食肉以外の問題に対しても、自分の思考だけじゃなくて、感覚とか本能の視点からも見たいと思うようになった。極論を言うと、私動物になりたいんだよね(笑)。

ー(笑)。「動物になりたい」とは?
 ちゃんと生身の自分で、自分の肌感を大事に、生きていきたいということかな。私は昔から何事も根源を知りたい!本質を知りたい!と思うタイプだった。でも、人間はいろんなことに対して「理解」しようとするとき、どんどん境界線を引いちゃうでしょ。でも、その境界線って人間が勝手に決めた線だから本質にはなかなか迫れないと思う。だから、私は理性や思考だけで物事を説明しようとするんじゃなくて、もっと自分の本能とか感覚を大事にしながら物事を認識したい。感覚や本能で見る世界は、もっと本質に迫れそうな気がするし、理性と本能の2つの目線を持っておくと、もっと自分の見える景色が広がる気がする。

ー本質に迫るためには、自分の説明できない部分を受け入れることが大事なのか。なるほど…。

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(実際にさばいた後のお肉。ジビエと呼ばれる)


競争社会で生き抜く力だけでなく、ちゃんと人間として生きる幅を広げたい。

ーありまりはすごく物事の本質を見たい人なんだね。
 そうだね。あと、狩猟をやっている理由として、自分の生きる幅を広げたいっていう想いもある。私はなぜか昔から、どこでも、どんな環境でも、生きていける力を持ちたいと思ってた。だから、昔からサバイバルに興味があって、学生時代もアフリカに行ったり、無人島に行ったりしてた(笑)。できるだけ、自分の力で生きていきたいと思っていたし、自分の生きる限界値を知りたかったんだと思う。

ーすごいね…。生きることにストイックだね。
 (笑)。誤解しないでほしいんだけど、私エアコン好きだし、そういう文明の利器はちゃんと使ってる(笑)。でも、私は自分の肌感や感覚をすごく大事にしたいから、それをダイレクトに感じられる生き方もしたいんだと思う。そうすると、自分の生きる選択肢もふえるし。それがサバイバルへの興味につながってる。


ー生きる選択肢を増やすというと、世間では専門スキルを増やすとか、キャリアアップするとかよく言われるけど、それは選択肢に入らないの? 
 いや、それも選択肢に入ると思う。私にとってキャリアとサバイバルは全然違う力なの。キャリアアップは競争社会の中で生きていくスキル。サバイバルは人間として暮らしていけるスキル。だから、異なる2つの生きる力を持っていたら、資本主義の速いペースの人生の中でも、自分のペースで進んでいけるようになるのかなと思ってる。

ーなるほど。生きるスタイルを2つ持っておくことで、自分の生きる選択肢を増やしているってことね。
 そうそう。私は会社勤めも経験しているけど、自分がその場所にしっくりこなくて、会社にいる自分に自信が持てなかったの。だけど、東北で猟師や漁業、ものづくりといった、小さな仕事を積み重ねながら生きている人にたくさん出会った。その人たちはお金をいっぱい稼いでなくても、すごく楽しそうに暮らしてるんだよね。その姿を見ると、自分の趣味を小さな仕事にしながら暮らすこともできるんだと、新しい生き方の軸が見えたの。そう思うと、すごく生きやすくなったね。

ーじゃあ、これからは猟師も一つの仕事にしていく予定なの?
 そうだね。いずれは一つの仕事としても出来ればと思ってる。私はお菓子作りも好きだし、ビジネスコンテストに応募するのも好き。だから、今は自分の肌感と思考のバランスがとりやすい、小さな仕事をたくさんする暮らし方が出来ればと思ってる。そして、その小さな仕事が繋がって、自分が社会に対して思っていることが表現できるようになるといいな。

ーすごく良いね。少し先に、ありまりがどんな人になっているのかすごく楽しみです!今日はありがとう。
 こちらこそありがとう!

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(漁師さんの後ろ姿)

編集後記
ありまりの話を聞いて、「人間は動物なんだ」という至極当たり前のことを思い出した。

近年私たちは「フードロス」や「環境破壊」といったいろんな問題と向き合おうとすると、先に統計や記事などを検索して、「頭」で捉えようとしていまう。すると、「問題」としてしか切り取られていない物事しか見えなくなる。それって実はすごく視野の狭い捉え方かもしれない。
むしろ、自分がコントロールできない感性を認識した時、私たちは初めてちゃんと、世界に向き合うことが出来るのかもしれない。

コロナ下で視覚と聴覚と思考にどんどん偏りがちな日常の中、ありまりの「肌感を大事にしたい」という言葉は、心にまっすぐ響くみずみずしい感性だった。


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(インタビュー/執筆 外村祐理子)


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