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【広田で暮らす人の背中vol.1】リンゴ農家さんの背中から見る「スキル」の話

「これからはスキルが大切。」「専門性を持つことを意識しなさい。」
私が就職活動をする中で、何度も耳にした言葉だ。

これからは副業が当たり前になり、働き方がすごく流動的になる。その中で、市場価値が高い人間になるには「スキル」が必要だ。そういう話を何度も聞いた。
だから、気になる企業を見つけた時も「自分はここで何を得られるのか?」「自分がどういうスキルを身に着けたいのか?」という問いが、印象に残った曲のサビ部分のように、何度も脳裏をよぎった。

でも、考えれば考えるほど、「専門性って大学院とか行かないと無理じゃね?」や「専門性って結局資格なの?」と、自分の中でも「スキル」の概念がどんどん崇高なものになっていった。そして、「私には何も持っていない」とすごくネガティブな気持ちになっていた。
「結局スキルって何なの?」とモヤモヤした。

そんな時、縁があり4か月東北に住むことになった。
4か月住んでいる中で、私のこの問いにヒントを与えてくれたのが、リンゴ農家でのアルバイト体験だった。
今回はリンゴ収穫バイトの中で気づいた、スキルに対する私なりの答えを、ここに置いていきたい。

リンゴ無限収穫アルバイト

まず、私が行ったアルバイト、通称「リンゴ無限収穫バイト」について紹介したい。

私が住んでいた広田町という地域では、たまに「こんなアルバイトあるらしいよ~」という風のうわさのような求人情報が入ってくる。そんな時は「私そのアルバイトやってみたいな~」とゆるめに伝えると、気が付いたら何日にここで!みたいな感じで決まる。履歴書も、面接も一切無し。紹介制だから成り立つものだ。

今回のリンゴ収穫バイトもそんな感じで、お手伝い感覚で1日だけ参加した。
内容は名前の通り、ひたすらリンゴを取りまくる。
農園はテニスコート2面分くらいあり、1メートルずつ間隔を開けて、リンゴの木が50本以上生えている。さらに、リンゴの木1本につき、20個くらい実がなるので、1日で簡単に作業が終わらない。シンプルに「リンゴ無限収穫バイト」なのである。
といっても、農家さんは「ゆっくりでいいよ~」という超穏やかな人で、農園もすごく自然豊かなところだったので、単純作業でも穏やかな気持ちで、一つ一つリンゴをもいでいった。

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(一面リンゴの木。)

リンゴ農家のおじさんは一言で言うと「ダンディ」な人だった。
小柄で、顔も体も引き締まった引き締まっていて、とてもスマートな印象。年齢は多分70歳前後だが、動きは俊敏で、20キロくらいある箱を何十回もトランクに積み込んでいた。農園も基本的に一人で管理しているらしい。
基本的に無口。だけど、リンゴの取り方や私たちの質問には、心地よく低い声で答えてくれた。(方言のせいで半分くらい聞き取れなかったが。笑)

農家さんは俊敏な動きと丁寧なマインドを持つ、ダンディな大人だった。

農家さんが明かした意外な「副業」

リンゴ農家さんはすごく優しくて、頻繁に「お茶っこ」という名の休憩をしていた。
無口な人だけど、質問にはすごく丁寧に答えてくれる人で、一つ一つのエピソードや想いを語ってくれた。

リンゴ農家を40年以上続けていること。
リンゴ農家は収穫以外にも、木の剪定(実の部分の間引きや、木が成長しやすいように枝の形を整えること)をしなければならず、お休みは正月とお盆に数日ずつしかないこと。
大変なことは多いけど、自分のお店にリンゴを買いに来てくれた人が「今年もおいしかった」と言ってくれる時が一番うれしいこと。
そして、春に咲くリンゴの花は桜にも負けないくらい、美しいこと。

その後に、少しいたずらっぽい顔をして「実は、今でもアルバイトやっているんだ」と話してくれた。

なんでも、今は村の中でも木の剪定をできる人がほとんどいないらしく、農家さんが村中の家や農園を回って、剪定のアルバイトをしているらしい。
大したお金にはならないし、農園の合間を縫ってやっているからすごく忙しい。でも、みんなに感謝されるし、そのお金で晩酌用のお酒が買えるからいいんだ。と照れくさそうに話していた。

ハサミ1本で、木と向き合う、剪定という技術。
リンゴ農家さんの話は、私が就職活動の中で聞いた「デザイナー」や「マーケティング」といったキラキラした響きはなくても、誰かが確かに必要としている、手触り感のある「スキル」だった。

私の中で「スキル」という言葉が初めて立体感を持った形で現れた気がした。

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(収穫したリンゴを選別している様子。商品にならないものが多すぎて、びっくりした)

「スキル」って結局なんだろう?

今振り返ると、この経験が「スキルってなんだろう?」という問いに対するヒントを与えてくれた気がしている。

就職活動の時に聞いた「スキル」や「専門性」といった話は、あくまでも「自分のキャリア」や「安定した収入のため」といった自分軸で話されることが多かった。だから、高収入で専門性のあるスキルを取らないといけないと、自分の中で「スキル」というハードルを上げてしまっていた。

でも、リンゴ農家さんはハサミ一本で、人に頼られて、人助けをしていた。
その背中が「スキル=人の助けになること」というシンプルな答えを私に提示してくれた。
つまり、「スキル=自分のできること×その場所にないこと=人助けになる」というシンプルな構図だ。

これはすごく当たり前なことだけど、こう考えることによって、「自分の持っているスキル」にちゃん目を向けられるような気がしている。
私にも、まだ目に見えたスキルも専門性もない。でも、このプログラムに「文章を書く人がいない」ことを見つけ、「私が書いてみるよ」と言って、今もこのnoteで記事を書かせてもらっている。

他にも「お菓子屋さんがない。私お菓子作るの好きだから作るね!」と小さくお菓子屋さんを始めた子もいる。そうやって、自分にとってはささいなことでも、実は役に立てることがたくさんある。
そこを入口にして、探求していけば、気が付いたら立派な「スキル」になるはず。
今はそう思っている。

何かを得ようをする前に、自分にあるものをしっかりと見据え、小さなことからやってみる。
リンゴ農家さんの優しい背中から勝手に教わった、私の大事な教えだ。

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(その日の夜ご飯。80キロくらいリンゴをもらってきたので、私たちはしばらくリンゴが主食になっていた。笑)

(執筆/編集 外村祐理子)

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