【回答編】コピーライティング入門講座「織姫と彦星、愛のラブレター」
前編の「出題編」はこちら
彦星から織姫への愛のラブレター
このまま渡してしまって良いものか!?
文才はあるが、やや傲慢で独りよがりな、文乃彦。
彼にラブレターの代筆を依頼した、彦星。
二人は、文乃彦が書いた織姫への愛の便りを眺めながら、激論を交わしている。
「そうやって、あーでもないこーでもないって腹を決めないから、いつまで経っても何もできないんだろう?」
「それは、そうなんだけど、織姫にがっかりされたらもう二度と会えなくなるかもしれないんだよ!」
いつもは穏やかな彦星だが、今回ばかりは本気なようで、なかなか折れようとしない。
見かねた文乃彦は、新しい提案をした。
「確か、言葉を扱う天女がいただろ。郵便屋に行く前に、天女に意見を聞いてくるか?まあ、俺の書いたこの文章にケチをつけるやつなんかいるはずねえけど!」
「是非とも、天女さまのご意見を頂戴したい。よろしく頼む!」
彦星の家から郵便屋までは少々距離があり、途中に一度山がある。その山の頂上こそ言葉を扱う天女:呼比の姫の邸宅の位置する場所であった。山の頂上付近に着くころには、あたりは薄暗くなっていた。
木々に囲まれた小道の奥に、ひっそりとたたずむ小ぶりな邸宅。しんと静まり返った山の中、どこからともないカラスの鳴き声だけが聞こえる。屋根の上から、一匹のふてぶてしい黒猫が座ってじっとこちらを見ている。表札は出てない。
「ごめんください……、ご、ごめんください!!」
誰も出てこない。
もう一度、呼んでみる。
「呼比の姫!呼比の姫!いらっしゃいませんか?!」
冷たい風がぴゅうと通り過ぎた。ガサガサと草むらが揺れる。いつの間にか黒猫はいなくなっていた。彦星と文乃彦は、顔を見合わせた。意を決してもう一度呼びかけた。
「だ、だれか~!!!開けてください~!」
しばらくして、扉がゆっくりと開きはじめた。すごく長い時間に感じる。二人は息をのんだ。
「んもう。何よ、今晩はのんびり過ごそうと思ったのに鬱陶しいわね」
扉が開いて、ふわっといい匂いがした。白い羽衣に身を包んだ呼比の姫がゆらゆらと現れる。全体的に優しそうな雰囲気だが、表情からは知的な鋭さを感じる。
ほっとしたのもつかの間、彦星は深々とお辞儀をしながら言った。
「お休みのところすみません!どうしても呼比の姫さまに見ていただきたい文章がありまして。なにとぞ!」
「んもう、顔をあげてよ。…あら、誰かと思えば、天帝を怒らせたことで有名な彦星君じゃない。気が変ったわ。どうぞ」
適当にあしらって追い返そうと思っていた呼比の姫だったが、彦星の顔を見た瞬間に様子が変わった。呼比の姫は世情に敏感なお姫様なのである。
文乃彦はあらぬ妄想をしていた。
手紙の内容を絶賛され、書いたのが実は彦星ではなく文乃彦だと知れば、呼比の姫は俺にぞっこん間違いなし。もしかしたら、逆プロポーズも夢じゃない……!?
今回のラブレターの問題点とは?
プロの目線からのアドバイス
彦星があらあらの状況を説明し手紙を渡すと、呼比の姫はゆっくりと手紙を読み始めた。
読み切ったと見えて3秒、目を瞑る、そして確かに言った。
「書き直し…ね」
文乃彦は青ざめた顔をしていた。
「あ、あの、何をどのように書き直せばよいのでしょうか?」
おずおずと彦星は尋ねた。
呼比の姫の声色は思っていたよりも明るかった。
「基本前提、恋人同士のやりとりなのだから、何を書いたって正解不正解はないと思うの。文章もすごく綺麗だし、例えば、『貴女』から『織女さま』の切り替えも見事よね」
ただ…、と呼比の姫は続ける。
「ただ、今回の目的は織姫さまの結婚生活に関する不安を解消して、愛を伝えなおすことが目的なのよね?その割に、この手紙からは具体的にどんな不安を、どう解消するのかわからない。つまり『彦星』の覚悟が見えないのよ。そのあたりが乙女心的には惜しいかな~」
文乃彦のプライドは虫の息だった。
「実際のところ、彦星くんはどうなの?そのあたり。織姫のために、何をする?」
ゆっくりと絞り出すように、彦星は考えていた。自分が織姫様のためにできること。何があるのだろうか。
「変わります。僕は過去、恋の虜になって生活を疎かにしてしまった。今後は気持ちを入れ替えて、織姫様との結婚生活を守り切れるように、夫としも仕事人としても、まじめに生まれ変わります。もうあの頃の僕ではないと知れば、織姫様の不安は晴れるでしょうか…」
呼比の姫は「答えは、貴方の中にあるはずです」といい、手紙に関して他に何も言わなかった」
プロのコピーライターによる講評・アドバイス
アドバイスを元にリライトしたラブレター
どのような仕上がりになったのか?
彦星は、心なしか小さくなった文乃彦を一度家に送り届けてから、再度手紙の執筆に取り掛かった。
今度は、一人きりではない。文乃彦が作ってくれた叩き台と、呼比の姫からの助言がある。
彦星はもう一度、手紙を書くために一人で夜を明かした。
「書けた……」
文乃彦の書いてくれた手紙を見た時のように、もう一度想像した。
織姫はがっかりしないだろうか。
いや、なんとなくでしかないけれど、前のように絶望されることはない気がする。
彦星は、郵便屋で速達の手続きをすると、家に戻り、牛飼いの仕事に戻った。
【改訂版:彦星から織姫への愛の便り】
彦星から送られてきた手紙を見て、微笑む姫君が一人。と、侍女が一人。
「どうして、あんなご要望をなさったんですか?」
侍女は織姫様に尋ねた。すぐに会いに行けばよかったのに、と言いたげである。織姫が彦星との結婚生活を夢見て仕方がなかったことは、侍女にとって明白だった。
「不安があったのは嘘じゃないの。………遠距離恋愛も最後になると思ったら、それはそれで寂しかったから」
愛おしそうに手紙を撫でる指先がやわらかい。
でも、こんなに本気で悩んでくれると思わなかったな、と織姫は怒られた後の子どもみたいに笑った。
「織姫様から見て、このお手紙はいかがでしたか?」
「ん?もちろん、満点!」
ばっちり整えた嫁入り道具を引っ提げて、織姫の最後の旅路が幕を開ける。
エピローグ
~彦星と文乃彦~
夜な夜な、山を登る青年が二人。
「ったく、お前ってやつは、まだそんなに頭を抱えるようなことがあるかよ」
「あの手紙を送って、結婚生活が再会できたのは良かったんだけど……、織姫様が甚く感動してくださったみたいで」
「『彦星様、あの愛のお便りは一度きりですか……?』なんて言われちゃってさ」
「味を占めたってわけか」
「まだまだ修行が必要なんだ……。文乃彦は?どうしてまた呼比の姫へ会いに?」
「あいつ、どんな文章を見せても、二言目には『書き直し』だ」
奥深い山に文乃彦の声が響く。
「今度こそ、あっと言わせてやるんだ!!待ってろ、呼比の姫ぇぇぇぇええ!!」
最後に
目で見て、耳を傾けて、心で聞く。そうして、気持ちを拾い上げて最後に言葉を紡ぐのがコピーライターの仕事。
今回、ラブレターの添削に快くご協力くださった近藤智子さんですが、「コピーライター」の仕事についても詳しくお話しくださいました。
テーマは、AIとコピーライティング。
遠くの誰かに会いに行くことさえ一苦労だった時代を経て、技術開発が目覚ましい現代、AIの台頭によって「コピーライターは淘汰されていくのか?」近藤さんにストレートにお伺いしています。
近藤さんのお話は、12月4日から12月10日まで開催のCONTENT MARKETING DAY2023にて視聴可能。参加費無料・オンデマンド配信型のイベントです。
コピーライトの枠組みを超えて、誰かと働くことの意味を見直すことのできるセッションとなっています。
本記事やCMDのイベントを面白がっていただけたなら、幸いです。
きっと、また次もお会いしましょう。
最後に織姫・彦星の末永い幸せを願って栃木県足利市の「足利織姫神社」に詣でてきましたので、レポートをお届けします!
ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました!
みなさまのCMD参加を、一同お待ちしております!!
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