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天候、活動からの水分補給予測の可能性-大濠公園で行ったテスト例

はじめに

天候、行動・活動、脱水量や必要な水分補給量の相関はどうなのだろうか?天候や行動・勝℃により必要な水分補給の内容が予測できれば、個人の健康管理、チームでの安全管理・コンディションチェックに大きく役立つし、水分の準備やロジスティクスの手間が軽減され、回り回れば水資源の有効活用にもつながり、地球環境を守ることになるかもしれない。

直観的には、暑くて運動量が多ければ必要な水分の量は多くなるし、また水だけでなく塩分やミネラルも補給する必要が出てくる。そして、実際に、海外での各種論文でもその相関が証明されてきている。暑くて運動量が多い時にはスポーツドリンクも必要だが、スポーツドリンクへの過度の依存は弊害が多い。

そこで、気象条件、私自身の運動の内容、水分補給内容、脱水量を比較して、自宅に比較的近い福岡市の大濠公園の周回走行、歩行などを通じ、水分補給量の予測の精度につきテストしてみた。

1.方法、条件

(1)方法
・運動量や天候条件から計算上の脱水量を求める。
(※この式の内容は、ここでは非公開にさせてください。論文のデータから試行錯誤で作っている、というところです。)
・運動前、運動後にそれぞれ体重を測定。これにより実際の脱水量を計算する。脱水量に関しては以下の式が成り立つ。
 脱水量=運動前の体重-運動後の体重+水分補給量
・計算上の脱水量と実際の脱水量を比較する

(2)条件
今回の運動は、以下の条件で行った。
・9月25日(土)13:04~14:14 薄曇 
 WBGT(暑さ指数)は、13時25.4℃、14時27.4℃
 (環境省「熱中症予防情報サイト」の数値による)
・自宅-大濠公園3周-自宅を運動。事前ないしは中間に水分補給や休憩を挟む。
・大濠公園内では、1周目、3周目は走行、2週目は歩行。自宅-公園間は歩行で、信号待ちによる停止も考慮する。
・大濠公園に入るときと出るとき、2周目と3周目の途中に休憩を挟む
・運動前は300ml、2周目と3周目の途中の休憩時は各250mlの水分補給を実施。スポーツドリンクは用いない。
・距離は7.8㎞(図上計算による。自宅-公園の入り口は900m、大濠公園は1周2㎞)

図にすると以下の通り。なお、真ん中の青枠は、大濠公園内の池をイメージしている。

概要図

▲今回のテストの条件のまとめ

2.必要な消費カロリーの計算の仕方

ここまでは「運動量」と概括的に書いたが、各種論文や研究で脱水量の計算に用いられている指標を正確に表すと、WBGT(暑さ指数)と消費カロリーである。これに従えば、厳密には、脱水量の計算には消費カロリーを求めることとなるが、その消費カロリーは運動強度を示す「METs(メッツ)」、体重、運動時間によって計算される。その式は以下の通り。

 1時間あたり消費カロリー(Kcal/h)= METs × 体重(㎏) × 1.05

では、そのMETsとは何か。厚生労働省「e-ヘルスネット」から引用すると、以下のようになる。

運動強度の単位で、安静時を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示したもの。
メッツとは運動や身体活動の強度の単位です。
安静時(静かに座っている状態)を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示します。
歩く・軽い筋トレをする・掃除機をかける・洗車する・子どもと遊ぶなどは3メッツ程度、やや速歩・ゴルフ(ラウンド)・通勤で自転車に乗る・階段をゆっくり上るなどは4メッツ程度、ゆっくりとしたジョギングなどは6メッツ、エアロビクスなどは7メッツ、ランニング・クロールで泳ぐ・重い荷物を運搬するなどは8メッツ程度といったように、様々な活動の強度が明らかになっています。
詳細は国立健康・栄養研究所の栄養・代謝研究部のホームページに「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」として掲載されています。

上記引用元によれば、平らで固い地面の歩行時、ランニング時でのMETsは以下のようになっている。

▼平らで固い地面の歩行時、ランニング時でのMETs

METsの表


3.各行程での経過時間、速度、METsのまとめ

自宅→大濠公園入口→1周目、2周目、3周目→大濠公園入口→自宅の3つに分けて示す。なお、METsの計算に際しては、2.項の表の数値を回帰分析して式を作成したうえで試算する方法もあるが、ここでは表で示されている数値を重視する。表に対応する速度・メッツの記載がない場合は、表に記載の前後の速度に関するMETs値を按分して概算する。
(例)
時速6.8㎞のランニングの場合は6.325≒6.3METs、時速7.2㎞のランニングは7.15≒7.2METs、時速6.8kmの歩行の場合は6.0METsとする。

1周目

▲自宅→大濠公園入口→1周目

2周目

▲2周目

3周目

▲3周目→大濠公園入口→自宅


休憩や信号待ちの停止時間は計10分44秒、その間のMETsは1.5とする。

4.消費カロリーの計算

3.の各行程でのMETs値および運動時間を再整理し、それぞれの運動過程につき消費カロリーを計算し、合算しなおして計算し直した。

その結果は、以下のように、483Kcal(416Kcal/h)となる。

▼消費カロリーの計算

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5.WBGTの概算

運動中にもWBGTは随時変化している。また、環境庁発表の数値に対しては、環境条件による若干の補正が必要となる。環境省「熱中症予防情報サイト」に各地の数字ないしは予測値として表示されるのは、風通しの良い芝生上の測定した指数(「通常の暑さ指数」として表記)であるが、駐車場、交差点、バス停、住宅地、子供・車いす、温室、体育館と7つの違った条件での個別の予測値も掲載されている。

詳細な計算をすれば精度は上がるが、きりはないので、平均的な概算で求める。今回は、以下のように、平均的なWBGTを26.7℃とした。

〔25.4℃(13時のWBGT)+27.4℃(14時のWBGT)〕÷2
 + 0.32℃(住宅地通過による補正※) ≒  26.7℃

(※:住宅地通過の補正に関して)
自宅から大濠公園入口までの往復には住宅地を通過するので、この補正を行う。環境省「熱中症予防情報サイト」の予測においては、13時、14時時点での「住宅地」のWBGTは、「通常の暑さ指数」とされる各地発表のWBGTに対し、以下の補正が行われている。
  13時:+1.5℃   14時:+1.7℃
その平均は+1.6℃となる。

一方、大濠公園外の消費カロリーは、休憩・停止時を除く全体の消費カロリーの約20%になる。ここから、住宅地通過による補正を、
+1.6℃ × 20% = +0.32℃ とした。

6.計算上の脱水量の計算

4、5より、消費カロリーおよび平均のWBGTは以下のようになる。
・消費カロリー:483Kcal(416Kcal/h)
・平均WBGT :26.7℃

一方、既存の論文等に記載のデータから、消費カロリー・WBGTに基づき脱水量に関する予測する式を複数作成した。この式に上記数値を入れて推定した。

※この式の詳細に関しては非公開。なお、以下の3種類である。
・発汗量をY、消費カロリーおよびWBGTをXとする二次回帰式で求めたもの
・発汗量をY、WBGTをXとして、
 Y= aX^2 + bX + c として表し、
 かつa,b,cが消費カロリーの二次関数ないしは対数関数(2種類ある)

そして、脱水量・必要な水分補給量、消費カロリー、WBGTには、おおむね以下のような相関がある。

概念グラフ

▲脱水量・必要な水分補給量、消費カロリー、WBGTの相関の概念図

その結果推定した計算上の脱水量は以下の通り。
 1,151ml(985ml/h)  1,161ml(993ml/h)  1,166ml(998ml/h)
 平均:1,159ml(992ml/h)

ここでは、計算上の脱水量を、平均値である1,159ml(992ml/h)とした。

7.実際の脱水量の計算

運動前、運動後にそれぞれ体重を測定するとともに、これに水分補給量を考慮することで実際の脱水量を計算する。脱水量に関しては以下の式が成り立つ。

実際の脱水量 = 運動前の体重 - 運動後の体重 + 水分補給量

今回の場合、数値は以下のとおり。なお、1㎏=1ℓと換算して計算する。
 運動前の体重:63.8㎏
 運動後の体重:63.4㎏
 水分補給量 :800ml(800g)

実際の脱水量は、以下のように1,200mlとなる。
63,800g - 63,400g + 800g = 1,200g = 1,200ml

7.考察

計算上の脱水量、実際の脱水量は以下の通り。
・計算上の脱水量:1,159ml
・実際の脱水量:1,200ml

実際の脱水量に対する計算上の脱水量の乖離は△3.4%。このテストでは一定の信頼性のある値が得られた。
また、実際の脱水量の体重(測定前で63.8㎏)に対する割合は約1.9%。脱水は体重比1%で影響が現れ始め2%から影響が顕著となり、3%でパフォーマンスが飲酒運転レベルに落ちることから、中途での水分補給が必要な運動量であったことが言える。その一方、1時間あたり可能な水分補給の量は多く見積もっても1ℓである。今回は、水分補給により体重減は1%未満に収まったが、より運動量が多くなれば休憩時間を多く入れることが必要となろう。
もっとも、ここに書かれていない他のケースでは、計算上の値と実際の値の乖離が大きくなる例も多かった。というよりは、今回が最も前提条件が整理されたものになったともいえる。また、体重は体重計で測定したが、家庭用では0.1㎏刻みと今回のようなテストで使うには精度が低いように思う。
もう1つの発見は、休憩や水分補給を挟まない1周目よりも、これらを挟んだ3周目の方が速かったことである。一般的には、前者より疲労の蓄積が多い後者の方がスピードが落ちるはずだが、その反対になったのは、水分補給や休憩の効果が反映されているのだろうか。

今後は、より気温の低い条件下も含めてさらにテストを繰り返すほか、スポーツドリンクや塩分も含めた検証も行ってみたい。

追記

個人的にランニング等の運動をする方、スポーツチームの方々、屋外で働くエッセンシャルワーカーの方々、高温の工場で働く方々に対し、この種のテストを改めて行ってみたい。前提条件を整理したうえで、まずは知った方から個別にお願いすることがあるかもしれない。

(参考文献)
Scott J. Montain, PhD, and Matthew Ely, MS “Water Requirements and Soldier”, Borden Institute
INSTITUTE OF MEDICINE Food and Nutrition Board “Dietary Reference Intakes for Water, Potassium, Sodium, Chloride, and Sulfate“
Steve Born “Hydration – What You Need To Know” HAMMER NUTRITION
https://www.hammernutrition.com.au/info-centre/hydration-what-you-need-to-know/
1日に必要な水分量は?水の重要性と水分補給のタイミング(新関西衣料サービス株式会社コラム、2021.1.22)
https://www.shinkansai.co.jp/news/1142

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