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クライスト「チリの地震」Heinrich von Kleist:Das Erdbeben in Chili

 

1648年チリ王国の首都サンチャゴで起こった大地震が舞台。スペイン人家庭教師ジェロニモと貴族の娘ジョゼフェが恋愛関係であることが発覚し、父の命で娘ジョゼフェはカルメル派尼僧院に送り込まれる。しかし、二人は尼僧院内で逢引きしジョゼフェはジェロニモの子供を宿してしまった。事態に気づいた僧院はジョゼフェを斬首刑に、ジェロニモは投獄される。幸運にも、斬首刑のとき、大地震が起こり町は倒壊し、二人は生き延び、生まれた彼らの乳飲み子も助かる。

 地震の被害を唯一免れたドメニコ派修道院で地震の禍から護り給わんことを請うべく祝祭ミサが行われることを知って、二人は群衆に紛れこんで参列した。長老の司祭が「災害は市の道徳的退廃、修道院で起こった二人の冒涜行為にある」と説法し、憤怒した群衆によって二人は棍棒で殺害されるという痛ましい話。

 地震で市民が不安に苛まれた精神状態の中では、災害の発生と修道院での不道徳事件に因果関係がないことを冷静に判断できない。群衆が暴徒化する危険なケースだけど、今の日本の社会でもこういう事例は程度の差こそあれ事欠かないようにも思います。

 クライストの文体は地震の怖さ、人心の不安、暴徒化するさまなど良く描かれているように思いました。

この小説を原作に、細川俊夫さんが現代オペラ「地震、夢Erdbeben. Träume」を書いています。https://www.youtube.com/watch?v=TF-rm1CLmTk&t=109s

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