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ル・クレジオ「嵐」中地義和訳 (2015年刊)

ル・クレジオは、フランス出身の2008年ノーベル文学賞受賞者。仏文学者である中地義和先生が翻訳を手掛けているご縁で、日本で講演を4回開催しています(YouTubeの東大TVで視聴可能です)。

「嵐」は、韓国南部の小島を舞台に、13歳のジューンと58歳のキョウの心の交流を描いた物語。二人の独白を交互に配し、1つの小説に2篇分の奥行きを持たせている。

 キョウはベトナム戦争のころ、従軍記者として戦地に赴き、兵士たちが集団強姦する場面に居合わせ、阻止しなかった罪で服役する。数年後恋仲になった歌手メアリーと訪れた海女たちの島でメアリーが不可解な入水自殺をし、二つの傷を負っている。それから30年後、その島を再訪してジューンと出会う。

 メアリーもジューンも、黒人米軍兵士と韓国人女性から生まれた、色黒の混血女性。キョウはジューンにメアリーを重ね合わせる。

 一方ジューンもキョウを父親(又は祖父)のような存在として慕う。ジューンは海女の母親がひとりで育て上げた女の子。母は学業を続けてほしいと願っているが、海女たちが話すイルカの逸話に憧れ、海女になりたいと思っている。

 キョウはジューンとの数多くの交流を通して、キョウの心の傷が「あとかたもなく消え失せたように感じる、それが少女の涙のおかげとは!」と、島を出立する決意をする。ジューンもまた島を離れるところで物語が終わる。

 「島」や「海」を題材にした物語が、ルクレジオの作品に度々用いられている。海の描写が特に詩的で美しい。ルクレジオは詩が好きらしく作風にもよく出ている。もっとほかの小説もたくさん読みたいと思いました。

 読書のBGMは、ピアニスト小菅優さんの「水」をテーマにしたピアノアルバム。その中の「リスト バラード2番ロ短調」が、嵐を感じる出だしの後、優しいメロディで人間の心のひだが感じられ、心に染み入りました。


●こんな感じの音楽です。(小菅さんの演奏ではありません)

https://www.youtube.com/watch?v=tV0eQwemyFc

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