見出し画像

サイバーエージェントのWHYって何だろう。冬の読書感想文2022

新年あけましておめでとうございます。

高校生ぶり?中学生ぶりに読書感想文を書きました。課題図書は「WHYから始めよ!インスパイア型リーダーはここが違う」。

画像1

僕が代表を務めるクジラ株式会社、SEKAI HOTEL株式会社ではインターンであれ、社員であれ、面接から入社までのどこかのタイミングでこの読書感想文を提出してもらう。

書いてもらう理由は、

①「選考でそこまでするのは面倒」という人には辞退してもらう
②履歴書などでは把握しきれない、提出者の物事の見方や言語化力を示してもらう
③ ②を参考に予測を立て、円滑な対面コミュニケーションを取る

一番の目的は③で、いろいろ試した結果、提出者の素の部分にいち早くたどり着ける手段として有用なのが読書感想文だと思うし、この本の内容だと仕事の話にも移りやすい。

今まで100を超える読書感想文に目を通してきた会社の代表である僕自身が、今回この課題図書「WHYから始めよ!インスパイア型リーダーはここが違う」(以下、本書)を通じて思う「WHYがある企業・商品・サービスなど」について持論を展開したい。

※今回は社内の添削係にも一切フィードバックもらってません w

事例

冒頭で述べたように、弊社では一年にたくさんの読書感想文を提出してもらう。提出される「自分の身近にある、WHYがある企業・商品・サービス」をテーマにした読書感想文でよく挙がる事例としては、無印良品、ユニクロ、ディズニーランド、スターバックスがとても多い印象。

僕自身も大好きな企業・商品・サービスではあるが、ここではサイバーエージェントを挙げたい。

画像2

VISIONとして「21世紀を代表する会社を創る」を掲げるサイバーエージェントは、インターネット領域に軸足を置き、1998年創業以降、たくさんのサービスを展開している。

僕を含む昭和生まれ世代であればアメーバブログに馴染み深いだろうし、ゲームなら「GRANBLUE FANTASY」などのCygeams、ここ数年ではクラウドファンティング(0次流通)としてMakuake、たくさんの人気コンテンツを配信するAbemaTVなどが注目されている。

「なぜやるのか(WHY)がわかりにくいのでは?」と思う方も多いかもしれないが、後述する持論にて説明に繋げたい。

「WHYがある」についての定義

本書では繰り返しWHY(なぜやるのか)の重要性を伝えている。そして特に重要視されているのが

①リーダーは、周囲を操作するのではなく鼓舞(インスパイア)すべき
②周囲を鼓舞するにはWHYが不可欠
③WHYを理解するにはゴールデンサークルを理解しなくてはならない

である。

人が主体的に動く心理は他人に操作されて生まれるのではない。もしリーダーが周囲をより主体的に動かしたいのであれば、操作ではなく鼓舞(インスパイア)すべきだと、本書では繰り返している。

部活動などで、監督・コーチから強制的に指示されたものよりも、身近な先輩のひたむきな背中や、チームメイトのカッコいいプレーに触発されて自身の気持ちが前向きになったような経験をした人も多いのではないだろうか。

つまり理屈抜きに人が主体的になる瞬間のために②③を実践レベルで理解する必要がある。

ゴールデンサークルとは、同心円状に中心よりWHY、HOW、WHATの順番に外へ広がっていくものだ。

画像3

これは物事を捉える時や熟考する時にも重要で、「なぜやるのか」「どうやるのか」「何をやるのか」というように考えていく。

ここで最も重要なのが「『なぜやるのか』は理屈ではなく、直感で感じている」ということだ。

全ての人が下している決断のほとんどが直感によるものであり、その直感に後付けする形で好きor嫌い、なぜ好きか?、合理的か?などの理屈がついてくる。

このゴールデンサークルは脳の構造とも合致しており、人を強く動かす衝動は常に直感からスタートすることを説明している。

ここでは、「WHYがある状態」を「多くの人を直感的に魅了、鼓舞する信念やストーリー(WHY)を有し、理屈的にも多くの人にわかりやすい表現がされている状態」と定義して文章を進めたい。

定義に沿っての検証

サイバーエージェントは、どういったストーリー(WHY)で多くの人を魅了、鼓舞し、多くの人にとってわかりやすい理屈で表現しているのだろうか。

僕は、「WHYとは、明確に言語化されていることが理想だが、言語化が必ずしも最重要というわけではない」と考えている。

サイバーエージェントは、「21世紀を代表する会社を創る」をVISIONとして掲げており、他にもミッションステートメント(2006年制定)やパーパス(2021年制定)など多くのサイバーエージェント共通言語を見かけるが、これらが多くのユーザーや株主の直感的な衝動や感動を鷲掴みにしているようには感じない。

「21世紀を代表する会社を創ろう!」と思ってスマホゲームをする人はいないだろうし、「日本の閉塞感を打破しよう!」と思って動画コンテンツを見る人もいないと思う。

画像4

しかし、創業当時20代の藤田社長をはじめとするサイバーエージェント創業メンバーから始まった、ビジネスを通じて世の中に届いている様々なストーリーや成果物は確実に多くの人を魅了しており、直感的な衝動や感動が無い(WHYが無い)と説明するには無理があると思う。

特に若手中心の組織は、第三者から「サイバーエージェントっぽい」と言われる場面も見かけるほどに独特な熱狂ぶりを見せている。

つまり、「WHYは存在するが、明確な言語化はしていない状態」だと僕は考えており、ここからはWHYの直接的な言語化以外、もしくは間接的なWHYの表現・言語化について注目したい。

①組織が持つ個性での表現

サイバーエージェントは、ITやサービスの側面以外に人事施策や組織論でも有名である。僕は、サイバーエージェントとはWHYの言語化ではなく、WHYの擬人化・組織化(という具現方法)でチャレンジしている企業だと思っている。

まず、サイバーエージェントは創業以降早い段階から「終身雇用」かつ「年功序列ではない実力主義」を具現化した。つまり、

WHY=???
HOW=オリジナルの組織構築
WHAT=終身雇用・実力主義を示す様々な人事施策

となる。

終身雇用を掲げて、でも年功序列ではなく、実力次第。

これはものすごいかけ算だと思う。長年、ビジネスにおける年功序列とは「安定」を意味し、実力主義は「リスク&リターン(不安定)」を意味してきた。

相反するこの二つを掛け合わせて、しっかりと成果を出すための緻密な組織戦略はいくつかの本でも紹介されており、納得のいくものばかりだった。

しかしここではその戦略ではなく、終身雇用と実力主義の掛け合わせは、組織にとってどういう印象をもたらすのか?もしくはどういう人に「働きたい」と思われるのか?に注目したい。

2000年以降、最近まではこの安定・不安定の掛け合わせは理解に苦しむような社会の傾向があったかもしれないが、僕は若手中心の組織においてこの組織戦略の方針は非常に高度かつ優秀な施策だと感じた。

少人数のチームであれ、それが企業でなくスポーツなどの場面であれ、尊敬する先輩が「最後は必ず助けてやる(責任持ってやる)。だから成功する(心ゆく)までどんどんチャレンジして、自分で結果をつかんでこい」というようなスタンスならば、多くの後輩はどういうモチベーションとなるだろうか。

画像5

「一軍の先輩はみんな今の自分と同じように、先輩の後押しを受けてチャレンジして、かつ結果を出した人たち。あとは自分次第!」というように思うのではないだろうか。

多くの企業が頭を抱える、若手育成における

・主体性
・自己研鑽
・課題解決能力
・自責
・安心感
・組織への愛着

などの育成課題を全て解決している組織ではないだろうか。

こうしてサイバーエージェントは、掲げるだけでは難しい「終身雇用×実力主義」の方程式を緻密に具現化し、優秀な若手を育成しやすい風土を長年かけて醸成し続けている。

例えるなら、先輩に憧れていて、主体的に努力できて、チームに愛着を持って、自責で結果を捉えることができる、いわゆる「可愛い後輩」がどんどん生まれていると言えるのではないだろうか。

②若手抜擢という風土での表現

サイバーエージェントは、若手の抜擢という側面でも有名な企業である。リクルートをはじめとした様々な企業でも若手の抜擢につながる制度は珍しいものではないが、ここでは「優秀な人材の採用」や「若手のモチベーションアップ」などの人事的側面ではなく、若手が活躍する組織において生まれる成果物に注目したい。

インターネットの普及、そして情報革命によってもたらされた多くの産物のうち、世の中に大きく影響を与えたのは生産者と消費者の距離を一気に縮めたことではないだろうか。さらにスマートフォンの普及もあり、その現象は加速している。

画像6

一昔前までは、企画する人も、事業を設計する人も、生産を管理する人も、その情報を広告する人も、届ける人も意思決定者は消費者世代よりも年上の世代であった。

極端に言えば、今の時代は昔に比べて「ほしい人(消費者)世代が、作るべきものを作り(生産)、届けるべきところへ届ける(広告)ことができる時代」だと言える。

サイバーエージェントの場合、主力事業であるインターネット広告、ゲーム、メディアなど、最終的にその分野の消費者側で待っている人たちと同世代の若手が意思決定しているというのは、インターネット領域を軸足にしている企業として、生産の面でも広告の面でも大きな強みとなっているのではないだろうか。

ここからいえるのは

WHY=???
HOW=若手の抜擢・意思決定
WHAT=社内起業・子会社役員・新規事業立案など

である。

先述した「どんどんチャレンジする」というようなモチベーションの維持だけでなく、「ニーズがあるところに的確に価値を創出できる」という側面が、インターネットという分野の特性とも相性が良く、サイバーエージェントの大きな特徴だと思う。

持論

上記の2点以外にも、「WHYの直接的な言語化以外、もしくは間接的なWHYの表現・言語化」にあたるサイバーエージェントの取り組みなどは存在するが、ここからは明確な言語化がされていないサイバーエージェントのWHYについて僕の仮説を述べる。

サイバーエージェントのWHYの震源地は間違いなく創業者である藤田さんだが、そのWHYというのはとにかく抽象的であり、かつ主観的である。言語化している企業もたくさんあるが、寸分の狂いもなく正確に言語化するというのはかなり困難ではないだろうか。

しかし言語化の有無に関わらず、震源地から発信された強いWHYは同心円上に広がっていき、波及した先では熱心なファンやフォロワーが生まれていく。

ディズニーランドはテーマパークとして驚異的なリピート率を叩き出し、「カフェする」「カフェで過ごす」というようなライフスタイルを日本に生み出したのは間違いなくスターバックスコーヒーだろう。

画像7

ではサイバーエージェントはどうだろうか。

グループ企業も含め、多くのサービスやコンテンツを世に送り出すだけでなく、幅広い世代にとって重要な選択肢にもなっている。さらに働いている側、就職活動している側にとってもサイバーエージェントはあきらかにひとつの欠かせないブランドになりつつあるのではないだろうか。

SNSでは毎年、サイバーエージェントの内定者が発信する投稿に対する「内輪ノリ」「サークルっぽい」などの揶揄を見かけるが、いつの時代にもある、熱狂的なチームが浴びる通過儀礼(賞賛)だと僕は思う。

WHY(形は見えなくても)に魅了された多くのファンやフォロワーは、熱狂が持続している間に共通のフローをたどる。

熱狂が行動を生み、

行動が伝播を促し、

伝播が流行となり、

流行が続くと生活・文化となり、

生活・文化が世代を超えて続くと伝統となる。

サイバーエージェントが今どの段階なのかは別として、明らかにこのフローを辿っていると言えるのではないだろうか。ここで深く想像していただきたいのは、このフローは途中から担い手が生産者から消費者へ移っていくところである。

制服デートはディズニーランドが仕掛けたものではないし、「カフェしよう」という誘い文句はスターバックスが広めたものではない。

創業者ひとりから始まり、多くの共感者が生産者となり、消費者までもがその大きなうねりの担い手となっていくこの一連の流れは、目先の報酬などでスタッフを納得させたり、安易な価格競争などで消費者を操るような「操作」では決して作れるものではなく、間違いなく「鼓舞」されたものだと言える。

サイバーエージェントは、毎年たくさんのWHYに魅了、鼓舞された”可愛い後輩”を生み出し、先輩(かつての可愛い後輩)と一致団結して、同世代を中心とした消費者の一番の理解者として多くの価値を創出していると思う。

結論

結果、約20年の間にサイバーエージェントは「インターネットを軸足に事業を成功させた」というよりも、「インターネット分野において、スタッフがより多くの人に自慢(伝播)したくなるような企業・組織を丁寧に作って、事業を成功させた」のではないかと僕は思う。

自慢(伝播)は口先から生まれるものだけではない。

スタッフひとりひとりの振る舞い、外部へのコミュニケーション、チームワークから生まれるアイデア、そこから社会に創出されるサービスやコンテンツ。自慢という表現はビジネスにおいて実に幅が広い。

先述してきた「WHY=???」の部分の明確な言語化はやはり難しいものの、この「自慢(伝播)したくなるような〜」の部分がもっともWHYに近いのではないだろうか。

少しやらしい言い方だが、あらゆるビジネス領域の中で最先端(に近い)ともいえるIT領域で活躍し、オフィスデザインも、サイトデザインも、コンテンツデザインも一流にカッコ良くて、本社は渋谷、そんな環境下で若くても活躍できて、社会の多くに受け入れられるサービスやコンテンツを生み続けるというのは、格好の自慢ネタだろう。

そして何より、その「自慢したい〜」というものが世の中のライフラインにもなりつつある(近づいている)と、スタッフが感じている、もしくは信じていたとしたら、これは鬱陶しい自慢話ではなく、「誇らしい使命感」ではないだろうか。

スクリーンショット 2022-01-03 2.19.44

サイバーエージェントには公表されている限り、「幼い頃に●●で苦労したから、そういった苦労の無い世の中にしたくてビジネスをはじめた」というような創業者の原体験に基づくようなWHYは言語化されていない。

しかし、サイバーエージェントに深く関わった人ならば実感している、言葉にし難い独自の幸福感があるのではないかと僕は思う。もし藤田さんの頭の中を覗けたとして、「未来はこういう(言葉にし難い)幸せに溢れる社会であってほしい」と願っていたならば

WHY=サイバーエージェントが思う幸せに溢れる社会にしたい
HOW①=使命感・ロイヤルティー高い組織構築
HOW②=自慢したくなるような、自社から始まる幸せの”お裾分け”
WHAT=独自性高いサービスやコンテンツ

となるだろう。

今回は組織を中心に持論を述べたが、想像を超える高度で緻密な経営戦略を試行錯誤し続けたからこそ、この激動の時代に成長を続けてきただろう点にはあらためて敬意を表す。

将来この一連の流れが社会全体に広がって、サイバーエージェントがライフラインとして愛され続けたとしたら、これは間違いなく「21世紀を代表する会社」に違いない。

#読書感想文


画像9


この記事が参加している募集

#読書感想文

192,504件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?