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BCPで突き付けられた災害対策の弱点 ~地域密着型サービス編~

初めてBCPを作成する場合、ガイドラインや作成ツールなどを活用する方はいるでしょう。肝心なのは書類として業務継続計画を作成することはもちろん、事業所の特性や地域の実情が反映され、災害時に計画の効果が発揮できるか、ということです。

今回の記事では、地域密着型サービスのBCP作成ポイントと、筆者が研修で体験した「地域密着型事業の弱点」について紹介していきます。

地域密着型サービスとは?

介護保険制度は平成12年からはじまった制度ですが、制度開始後もたくさんのサービスや施設が誕生しました。地域密着型サービスは、これまでの施設サービスや在宅サービスとは別に「住み慣れた地域で暮らす」ことを重要視した新しいサービス区分として、平成18年から創設されています。

地域密着型サービスの主な特徴は次のとおりです。

  • 利用者のニーズに柔軟に対応することが狙い

  • 事業所と同じ市町村に住民票が必要

  • 24時間体制の介護サービスが豊富

下の表では、主な地域密着型サービスの特徴をまとめてみました。

ガイドラインでは地域密着型サービスのBCP指針が示されていない

施設サービスや通所介護、居宅介護支援事業所などは、国がBCPのガイドラインを作成し基本方針や具体的な緊急対応までひな型とともに公開されています。「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」サイトにおいて、事業別のひな形や解説動画を見ることができますが、残念ながら地域密着型サービスに特化したガイドラインは見当たりません。

とはいえ地域密着型サービスは、通所や訪問、入所の定員を少数に設定し、市町村内にて地域と密着した(いい意味でこぢんまりした)運営をおこなっています。ですから標準ガイドラインを参考に、自分の事業所で活用できそうな項目やひな型を組み合わせながら、地域密着型BCPを作成することは十分可能です。

地域密着型サービスにおけるBCP作成のポイント

この章では、いくつかの地域密着型サービスに焦点をあてて、BCPを作成する際の固有ポイントを解説します。

小規模多機能型居宅介護

小規模多機能型居宅介護は、30名程度の登録利用者(事業所によって登録者数は異なります)に対してサービスを提供します。事業所を拠点として入浴や食事提供をする通い支援、調理や服薬援助のための訪問支援、家族のレスパイトや本人の安眠を目的とした泊り支援があります。
自然災害が発生した場合、利用者宅はもちろん事業所が被災することが考えられます。限られたスタッフの数で、通い、泊り、訪問のどれを優先するのかを決めておいたり、登録者以外の地域住民に事業所ができる支援を考えたりすることが、小規模多機能型居宅のBCPを作る上でのポイントとなります。

認知対応型通所介護

認知症対応型通所介護は、グループデイとも呼ばれています。少人数での通所サービスなので、「大人数だと緊張しやすい」「馴染みの関係があれば安心する」といった認知症高齢者には、人気がある事業といえます。
一般的なデイサービス同様、利用中に自然災害が起こった場合、どこに連絡するのか、サービスを中断して自宅におくることが可能かなど、家族と事前に相談しておくことが重要となります。また、担当ケアマネジャーには事業休止の条件を予め報告しておくことで、一人暮らしの高齢者など、代替サービスの準備や民生委員さんへの安否確認依頼など、緊急時の混乱を避けることができるのでおすすめします。

認知症対応型共同生活介護

認知症対応型共同生活介護は、グループホームとも呼ばれています。その名のとおり、認知症のご利用者が調理や掃除などスタッフの支援を受けながら、9人ほどのグループで共同生活を送っている施設です。比較的身の回りのことができる方も多いですが、終の住処として施設で亡くなられる方もありますので、軽度者から重度者まで様々なニーズに対応しています。
地域密着型サービスはどこも運営推進会議といって、地域住民と運営状況を共有する場が定期的にあるので、BCPを説明したり災害対策訓練を一緒にしたりするなど、日ごろから地域連携がしやすいという特徴があります。

筆者がみた小規模多機能型居宅介護の弱点

筆者はBCP策定が義務化される令和3年から令和6年までのあいだ年2、3回ほど全国の介護事業者やケアマネジャーを対象に災害研修を実施してきました。毎回100名を超える参加者が、自分の事業所や利用者に最適なBCPをつくろうと熱心に参加され、毎回活気に満ちた研修でした。

研修(机上訓練)の方法

メイン研修の内容は、会場を1つの「市」に設定します。参加者5、6人ずつ1グループに設定して、それぞれのグループは介護事業所や行政、地域包括支援センターなどの役割を担うことを決めておきます。
講師により「只今、この市で地震(震度5程度)が起こった」というアナウンスから始まり、時間経過とともに利用者の安全確保、事業の継続、情報共有や連携、そして混乱を体験していく研修です。2時間ほどの研修ですが、毎回あっという間に時間が過ぎ、参加者からは「参加してよかった」「具体的なBCPが作れそう」などと好評をいただいています。

発災後の動きを見失うある事業所

この研修において、筆者は毎回驚き、課題を感じるときがあります。それは、発災後半日ほど経過し、各事業所で当面の事業継続を検討する場面です。
介護施設では入居者の安否確認後、職員シフトの再構成に追われたり、デイサービスでは家族と連携し利用者を帰宅させる手配を終えたり、ケアマネジャーは自治体や地域包括から地域の被害や避難所の情報収集をし始めるなど、まさにテンヤワンヤ状態です。

その最中、一つの班だけが6人着席したまま、沈黙しているのです。近寄って議論の様子を尋ねると「どこに相談して連携すればいいのか・・」「スタッフが足りないので動けないんです」と参加者が漏らします。
その班は、小規模多機能型居宅介護なのです。そして仮想の「市」で孤立した状況は毎年の研修で起こります。被災直後は、登録者やスタッフの安否確認に追われるそうですが、半日経過して建物や登録者の無事が分かると、ふと議論がとまるのです。

とはいえ、他の介護事業所(施設、在宅問わず)は利用者のサービス調整や家族対応、ケアマネジャーや地域包括との情報共有など、1日経過してもおさまる気配がありません。
一体なぜこうなるのでしょう。

小規模多機能型居宅介護の最大の強みは弱点にもなりうる

筆者は、この状況について次のように推察します。
これは、小規模多機能型居宅介護がサービスを自事業所で全てパッケージで提供できる弊害であるということです。つまり、日ごろの要介護者支援が自事業所のチーム内で終始・完結してしまうため、他事業所やケアマネジャーと連携する機会が少ないのです。

そこで筆者はいつもこんなパスを小規模多機能グループに投げかけてみます。
「自分の事業所で提供できる資源を、困っている人や施設へ発信してはいかがでしょうか」

地域資源としての役割をBCPで再確認

筆者の発言を受けたある参加者の「そういえば備蓄品や衛生用品が提供できるかも」という発言をきっかけに、「たしかに安全が確保できれば設備はそろってる」「ライフラインが整えば、来所した人にうちで入浴してもらえるね」といった意見が続きます。

ある会場では、「じゃあ登録利用者は当面訪問対応にして、緊急性の高い重度要介護者を一旦ショートステイとして事業所で受け入れよう」と早速地域包括支援センターに情報提供するところがありました。

こういった動きによって、デイサービスが休止して入浴出来ない人を小規模多機能が受入れしたり、日中だけ見守りが必要な高齢者の居場所になったりするなど、小規模多機能を含めた地域資源の連携がみるみるうちに進んでいったのです。

まとめ

地域密着型サービスは、なじみの地域で少数利用者に柔軟なサービスが提供できるという利点がある一方、サービス提供側はメンバーが固定し、多職種連携が広がらないというリスクを持っています。

災害に見舞われた時にこそ事業所の特性を最大限発揮するためには、今回紹介したような研修を通じて対応をシミュレーションしてみたり、日ごろから色々な機関と顔の見える関係を作っておいたりすることが重要といえるでしょう。


執筆者: 柴田崇晴
日本介護支援専門員協会 災害対応マニュアル編著者

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