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世界の潮流 国策としてのプログラミング教育

前回はIT革命以降、存在感と重要度を日に日に増していくプログラミングについて紹介しました。

今回は現代社会で実際にプログラミング、特にプログラミング教育がどのように位置付けられ、設計され、実施されているかを見ていきましょう。

まず今回は、日本の現状について語る前に、相対化するためにプログラミングにおける世界の流れをみていきましょう。

いくつか代表的な、先進的かつ、馴染みのある国家の取り組みを紹介していきたいと思います。

イギリス(イングランド地方)

イギリス

まずは日本政府も参考にしていると言われる英国(イングランド:以降英国)です。英国では平成26(2014)年度から従来の「ICT」という科目を改め、「Computing」というという科目が新設され、実施されました。日本における小学校、中学校で「数学」や「社会」などと同じ独立科目として必修科されました。

「Computing」科目は「CS:Computer Science」「IT:Information Technology」「DL:Digital Literacy」の3分野で構成されています。指導内容はアルゴリズムの理解、プロフラムの作成とデバッグ、論理的推論によるプログラムの挙動予測、情報技術の安全な利用法、コンピュータネットワークの理解などになっています。小学校にあたるプライマリースクールでは、約週一時間程度。中学校にあたるセカンダリスクールでは週1~2時間程度がこの科目に当てられます。この3分野からなるICT教育が全国民に義務教育内の必修科目として導入されたことは非常に画期的と言えます。

一方で、プライマリースクールでは「Computing」の専任教員不足から、原則学級担任が指導せざるを得ない、或いは数学、理科の教員が指導する状況にあるようです。このため、従来科目であった「ICT」から思うように指導レベルを上げることができない学校も多く課題となっています。また圧倒的に指導時間の確保も困難であり、なかなか本格的な教育の提供に至っておらず、未だ試行錯誤中のようです。日本も今後同様の課題を抱えるでしょう。

教育産業に視点を広げると大学、NPO、民間事業者が無償の学習教材、機会を提供している状態にあるようです。こちらもどんどん普及していくと官民一体となって教育水準を向上していけるのではないでしょうか。

英国は各国に先駆け(日本の5年前)、ICT教育を義務教育における必修の独立科目とした点において画期的です。一方で、実際の運営には諸問題が山積しており、これからも試行錯誤が必要そうです。しかし、今後同じ道を辿る日本は、試金石として5年早く歩む英国の動向に注目する必要があるでしょう。

アメリカ合衆国

アメリカ

アメリカは連邦国家であるため、州ごとに学習カリキュラムが異なります。また、州によっては学校ごとに学校裁量があることも特色です。

主に中等教育においてプログラミング教育が施されています。プログラミング教育を提供している学校で使用しているプログラミング言語は、初等教育では Scratch、中等教育では Java、C/C++ などです。

アメリカでは非営利の教育事業が豊富なことも特徴です。一部のハイスクールでは全米規模のプログラミングに関するコースとして、非営利の試験専門組織であるCollege Boardが管理するAdvanced Placement(AP)試験の一つ「Computer Science A」があります。ここでは College Board によりガイドラインが定められています。こちらは一部の優秀な生徒のみを対象にしていますが、NPO団体である「Code.org」など子供に向けて無料でプログラミング教育を行なっている団体もあります。

アメリカは言わずと知れたIT大国ですので、他国よりも豊富な選択肢があるようです。一方で義務教育に対しても地域や学校ごとの自由度が高いため、画一的なプログラミング教育の義務教育化はそれほど進んでいないようです。

中華人民共和国(上海)

中国

中国では、教育ナショナルカリキュラムの基準に従って、省、自治区、直轄市ごとに教育カリキュラムを策定しています。1984年から鄧小平によって初等、中等教育へのコンピュータ教育が検討されてきました。

2011年には教育ICT化の発展に向けた10ヵ年計画が発表されました。年々この予算は拡大しています。リモート授業の強化やSTEM教育を推進しています。

2017年には「情報教育」が小学一年生から始まることになりました。ScratchやKittenなどを用いた積極的なプログラミング教育が行われています。また中国は保護者のICT教育熱が他国に抜きん出ており、より高度な教育が行われています。

しかし唯一最大の課題は、これらの教育を受けられる学生が中国全国民のほんのわずかにとどまっている点です。それでも人数は他国より多いのですが、国内の教育機会の不均衡は今での重大な課題のようです。

ロシア

ロシア

ロシアでは「連邦スタンダード」というナショナルカリキュラムの元、州ごとにこれに準拠したカリキュラムを定めています。ロシアも連邦国家であるため、州によってカリキュラムに差異があります。

プログラミング関連の授業は2〜11年生まで一貫して必修と位置付けています。2009年から初等教育では「インフォルマティカとICT」という科目の中でアルゴリズム教育を実施しています。

2010年からは中等教育にも導入され、独立科目「インフォルマティカとICT」の中で指導されています。

現代社会のプロフェッショナルな仕事のために必要なアルゴリズム的思考の開発、アートやデザインのためのアルゴリズムを作成するための技能を身に付けさせることを目指しています。主要なプログラミング言語やアルゴリズムの構造(条件分岐など)も教育しています。

また、ロシアには「スコルコヴォ」計画という、ベンチャー育成計画があり、これに準じて更なるICT教育が推進されています。

インド

インド

インドでは2005年に、「数学」分野に「Computer Science」が加わりました。ツールの使い方がメインでしたが、11~12年生(日本における高校)では「Computer and Communication Technology」が推奨されており、こちらはプログラミングによる課題解決や思考開発などのスキルを身につけることを目標とするようです。2013年以降、学校によっては異なるものの、プログラミング教育を本格的に指導する学校も増え、C++やJAVAといった本格的なプログラミング言語の教育を行う学校もあります。一方でこれらは、必修科目ではなく学校や地域、公立私立でも異なるようです。

ドイツ

ドイツ

ドイツは連邦国家であるため、州によって教育行政の差が大きい点はアメリカやロシアに似ています。すでにプログラミングkッ養育が導入されている学校では「Informatik」として独立教科になっています。バイエルン、ニーダザクセン、メクレンブルク=フォアポンメルン州の三州が他州に先駆け後期中等教育のいくつかの学年でコンピュータの授業を義務化しました。一方でほとんどの週では義務化には至っておらず、ワードプロセッシングやインターネット使用などの入門的なICT教育を施すにとどまっている。一方で、コンピュータ情報リテラシーを発展させるべきだという共通の理解は2014年の段階であるため、2021年時現在では具体的な導入方法方などが検討されている段階にある。

ドイツは「モノづくり大国」として強力な工業力を持ってEU諸国を常に牽引してきましたが、社会の高度IT化には乗り遅れた節がありました。現在ではスタートアップ企業創出に力を入れており、今後さらに加速度的にICT教育に力が入ることも予想できます。

フランス

フランス

フランスでもアルゴリズムとプログラミング教育が行われています。日本で言う高校に当たる「リセ」の一般コースと技術コースの15~17歳の学生に限り独立科目ではなく、「数学」の一部として数学教員が教えています。学校の種類やコースによっては必修になっていますが、まだ全学必修化には至っていません。2016年から2018年にかけて小学生に当たる「エコール」と「コレージュ」にも段階的に取り入れられている模様です。

最終目標を後期中等教育において

・自然言語、記号言語でアルゴリズムを開発する。

・表計算ソフト、または適当なソフトウェアで実行する小規模なプログラムを使って、アルゴリズムを実行する。

・より複雑なアルゴリズムを理解するようになる。

を掲げており、当面の間は「数学」の教科内で時間と予算を確保していくようです。

またフランスでもやはり専任教員の確保に難航しているため、数学科教員が指導に当たっているようです。

教育行政においてイギリスなどに遅れをとっているようにも見えるフランスですが、注目すべき点があります。

それは民間教育機関である「エコール42」というプログラミングスクールの存在です。現在東京六本木にも「42Tokyo」と言う分校ができたことでも密かに注目を集めました。

この42の特徴は以下の3点です。

・学費が完全無料/18歳以上なら誰でも

・独特な入学試験 Piscine

・生徒同士で教え合うピアツーピア学習

「フランスの教育を民間から変えること」を目指し、フランスの資産家であるグザビエ・ニール氏が創設、資金も最初の10年は個人資産で賄われています。42Tokyoのように、世界各国に分校も生まれており、それらは、地域の有志企業のサポートで運営されています。

コンピュータやカリキュラム、そして仲間のいる校舎があり、生徒はそこに通って仲間と学習に取り組むことになっています。

難関と言われるPiscineやピアツーピア学習を取り入れたことで、非常に学習意欲の高い優秀な生徒を集めることに成功しており、実力のあるエンジニアを数多く輩出しています。

詳しくは記事の末尾に記載のリンクをご覧ください。

筆者自身、このシステムには非常に共感を持っており、このような学習スタイルを普及させたいと思っています。

イタリア

イタリア

イタリアでは2004年にコンピュータサイエンスに関する授業が初等、中等教育に導入され、さらに2014年9月より教育省と大学研究機関が協力して、小学生に当たる年代からコーディングを導入する「Proframma il Futuro」と呼ばれる任意参加のプロジェクトが開始されました。このプロジェクトではコンピュテーショナルシンキングという論理的思考方法を身につけることを目的にしています。学校や教員の任意による参加であるため、義務教育とは言えない現状です。2017年にプロジェクトが終了しました。

中等教育においては、学校種によってコンピュータサイエンスの位置付けが異なっており、独立教科の学校もあれば数学科で教えられている学校もあり、授業時間数などもばらつきがあります。

今後どのように発展していくか検討段階にあると考えられます。

シンガポール

シンガポール

シンガポールでは2003年以降、情報通信産業を国の基幹産業として、国内外の企業を積極的に支援してきた経緯があります。この流れは教育にも向けられ、学校へのICT教育が本格が本格化します。

一方で、プログラミング学習は初等教育のカリキュラムには含まれていません。中等教育では「Computer Applications」で簡単なプログラミングを指導しています。

2014年から公立校にソフトウェアプログラミング教育する旨が報道され、国家としての戦略的な情報通信技術の普及を促進している様子が伺えます。今後より本格的な教育体制が構築されていく模様です。

ハンガリー

ハンガリー

決して経済大国とはいえないハンガリーですがICT教育の先進性は特筆すべきです。ハンガリーでは2003年から小学生にあたる年代から、ネット検索やペインティングなどのIT利用授業を開始し、「Informatika」という科目を初等から後期中等教育までの12年間、連続して教えています。

ITツールの利用から、OS、ソフトウェア、アプリケーションなどの知識、プログラムの実装、理論まで比較的詳しく高度なICT教育が施されています。

ハンガリーの教育カリキュラム指針において、実生活における課題の解決に関する言及が多くより実学的な科目に力を入れている様子が伺えます。日本でも大いに参考にすべきカリキュラムです。

エストニア

エストニア

バルト海に面するバルト三国の一つ、エストニア。日本であまり知名度の高くないこの国ですが、実はICT先進国です。2012年には「Proge Tiiger」というプログラミング教育推進プログラムが採択されました。1~12年生の全ての公立学校でプログラミングの授業を選択できるようにすることを目標に掲げ、現在ではプログラミングに留まらず、テクノロジー全般の教育推進が行われています。ロボットプログラムやゲームプログラムをはじめ、ScratchやPython、Javaなど用いる独立科目が用意されている校種もあるようです。プログラミング教育の義務化についてはまだ予定されていないとのことです。

韓国

韓国

韓国では情報教育の導入はアジアの中で比較的早く議論されており、1970年代から徐々に導入されてきた。1987年には「学校コンピュータ教育教科法案」から、初・中学校への導入が始められました。1997年から、実生活で利用するICTリテラシーの習得に教育目標がシフトしたことにより、一時的にプログラミングや情報処理の技術的な概念に関する内容が消えることになりました。2005年移行、再び、コンピュータサイエンスが重要視されるようになり、2007年以降、本格的なプログラミング教育が本格的に導入されました。

現在初等学校では学級担任が、中学校、高校では「情報」の教科担任がICTリテラシーを中心とする教育を行なっており、これは必修科目になっています。2014年以降「ソフトウェア」という授業に改訂し、徐々に本格的なプログラミング学習に移行しています。

日本

日本

ここまで、世界のプログラミング教育の潮流、現状について見てきました。英国を筆頭に、世界中でICT教育、とりわけ今後は実践的なプログミング学習を、義務教育へどんどん取り込んでいく流れがあるようでした。
このような社会の流れの中で日本は2020年より段階的に義務教育課程へプログラミング学習が導入されていきます。

次回は日本のプログラミング学習、教育行政の現状を見ていきたいと思います。

※この記事はプログラミング学習者向けバーチャル自習室CLOTOのメンバーによって記述されています。

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