精神科の技術3:聞かない

 看護師の基本中の基本、傾聴。多分、きちんとした看護師は一度は悩んだ言葉だと思います。傾聴ってどういうことなんだろうって。傾聴についてはまた記事を書きたいと思います。今回は別のお話。相手の話を聞かない技術のお話です。

 精神科において、話を聴くことで症状の増悪につながる場合や、交渉的なやりとりと打ち切るために聞かない、という選択が必要な場面があります。

 例えば、統合失調症の幻聴、妄想症状が強く出ていて、話を長く聴いているとその病的体験の肉付けを促してしまうことがあります。そういう時は話を逸らします。できれば他の現実的な話題に持っていき、妄想の世界から現実の世界へ目を向けてもらうように関わるのです。

 また、気分障害があり、気分高揚し、病的に怒り易くなっている場合。反論するとヒートアップし、最終的に応援を呼んで隔離や拘束まで行わなければならないこともあります。必要であれば躊躇いませんが、その前段階の関わりとして、相手の発言を肯定的に受け止め、落ち着いてもらうこと、話を聴いている姿勢を印象付けて後の信頼獲得につなげることに尽力します。勘違いしてはいけないのは、相手の要求を飲まずに肯定的に聴くこと。とても難しく、ある意味矛盾している面もあります。なので「聞き流す」程度の認識でいいと思います。怒っている、という相手の感情だけは受け止め、発言は聞き流しましょう。病的な要因もあり、相手の発言は故意にこちらを傷つける意図のものもあります。

 そしてアルコール依存症の方の場合では、自分の処遇改善や要求を通すために交渉的に話をしてくるケースがあります。私は正直このケースが一番嫌いです。なぜならアルコール依存症の疾患そのものからの発言ではなく、そうなってしまった本人の性格や気質から出る言葉だからです。急性期の症状を脱したアルコール依存症の患者さんの知能レベルは高く、スタッフよりも頭の回転が速い人がたくさんいます。頭の回転が自分より速い人間が、自分に対して利己的な要求を通そうと理屈を考えながら話をしてくる時…嫌な思いをするすることは想像できると思います。また、相手の要求も結局は通せないので相手にも嫌な思いをさせ、お互いに鬱々として終わるやりとりが少なくないです。

 一般科ではあまり必要としない「聞かない」技術です。けど、もしかしたらあらゆる場面で行き当たるかも知れません。そんな時、聞かないことにただ罪悪感を感じるだけではなく、必要に応じて聞かないことも大切であることを知っておいて欲しいと思いました。

 これで看護の話はお終いです。ここから下は刑務所においての聞かない技術のお話です。人を選ぶ内容のため有料記事とさせていただきます。興味のない方は進まないで下さい。私が最初に聞かないことの重要性を仕事で学んだのは刑務所の中で、です。


刑務所における聞かない技術とは

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