アルコール依存症病棟③/アルコール依存症患者は病院に利益をもたらす・・・不快でしょうか?

 アルコール依存症専門病棟は、自分が勤務してした精神科病院では”利益病棟”と言われていた。異動前は慢性期の身体合併症病棟にいて、なんとなく利益病棟と呼ばれるスーパー救急病棟とアルコール専門病棟に対しては”敷居が高い””上の存在”などと感じていた。というか実際そこで勤務している看護師の中には自分達のおかげで高額賞与が保たれ、病院経営が成り立っている、といった認識を持つ看護師もいた。身体合併症病棟の1ヶ月の医療費請求額は7万ちょい(それもほぼ生活保護だから金額はあまり関係ないが)、アルコール依存症病棟の入院費は1ヶ月20万円(ライザップみたいだなって思った。ちなみに高額な保険を掛けていて入院して利益を得ている強者患者もいた。)、だからそういう認識になるのも無理はないのかもしれない。
 異動になって違和感を感じたのは、看護師の業務の中で”営業”という概念がアルコール病棟ではあることだった。これは慢性期病棟ではもちろん、同じ利益病棟のスーパー救急病棟でもない概念で、病棟のベッドを埋めるために、看護師側から患者へ電話して、”入院しない?”と入院を促す行為を推奨するものであり、原則任意入院(自身の意思で入院すること)であるから可能なことであった。病床に空きが出てくると管理職がスタッフに「誰かいないか?声かけてるか?」と営業をそれとなく促す。本来、具合が悪くなって入院するのが一般的な認識だが、アルコール依存症という疾患と治療の特殊性がそれを可能にしている。

1、アルコール依存症に完治はなく、一生をかけてコントロールしていく疾患であること。
 アルコール依存症は、例えば入院して3ヶ月のプログラム入院を断酒して過ごし、身体の状態が軽快し、飲酒欲求がおさまり、社会復帰できる状態で退院したとしても、脳がコントロールする機能を失っているため、再度飲酒したらぶり返す。だからなってしまったら”断酒”が原則である。そのため、祭りや正月や盆など、飲酒する可能性が高くなるイベントがある時、”避難入院”という名目で入院する概念が存在する。まだ飲酒しておらず依存症をぶり返していなくても、しそうだから入院する、といった感じ。この概念をある意味悪用して、空床ベッドを埋めるために退院した患者に連絡して入院してもらう。3ヶ月の満期退院後、さらに期間が経過したら再度急性期の加算がとれるため、そういった患者を選定して電話をかける。ただ、本当に避難入院が病状として必要な患者もいるし、そうでなくても入院して保険などで患者自身んいメリットが発生するケースもあるため、倫理的な面を除けばWin-Winは成立する。

2、アルコール病棟に存在する絶対的な”プライマリ”制度。退院後も患者とつながる。
 看護師の体制にプライマリ制というものが存在する。これは1人の患者に担当看護師がついてその患者に関する看護業務の大半と責任を受け持つといった制度であり、比較対象として他には役割ごとに(注射、薬、食事や排泄、リーダーなど)仕事を分ける機能別性、部屋ごとの患者の全ての看護を受け持つ部屋持ち制、またそれらを混合した看護体制などがある。ただ、看護師という特性上、このプライマリ制度においても、患者の全てを1人で管理できるわけじゃない。患者の24時間全てが看護の対象で、看護師は一日日勤8時間、夜勤をすれば翌日は明けで、休みも平日になりがちなことを考えると、患者のことを1人で背負うことはできず、他の看護師と役割や責任を分け合いながら業務にあたる。その分け合う程度には病棟の機能によってグラデーションがあり、例えば身体合併症病棟では自分が立てた看護計画も、休み明けでその患者が急変していたりなどしたら他の看護師が計画を全て立て直すため、プライマリが責任を多く受け持つ概念は強くない(医療従事者以外に伝わるかな💦)。それがアルコール依存症病棟では異常にプライマリ制が強く、ほぼその患者の権限の全てをプライマリが持つ。ちなみに、プライマリは看護師とは限らず精神保健福祉士や臨床心理士が受け持つ状況もある(その場合看護計画やカルテの最小限必要事項のみハリボテで看護師が記入する)。例えば患者が外出許可をとりたい、と願い出てきても、プライマリがいなければ、「担当がいる時に許可を取ってから来て。」と返す。また、上記でも記載したが、退院するまでをプランニングする一般病棟の看護師は、正直退院した患者のことに興味はそれほど持たない。しかし、アルコール病棟において、退院した患者もまた、プライマリの受け持ち患者で、顧客なのだ。患者からしたら、自分と関わるスタッフが常に一貫していることは、良いことなのかもしれないが。
 営業なんて倫理的にはどうかと思う。医療費もそれだけかかるわけだし。ただ、医療従事者である自分は本来その医療費を食い物にしている存在で、かつ、看護側に全く必要性がないわけでなく、患者側に不利益が生じているわけでもない。なんとも言えないモヤモヤしたジレンマを感じるが、少なくともこの看護を続けることは自分の人生のためにならないとは思う。善悪の評価はできないため、とにかく実際を書いてみた。この現実は、医療従事者、そうでない方、それぞれの立場から見てどうでしょうか、不快ですか?
 

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