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W杯を楽しむために、いますぐ準備できること

昌子選手が拳をピッチにたたきつけてから、どれぐらいの月日が流れたでしょうか。あれから世界は何もかもが変わってしまいました。あの時の14秒と現在の生活は大きくかけ離れているように感じます。もうすぐワールドカップが始まりますが、僕たちの想いはもう一度つながるのでしょうか。

環境の変化により異なる場所に住んでいた動物達が出会うと、新しい生き物やウイルスが誕生します。よく考えれば、あたりまえのようですが、そこには恐しさと美しさが混在しています。

初めて外国人と話すとき、あるいは、ちょっと好きなタイプの人と初めて話すとき、大して面白くもないのに僕たちは笑顔をつくります。『私はあなたの敵ではないよ』『あなたに好意をもっているよ』といった感情が無意識のまま表情を変えるそうです。これは僕たちがサルの時代から獲得している異種とのコミュニケーション手段ですが、イエロースマイルという酷い言葉もあります。『常にニヤニヤしている気色悪い黄色人種』という意味です。

思い起こせば4年前、ずいぶんと心の問題が取り上げられました。これまでサポーターの映像といえば、世界各国の容姿端麗な女性、生きたニワトリを抱えて乱舞するオジサン、テンションがあがり胸をあらわにする女性ばかりでしたが、前回のW杯では子供やファミリーの映像だけに制限されました。

長い間、サッカーは『合法的な人身売買』や『代理戦争』と名づけられてきました。ピッチで輝かしいプレーを見せる選手たちは、毎日のようにロッカールームで涙を流していました。ワケが分からないほどに苛立つサポーターに挟まれ、緑のキャンバスが赤黒く染まることもありました。それでも国連加盟国より多くの国がサッカーに魅了されてきたのです。小さな手が優しく包みこまれ、意気揚々とスタジアムへ向かう姿は、儚いこの世界をいつか救うのだろうと盲目的に人々を信じさせました。

いま、この日本では、電車の中でセキすらできません。嫌な目で見られるからです。マスクを外して笑いながら街を歩くこともできません。同調圧力によりマスクをみんな付け続けているからです。僕たちは疫病も戦争も、差別も暴力も、何一つ解決しようとしてこなかった。ベールで素顔を隠し、何一つ本気で解決しようと思っていなかったのです。サッカーもきっと同じなのでしょう。あの時たたきつけられた拳は、重たい十字架となり、今もなお、僕たちを古いスタジアムにとどめています。ですが、世界は違います。前へ進む力があります。パリの地下鉄で大好きな歌手の歌を大合唱したり、バルコニーでお隣さんと歌って励まし合い、生きています。

サッカーには何ができるでしょうか。壊れかけた世の中でサポーターは何をするのでしょうか。一つだけ思い出したことがあります。それまで憎みあっていたサポーター同士が笑顔で肩を寄せ合う光景を意図的に創り出した伝説の試合です。

それは、日本の真裏、サッカー王国ブラジルで行われました。トルシーダ・ミスタと呼ばれた秘策。相手チームのサポーターとペアでなければスタジアムへ入場できず、また隣の席に座る人も相手サポーターとする、という観戦ルールです。毎年、ライバル同士の試合で多くの悲劇を生んでいたため、このルールが導入されました。試合中、あるサポーターが喜んでいる時、その隣の人は嘆いている。そんな不思議な光景がみられました。特殊な雰囲気を漂わせていましたが、試合が終わると、ありとあらゆるサポーターが手をとりあって笑っていました。翌日の地元の新聞が笑顔の写真で溢れていました。今までと違った強い熱気がそこにあったと言われています。

今、もし、あなたの心の中で想い起こす人がいれば、その人と一緒にワールドカップを観戦するのはいかがでしょうか。久しぶりに連絡を取って、少しだけ一緒に食事をし、少しだけ夜ふかしして、一つのプレーに一喜一憂する。そういった楽しみをワールドカップで取り返してみませんか。価値観が違ったっていいじゃないですか。嫌なこと言われたって大丈夫。僕たちがこの4年間で経験したことに比べれば、大したことじゃありません。これからはじまる世界の祭典で、もう一度だけサッカーを信じることからはじめてみませんか。

心の中に誰も浮かばないようでしたら、どうか僕にご連絡ください。僕はあなたと一緒にサッカーが見たい。

負けても勝っても、歌う歌はきっとあるはずです。

*おまけ

Klopp がskyで受けたインタビュー内容です。


とても大きな大会なのですから、選手だったら誰だってプレーしたいと思うでしょう。彼らは、ただただ緑の芝生の上で、気持ちよくフットボールをすればいい。カタールで行われると決まった時、彼らは10歳ぐらいの少年だったんですよ?彼らが世界の醜さをすべて背負う必要なんて、どこにもありません。

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clothoid
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