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Question and Induction

 命題 A における───それが述語記号であれ,個体記号であれ──定項を変項 x に置き換えて得られる ?xA(x) を,A の un-gestalt と呼ぶ。そして,本書の考える「問い」の本質とはそれである。

 当然だが,A はその un-gestalt の答えの一つたり得ることになる。

 ? はこれを疑問子と呼び,疑問子はそれが係る変項にたいして前置記法で記す。(たとえば,?yB(y)∧C ではその疑問子は y に係り,作用域は B となる。?y(B(y)∧C(y)) の疑問子は y に係り,作用域は B および C である)。*1 この作用域のことを,特に疑問作用域と呼ぶ。

 un-gestalt は,疑問式(あるいは疑問文)*2 とも呼ぶ。

 「問い」はその答えを歓待すべきものであるが,我々の科学的興味は得てしてそれにとどまらず,「問い」と「答え(或は解決)」の関係を一般化し,再現性を獲得しようとしてきた。

 そこで,本項の目的は,この関係が一般化される過程を形式化することである。まず,問いが答えを獲得するような場合を形式化しよう。

 それは,一般的には ?xA(x) に対して A[x,e]∧B(e) が発見されるような事態であると答えることができるが,補足として,次の三つの述語記号によって構成される具体例も示しておこう。

Fx:通電による発光が長時間持続する

Gx:フィラメントとして容易に加工できる

Hx:八幡の真竹である

ここで,?x(Fx∧Gx) という問いに (Fa∧Ga)∧Ha が合格(つまり現実にゲシュタルトを構成)したとき,後者は前者の「答え(の一つ)」であると言うことができる。

 さらに,この「答え」に対して帰納推論を適用することにより,たとえば ∀x(Hx→(Fx∧Gx)) という規則が科学的に(つまり,その再現性を)認められ得るわけである。*3

 このことは,先の一般式については次のように言うことができる。すなわち,

?xA(x) に対して

A[x,e]∧B(e) が答えであれば,

∀x.B[e,x]→A[e,x] という普遍命題を帰納推論によって得ることが可能である。「問い」と(その)「帰納推論」との関係について言えば,疑問作用域にあった式の方を後件に置く。

*1 ところで,?yB(y)∧C であれ ?y(B(y)∧C(y)) であれ,いずれも ?yD(y) と表現してよい。

*2 「文」(sentence)という表現は,伝統的な論理学においては真理値集合を直接に写像するようなもの(closed formula)を思わせるため,基本的には疑問式という言葉を用いたいところである。ところが,いわゆる疑問文は,まさに本項で un-gestalt と呼ぶことにしたそれに対応する。このような事情から,本項では後者の表現も併記することにした。

*3 気付かれた読者もおられると思うが,これはエジソンが(日常生活に利用できるような水準での)白熱電球を発明するまでの有名なエピソードを援用している。

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