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『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を普通に見た後、倍速で見た違い

ちょっといい買い物をした。

Amazonでジム・ジャームッシュの初期3部作のDVD BOXを見つけ、即購入。

『パーマネント・バケーション』
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』
『ダウン・バイ・ロー』

この3作品が5000円足らずで手に入る。嬉しい限りだ。

ふと、ある実験を思いついた。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を
普通の速度と1.5倍速で見て、どう違うのだろうか?


それは、東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 教授・柳瀬博一さんのFacebookに投稿された興味深い記事にインスパイアされている。

昨年から、大学生にアンケート調査を複数回行った。150人❌3イコール450人ほどの20歳前後のサンプルである。
若者の倍速視聴、スキップ視聴がどの程度定常化しているのか、興味があった。
実態を知ろうと思った訳である。
ここで聞きたかったのは、youtubeやtiktokなどの動画ではなく、アマプラやネトフリなどの映画、連続ドラマ、アベマのスポーツ中継などについて、である。
前者をスキップしたり、倍速したりするのはむしろ当たり前で、そんなのは別に世代拘らず、みんなやっているからである。
ガンガンスキップして、2時間の映画を15分くらいでみるという「タイパ」至上主義の理工系学生のイメージ、を、私もちょっと抱いていた。
で、聞いてみた。
例えば、質問の仕方は、こんな形式である。
「映画やオリジナル作品など1本完結の作品をネットフリックス、アマゾンプライムなどでみるとき倍速視聴(1.5倍〜2倍のスピードで見る)したことがありますか?」
答えは4択で、1よくする 2時々する 3あまりしない 4したことがない
こんな形式で聞く。
映画などの長尺作品、連続ドラマ、スポーツについて、それぞれ倍速視聴とスキップ視聴、どのくらいしているか。
上記の質問については、
4したことがない61.5%
3 あまりしない20.5%
2時々する8.7% 
1よくする9.7%
であった。同様の質問を、連続ドラマ、スポーツ中継について、倍速視聴とスキップ視聴について4択で答えてもらった。
動画配信で映画や連続ドラマを見る人で、倍速視聴をよくする人は8~9%。スキップ視聴も10%強程度。
スポーツ観戦でも、ほぼ同様の数字。
3回のサンプルで、傾向は変わらず。
全体の50~70%前後が、倍速あるいはスキップを、映画にしてもドラマにしてもスポーツ観戦にしても、全くやったことがない、という。
あまりやらない、を含めると、70%~85%の学生が、普段、倍速もスキップもほとんどやらない、とのこと。
予想と全く違った。

https://www.facebook.com/yanasehiroichi/posts/pfbid0YaDG4Mb3tixCx74tt5Ej1U9waxhP53ZUrj6WXVQ4N435BuwGUgFGNkPLaV9kh5Jil

なんとも意外だった。

柳瀬さんと同じく面食らってしまったのだ。

そして、こんなことをふと思いついた。

実際のところ、倍速で映画鑑賞は可能か?
はたしてそれで「面白い」のか?


ちょうど良く映画を仕入れたので試してみた結果と気づきを伝えたい。


結論から言うと、1.5倍速視聴は

ちっとも分らないし楽しくもなかったのである。



■考察

なぜなんだろう? と考えを巡らせていると、
普通の速度のこの映画の特徴が浮き上がってきた。

  • 登場人物のテンションが低い

  • 長回しのカットばかり

  • ノイズ(TVの音、靴音、がさごそ)

  • BGMの存在感

  • 視線と仕草

  • モノクロである

  • 字幕(セリフ)と字幕(セリフ)の間


登場人物のテンションが低い

空気感が倍速だとテンションが上がる(!)ので、
なんか落ち着かない。

長回しのカットばかり

この作品の良さはここにあるとみた。
淡々としていて、見ている人に
「何か起こるのでは?」
と期待させて、結局たいしたことは起こらない。
あるのは空虚な可笑しさという
アイロニックな痺れる感覚が残滓として残る。

ノイズ(TVの音、靴音、がさごそ)

やけに生活音が多い。
日本のドラマだとこんな生活音はカットされ、
効果音(音効さんの出番だ)を新たにかぶせる。
倍速だと不思議なことに「音の気配」が消える。

BGMの存在感

ヒロイン・エヴァがポータブルカセットレコーダーで持ち運んでいる
Screamin’ Jay Hawkins(スクリーミン・ジェイ・ホーキンス)の主題歌
「I Put A Spell On You」が随所でかかる。

倍速だと滑稽を通り越してシュールの極みだ。

チープなストリングスも倍速だと「ノイズ」に変貌する。

視線と仕草

たぶん、これもこの作品の真骨頂だと思う。

物語の主要登場人物である、ウィリー、エヴァ、エディの3人。

話を聞いていたり聞いていなかったり。
感情がありそうでなかったり。

3人の視線がなかなか定まらない。

それは仕草にも表れている。

ウィリーがトランプのカードを並べるシーンは
倍速だと異様に素早くて、逆に笑える。

倍速でも良いところも発見できる。

モノクロである

つまり、カラーよりも情報量が圧倒的に少ない。
その分抽象的だ。

倍速だとスルーされ、
普通に見るとこの情報量ならではの集中力が起きる。

没入できる時間は倍速より普通のほうがいい。

字幕(セリフ)と字幕(セリフ)の間

普通に見ると実に歯切れが悪い。
リズム感が無い。
ただ、即興性(インプロヴィゼーション)に身を委ねる。
心地いい。

倍速だと、リズムが生まれる。
逆効果なのだ。


こんなことが分かると、映画を観る時の前提は

普通の速度で見るのが賢い選択


であることを、若者(言葉が大きすぎるが)は知っている。

「タイパ主義」はどうなっているのだろう?

なにやら、恣意的なメディアのニュースに踊らされている。

そんな気がする。



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