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社員戦隊ホウセキ V/第52話;腑に落ちないこと

前回


「実業団陸上連盟に【ニクシム出現の際の対応】を検討して貰うように、社長に頼む」と光里に宣言した十縷は、五月四日の火曜日、寿得神社の境内にある先代社長夫妻の住居にて、その旨を愛作に伝えた。
 会話の勢いで、十縷は愛作にこのことを訊ねた。


「ニクシムに籍を置く、ジュエランド王家出身のマ・ツ・ザイカとか何者なのか?」


 問われた途端、愛作も妻の花枝も、明確に表情を曇らせた。




「マ・ツ・ザイガは、マ・カ・リヨモの父、先のジュエランド王であるマ・スラオンの弟。つまり、マ・カ・リヨモの叔父だ。王家の者として何度か地球にも来ていて、俺も何度も会っている」

 意を決したように、愛作はマ・ツ・ザイガの説明を始めた。十縷は真剣な面持ちで耳を傾ける。

(新杜家はジュエランド王家と交流してたから、社長はそのマ・ツ・ザイガとも会ってたのか。ところでマ・ツ・ザイガ、ジュエランド王の弟でリヨモ姫の叔父って、王家でもポジション高めなんじゃないか?)

 十縷が聞いた情報を脳内で整理する中、愛作は話を続けてた。遠くを見るような眼差しで。

「宝飾職人としての腕は、かなり高かった。武芸の腕も相当で、俺も剣道やってるから何度か手合わせしたことがあるが、とても敵わなかった。剣の腕は、おそらく北野より上だな。その強さを買われてか、ジュエランドでは警察みたいな組織を束ねる職に就いていた。国の治安を守るという立場に、誇りや責任を強く感じていた筈なんだが……」

 ザイガについて語る愛作は、過去を懐かしんでいるのか、何処か柔和な表情をしていた。隣の花枝も納得するように頷いていた。
 しかしある程度まで話すと、愛作の言葉は滑らかさを失った。視線も下に落ちた。

「彼はニクシムに入り、ゾウオやウラームを従えてジュエランドを襲撃した。兄であり、王であるマ・スラオンを自ら手にかけ、ジュエランドを陥落させた」

 そう言った後、愛作は歯軋りするように口を強く噛み締めていた。
 話は十縷の予想通りと言えば予想通りだったが、改めて聞くと衝撃を受けた。

「何で、そんなことをしたんですか? ジュエランドの警察のトップだったのに……。そんな人が、どうして……」

 目を丸くしながら、十縷は質問した。愛作は奥歯を噛みしめつつ、何とか答える。

「詳しい理由は、俺にも解らない。思い当たる節が無い訳じゃないが、憶測で語りたくはない。俺の知る限り、彼がニクシムに入った経緯は……」

 愛作の説明は、十縷には濃いものだった。

 と言うのも、ザイガの動機について語る為には、どうしてもニクシムという結社が結成された経緯などを説明する必要があったからだ。

   太古の昔にジュエランド転覆を狙っていた者たちが使った【伝説のダークネストーン】は当時のジュエランド王が命と引き換えに封印したのだが、去年いきなり封印が解かれ、【ニクシム】という名の小惑星に出現した。

    封印を解いた人物はスカルプタの貴族の一人、【マダム・モンスター】。
    彼女はそのダークネストーンと交信してその力を引き出し、自分の出身星であるスカルプタを襲撃して、支配階層の者たちを皆殺しにした。

     これを受けて、現代のジュエランド王のマ・スラオンはマダム・モンスターを危険因子と認定し、彼女がダークネストーンと共に潜伏する小惑星に討伐隊を派遣した。
    その討伐隊に選ばれたのは、マ・ツ・ザイガと先代のシャイン戦隊だった。

    しかし討伐隊の派遣から数日も経たぬうちに、ジュエランドにはシャイン戦隊四人の亡骸と共に、宣戦布告の声明が刻まれた石板が送られてきた。

    声明は、マダム・モンスターとザイガの連名だった。この声明において、二人は【弱者救済結社・ニクシム】と名乗っており、伝説のダークネストーンは【ニクシム神】と呼んでいた。
    ザイガの名は【王の弟】を意味する【マ・ツ・ザイガ】ではなく、【ニクシム将軍・ザイガ】とされていた。

   

「シャイン戦隊とザイガを失ったジュエランドに勝ち目は無くてな……。マ・スラオンは敗戦を覚ると、せめて王女のマ・カ・リヨモだけと生かそうと、自身が交信していたイマージュエルの力で、シャイン戦隊の五色のイマージュエルと共に彼女を地球に転送した。マダム・モンスターを討伐しに行く時、もしものことを考えて、五色のイマージュエルはジュエランドに置いて行ったのが、せめてもの救いだったのかもな」

 愛作の話は少し逸れて、リヨモが地球に亡命してきた時のことになっていた。
 それはそうと壮絶な話を聞いて十縷は表情が引き締まり、愛作は悲しそうに語り続けた。

「あの日は “ ザイガが裏切った。国が落とされる。娘をそっちに送る  ”  っていう連絡がいきなりマ・スラオンから来て、すぐに切れた。そうしたら、裏山に五色のイマージュエルと透明なイマージュエルが現れた。姫は透明なイマージュエルに乗っていたようだが、俺が見た時にはイマージュエルに囲まれて倒れてた。転送の負担が大きかったのか、透明のイマージュエルは割れて、姫も外に弾き出されたらしい。その後、目を覚ました姫から王と王妃は殺されたと聞いた。姫は転送途中のイマージュエルの中で、二人が殺される様を見たらしい。マ・スラオンは最後の瞬間まで、透明なイマージュエルと交信してたみたいで、それが災いして姫に辛い光景を見せることになってしまったみたいだ……」

 愛作の話はかなりハードだった。聞き手の十縷は、どんどん険しい表情になっていった。

(なんか、凄い話だな……。マダム・モンスターもマ・ツ・ザイガも、自分の星を襲撃したなんて……。改めて意味が解らないし、ヤバい連中だな……)

 一先ず、十縷はそう感じた。もう十縷には先のようにポンポンと質問する気力は無く、室内は少し静かになった。

 話が途切れてから程なくして、先代の社長夫妻である宮司夫妻が現れた。

「おっ、こっちがレッド君か。はじめまして。ちょっと聞こえたが、姫がこっちに来た時の話で、盛り上がってたみたいだね」

 老人と言って差し支えない年齢の宮司は、現れるや軽い口調で一同に話し掛けてきた。彼に続いて、先に会った老女・宮司の妻も挨拶する。その中で宮司は国光くにみつ、妻はあかねという名だと解った。
    それはさておき、彼らも加わってジュエランドと言うかニクシム談義は盛り上がる。

「まあでも、イマージュエルが地球でシャイン戦隊を選んでくれて、本当に助かったな。スラオン君が、“  ザイガが姫を追って地球に攻めて来た時の為に  ”  って、五色のイマージュエルを一緒に送ってくれて、本当に良かった」

 そうしみじみと語ったのは国光。この発言で、五色のイマージュエルがリヨモと共に地球に送られた理由が明らかとなった。それからもう暫く、この話は続いた。

「本当は、この問題は新杜家だけで何とかしたかった。俺も剣道はできるし、千秋も短距離走をやってるから、体力はある。だけど…俺たちがホウセキブレスを着けても、石に色は着かなかった。花枝も、千秋の夫の寅六さんも。俺の娘のりん、それから千秋の息子の健人けんと君も。俺たちは五色のイマージュエルの眼鏡には適わなかった。俺たちの代わりに、北野たちが選ばれて、関係なかったハズのあいつらに戦ってもらうことになっちまった…」

 そう語った愛作の顔は、苦虫を嚙み潰したような表情になっていた。妻の花枝、父の国光、母のあかねも同様だ。

「せめて、両親を失った姫の精神的なケアができたらって思ったけど、カウンセラーでもない私たちが下手に触って、あの子の傷を深くするかもしれないから、なかなか声も掛けられなくて…。でも私たちが戸惑ってる間に、光里ちゃんやお姐ちゃんが姫と仲良くなって。本当に、あの子たちに全部やって貰って、それなのにお礼らしいお礼もできなくて…。貴方たちには本当に申し訳ないし、感謝してる」

 夫に続いて語った花枝は、言葉通り悔しさと申し訳なさが表情で交錯しており、十縷と視線を合わせられない様子だった。
 新杜家の反応を見て、十縷は思った。

(いや、そこまで悪く思う必要も無いのに…。いろいろ仕方ないじゃん)

 しかし、現社長夫妻と先代社長夫妻にどんな言葉を掛ければ良いのか、十縷には解らなかった。


 時は少し遡り、日本では五月三日の月曜日だった日。場所は、地球から遥か離れた小惑星【ニクシム】だ。

 念力ゾウオと念力ヅメガの敗北を見届けた後、帰還したゲジョーは早速マダムの治療を受けていた。仲間である念力ゾウオに、理不尽な攻撃を受けてしまったからだ。
 治療は祭壇がある部屋とは別の小さな部屋で行われていた。

「ありがとうございます。そして、お手を煩わせて申し訳ありません」

 裸体に白い布を巻いたゲジョーは、椅子のように張り出した岩肌に腰掛けていた。露出した左肩には、まだ痛々しい裂傷が残っている。
 マダムは自分のブローチを手に取り、ゲジョーの傷に翳していた。ブローチに備わったエメラルドのような石から発された軟らかい緑の光が、ゲジョーの傷を照らす。少しずつ、ゲジョーの傷は小さくなっていた。
 ゲジョーは俯いたまま、申し訳なさそうに謝意を述べる。その言葉に、マダムはすかさず返した。

「仲間の介抱は当然の仕事だ。何も気にするでない」

 そしてマダムは腰を落とし、ゲジョーの顔を覗き込む。落ち込んでいるような彼女の表情を確認すると、すぐ励ますように言った。

「念力ゾウオを救う為にウラームを呼んだ其方の行動、何も間違ってはおらん。だから落ち込むでない。これからも、同じように振る舞えば良い」

 そう言われると、ゲジョーの顔は自然に綻んだ。そして静かに頷き、同時に思った。

(この包容力、そして温かさ……。このお方は深い愛をお持ちだ!)

 治療の為に発する光の温度、そして励ましの言葉、優し気な表情。これらマダムの要素に、ゲジョーは心酔していた。この心の声は、いつもならそのまま忠誠を誓う言葉に繋がるのだが、今日は少し違った。

(でも、どうしてだ? あの時のあいつからも、近いものを感じた……)

 思い返すのは、傷ついた自分に駆け寄って来たグリーン。彼女に介抱され、更にはメット越しに微笑みかけられ、ゲジョーは独特な安心感を覚えた。その安心感は、まさに今のマダムから与えられるものにかなり近かった。
 それがゲジョーには、どうにも腑に落ちない。敵が崇高なマダムに似ているというのを認めたくない、という感情がそう思わせているのだが、同時に納得せざるを得ないような裏付けもあった。

(スケイリー将軍も、緑の戦士がマダムに似ていると仰っていた……)

 当時、スケイリーは攻撃を制止したグリーンに対して、すかさず「マダムに似ている」と言っていた。
 当時、レッドの登場に皆の関心は集まり、こちらには全くスポットライトが当たらなかったが、今になってゲジョーは気になってきた。

(あいつがマダムと同じくらい慈悲深いとでも言うのか? 邪悪な地球人がか!?)

 ゲジョーは光里のことを考えつつ、同時に振り返っていた。自分が今日まで、地球で見聞してきたことについて。


次回へ続く!


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