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社員戦隊ホウセキ V/第73話;確執と疑問と怒り

前回


 五月二十一日の金曜日。午後七時半頃、九本木ヌーンたる大型商業施設がニクシムに襲撃され、社員戦隊は急行した。

 出現したのはウラームのみだったが、その数に手を焼く社員戦隊。

 するとその現場に、何故か国防隊の隊員たちが乱入してきた。国防隊員たちは三体のウラームを撃破したが、その戦いは周囲を全く気にしない荒々しいもので、多数の負傷者を出してしまった。

 このことにブルーが怒り、国防隊員たちと論争になった。


 国防隊の隊員たちとホウセキVは、ビルの屋上へと場所を移した。

 そこには、国防隊員を運んで来たヘリが待たされている。その機内に操縦士の隊員が一人を一人乗せたまま。
 そしてヘリと彼はまだ待たされる。口論が続くからだ。

「そろそろ、そのド派手な戦闘服脱いで、顔出しなよ。特にシグたんは、僕らに顔割れてるし。どうせ他の四人も、新杜宝飾の社員なんでしょう?」

 ブルーに掴まれた隊員はホウセキVを怒らせたいのか、挑発的な喋り方をする。そして、何やら事情をいろいろ知っている様子だ。

 もうバレているなら……とでも言う感じで、ブルーは徐に変身を解いた。レッドらはこの行動に驚いたが、場の雰囲気でと言うか、つられて四人とも変身を解いた。
 全身が光って姿が変わるこの光景に、国防隊の隊員たちは感嘆していた。

 それはさておき、変身を解いた時雨は口論を続ける。

「ニクシムの対応は委託された民間業者が行う。国防隊や警察がこれの殲滅に当たることはしないと、対超常生物法で決まっている筈だ。お前の父親が制定に関与した法律でだ。それなのに、どうして出撃した? しかも、あの戦い方は何だ? お前らの仕事は、国民の命を守ることだろう? 敵を倒したって、逃げ遅れた人たちに怪我をさせたら、意味が無いだろう? どういうつもりだ、長割おさわり!」

 時雨は正論を振り翳し、最初に掴み掛かった隊員を責める。対して長割と呼ばれた彼は、「鬱陶しい」と思っていることを顔にはっきりと出す。

「クビになった分際で、よく国防隊の心構えなんて語れるね? 技術があって成績が良いだけで、人格は最悪ってお墨付きの君が!」

 長割は厭味たっぷりに、時雨に言い返した。時雨の問には全く答えていない。そして、先からのこの問答に時雨以外の四人はついて行けない。特に十縷は。だから彼は、隣に居た和都にヒソヒソ声で質問した。

「あの、確認したいんですけど。僕、対超常生物法とか知らなくて…。そもそも国防隊って、ニクシムにはノータッチなんですか?」

 問われた和都は顔を歪めながら、同様にヒソヒソ声で答えた。

「詳しいことは俺も知らん。だが、高校の同期に国防隊に入った奴が言うには、国防隊は実質的に銃を持ってるレスキュー隊で、軍備には力を入れてないらしいからな」

 まず和都が語ったのは、国防隊そのものに関して。国防隊は国営の組織で、その名の通り国民を守ることが使命である。敵国からの攻撃もある程度は想定しているが、それよりも地震や嵐から国民を守ることに力を割いていた。

(確かに、この国は地震や嵐が多いからね。そっちの対応が大変だから、ニクシムの相手してる暇は無いか)

 納得して頷く十縷に、和都は別の情報も提供した。

「社員戦隊のこと、国防隊の上の方は知ってるかもな。社長がお得意さんの国会議員に根回しして、ウチらで対応できるようにしたらしいから。イマージュエルの力じゃないとニクシムに対抗できないし、それを使えるのは俺らだけだからな」

 ゴシップ紙のような内容で、十縷は思わず苦笑いしてしまった。愛作社長の人脈や交渉力も見上げたものである。


 十縷と和都がひそひそ話をしている間にも、時雨と国防隊員の言い争いは続いていた。
 十縷は再び彼らに目を向け、そして思った。

(隊長、国防大学校の出身だから、この隊員たちと知り合いでも可笑しくないけど…。一体、どうして隊長は国防隊に入らなかったの? しかも、あの国防隊の人、隊長の人格が最悪とか言ってるけど……)

 そして十縷は、彼らの会話に意識を強く向けた。その時、長割はこう言っていた。

「怪我したとか文句言うけど、別にいいじゃん。死んだ訳じゃないし。この、綺麗なお姐さんが、手当てしくれたしさ。そっちこそ、いつも全員ちゃんと助けられてるの? 自分のこと棚に上げてさ。本当にシグたん、昔から性格悪いよね。あれで変わらないとか、もう終わりだよ」

 十縷はこれらの言葉を聞き、猛烈な不快感を示すように顔を歪めた。

(国防隊って、メインの仕事は災害救助だし、外国の軍と戦ったことが無いのが誇りなんでしょう? それなのに、人の安全よりニクシム倒すのを優先したの? しかも、さっきから何こいつ? 自分は悪くない、時雨隊長が悪いしか言ってなくない?)

 十縷はこの長割という人物に対して、ふつふつと怒りが湧いていた。それは、和都や光里も同じだったのだろう。

「ちょっといいですか? 何ですか、その言い草? 死んだ訳じゃない? あんな無茶な戦い方したこと、少しは反省してくださいよ」

 それまで時雨の後ろに居た和都が苛立ちを抑えられなくなったのか、一歩前に出て長割に物を申した。すると、これに光里も続く。

「それと、さっきからウチの隊長のこと悪く言いますけど、私にはそっちが悪いとしか思えないです。ご自分の行動を振り返ってください」

 和都と光里が絡んでくると、不意に長割は見下すような笑みを浮かべた。

「何、彼ら? もしかして、シグたんのこと慕ってるとか? 綺麗なお姐さんも、シグたんの言うこと聞いて、すぐ怪我人の手当てしたし……。どうして、こんな人格クズが慕われてるの? もしかして、洗脳されてる?」

 長割は先程から、やたらと時雨の人格を否定してくる。かつ、その根拠は無い。そろそろ和都は堪忍袋の緒が切れそうになり、長割に迫って掴み掛かろうとした。
 厳格そうな顔をした長身の和都に迫られ、長割は明確に怯えた様子を見せた。しかし、ここは時雨と伊禰が制止する。

「イエロー、挑発に乗るな。気に入らなくても、手だけは出すな」

 時雨が苦言を呈し、伊禰が和都の手を降ろさせて首を横に振った。二人に従ったが和都は腑に落ちず、舌打ちをする。対して、助かった長割は厭らしく笑った。

「メガネのお兄さん、シグたんが隊長ヅラしてるから慕ってるらしいけど、シグたんは本当に最低の人間だよ。僕、大学の時にシグたんに苛められてたんだ」

 長割はそんなことを口走った。突拍子もない発言に、十縷たちは目が点になる。そして、時雨は全く表情を変えない。

(隊長が苛め? いや、無いでしょう! こんな真面目な人が?)

 十縷は、これまで接した時雨の印象と、この長割という人物の先程からの言動から察して、長割が嘘を吐いている可能性が高いと判断した。それは、他のメンバーも同じだろう。
 対して長割は、「僕、可哀想でしょ」などと言いながら和都と伊禰に絡む。無論、二人は靡かないが。
 すると、不意に長割はターゲットを変えた。

「ところで君、神明光里ちゃんだよね。まさか、あのアイドル選手がこんなことさせられてるなんて。驚きだね!」

 長割は蕩けるように顔を変形させながら、光里に迫り始めた。危険を察して伊禰と和都は彼を止めようとしたが、長割はこれを振り切って光里に接近し、右腕で彼女の肩を抱き寄せた。
 不快そうな目で長割の顔を見上げた光里は、まだ競技着姿だった。

「最近の陸上女子の服で、ビキニ同然だよね。へそ出しブルマとか、マジ最高。僕、あのお姐さんみたいな大人っぽい感じより、君みたいなロリ顔の方が好みだしね」

 そう言いながら、長割は光里の股間に左手を伸ばそうとした。しかし、ここまで露骨な動きは、流石に止められる。

「次は痴漢ですか? いい加減にしてください」

 光里は長割の左手を掴み、何とか触られるのを防いだ。一方の長割は厭らしく笑い続け、右腕は光里の肩に回したまま。
 これが周囲の怒りを買わない筈が無かった。

「いい加減にしろ、このクソ痴漢野郎!」

 最も怒ったのは十縷だった。彼は怒声を上げながら長割の右腕を光里の肩から外し、そのままその腕を捻った。
 腕を捻られた長割は、情けなくも悲鳴を上げる。

「隊長に苛められたとか、出鱈目まで言いやがって! どうせお前が悪いコトして、怒られたんだろ!?」

 怒りの十縷は長割の後ろに回り、捻った彼の右腕を背側に固定する。更に自分の左腕を長割の首に巻き付け、何かしらかの締め技を掛けようとしていた。

「ちょっと、ジュール! それはやり過ぎ!」

 光里が十縷に苦言を呈し、それに少し遅れて和都と伊禰が十縷を長割から引き離した。
 十縷から解放された長割は、捻られた右腕を摩りつつ、歪めた顔で十縷を睨む。そんな長割の周囲に、他三人の隊員が寄り添ってくる。

「僕が出鱈目を言った? 傷ついちゃうな。シグたんは、本当に僕を何回も苛めたんだ」

 三人に守られる形になった長割は、苦々しい表情で十縷に言った。時雨以外の十縷たち四人が眉間に皺を寄せる中、長割は語った。

「僕らが国防大の一年だった時、高校生向けのイベントにメチャカワのJKが来てさ……。僕がその子と仲良く話してたら、シグたんがいきなり僕に怒鳴ってきたんだ。今の君みたいにさ!」

 高層ビルの屋上で、長割は叫んだ。空全体に響き渡りそうな大声で。
 十縷たちには長割の発言が嘘としか思えず、「はぁ?」と漏らしてしまう。

 この不毛な争いがいつまで続くのか、心配され始めたその時だった。それまで静かだった、ヘリの中に残っていた隊員がここに来て声を出した。

「あの、長割大尉。今、本部から入電がありました。今すぐ戻って来いって。完全にブレギレてますよ」

 ヘリの扉から顔を出し、彼はやる気が無さそうにそう伝えた。すると長割は振り返り、「解った」と彼に返す。どうやら、これで本当にお開きのようだ。

「本当の正義が何なのか、君たちに思い知らせてやる。シグたんも、僕を苛めた罪が簡単に許されると思うな。ピカピカ軍団の隊長になったからって、図に乗るな!」

 長割はそう言って、ヘリの方へと戻っていった。同行した他三人の隊員は、彼の三歩後ろに続く。三人を乗せると、ヘリは飛んで行った。


次回へ続く!

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