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「想いがなさすぎる…」

昨日の新人研修での一場面。
新人編集者は、何も教えられない状態で課題として与えられた教材の1ページ分の企画を自分で考えます。それを先輩編集者に見てもらうというのが研修内容です。

新人編集者 :
私が担当した教材には、ページの最後に××のコーナーを追加しました。

:
なるほど。なぜそれを追加したの?

新人編集者 :
なぜ…?スペースが空いていたのと他社の商品がそうした企画を盛り込んできているので…

:
中学生にどうなってほしくてこのコーナーを追加したの?

新人編集者 :
いや、そこまで考えてないです。

「そうだよね」という一言が口から出るのと同時に思ったのが、

(想いがなさすぎるかもな…)

ということでした。しかし、これは新しいものを生み出す際によく起こることだと思います。全く教えられない状態での取り組みなので、仕方がないとも思うのですが、せめて「こんな力を身につけてほしい」「こんな考え方をしてほしい」など教材を使う人への想いをもう少し持ってほしいなと思ってしまいました。


数字ばかり、気にしすぎ

上記は極端な例ですが、新しいものを生み出そうとするときに頻繁に思うことが、「根拠が数字すぎる」ということ。

英語学習のアプリ開発に関わらせていただいたときのお話です。

プロジェクトの担当者 : 
先月とったアンケートでは、文法の理解ができていないと答えた割合が◯%と最も高く、文法項目としては、現在完了形が◯%でトップを占めているので、ここに焦点を置いた大人の学びなおし英会話アプリにしてはと思っています。文法に対して苦手意識を持っている人の割合もこの団体の調査結果のように他の割合よりも顕著に高いので、これは絶対売れると思います!

これを聞いたときに一番に思ったのが、

(このアプリはおもしろいのかな…?)

ということでした。彼にとっては、その会社ではじめてのプロジェクト担当だったということもあり、彼自身とても気合が入っており、夜通し調査結果の集計など熱心に行っていました。それもあって、私は余計にきちんと世の中に受け入れられる形にしたいと思っていました。

英語学習では、文法練習は確かに必要ですが、そのようなアプリは世の中にすでに存在していて、何より本当に英語が苦手な人がそれを望んでいるのか、少し疑問に感じていました。

そこで、アンケートに答えてくれた人の中から数人にお会いして詳しくお話を伺うと、全員が文法を学びたいのではないということがわかりました。彼らが望んでいるのは、相手が言っている英語を聞き取ることができ、自分が言いたいことを言えるようになり、「会話」ができるようになりたいということ。英語への苦手意識があり、その原因が、文法がわかっていないからだと思っていて、そのためには文法を学びなおしたほうがいいだろうと思っている。アンケートで文法が苦手と答えたのは、このように考えたからだとのことでした。

そこから、会話している気分になれる英語学習用アプリという企画に変更していくことになりました。そもそも、勉強が好きと思える人は少ないと思います。そのような状況で、勉強感が強い文法学習をおもしろがってやってくれる人も少ないはずです。何より自分もおもしろいと思わないので…

このように、データばかりに目を向けてしまうと、「相手に想いを馳せる」ことができなくなり、お客さま本人も気づいていない、心から望んでいることに気づくことができなくなるんじゃないかと思っています。


「売れる」ばかりに気を取られるのはなんかイヤ

ウケたか、ウケなかったか、売れたか、売れなかったかばかりに焦点をあてるだけでは、人間いやしくなっていく

『「人真似は、自分の否定だ」クリエイターの60訓』高橋宣行

私のバイブルである、高橋宣行さんの『「人真似は、自分の否定だ」クリエイターの60訓』からの引用です。

商品やサービスを世に出す以上、売れなければ意味がないと思うので、売れるようにすることは至極真っ当で、一番気にかけなければいけないことだと思っています。しかし、そこばかりに意識を置いてしまうのは、人の心を動かす商品作りからは遠ざかっていくようでなんかイヤだなといつも感じています。


「数字」も「想い」も両方とも大切

大切なことは、売れることを意識しつつ、自分の想いを込めて商品を作るということだと思います。

数字は、企画を決める際の根拠になると思っています。
文法に苦手意識がある人が多いということは、上記のアンケート結果からわかります。そのため、会話している気分になれるという企画だけでは、そうした苦手意識をもった人へのアプローチとしては、弱いかもしれないという議論にもなり、文法練習ができる工夫もアプリ内に盛り込むことが必要だという結論になりました。

数字があるからわかること。想いがあるからわかること。これらの掛け合わせで新しい商品やサービスは作っていけると思っています。これらをうまく形にできたとき、他にはない、人をはっとさせられる商品作りができるのではないかな。新人研修のあと、ふとそんなことを考えていました。

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