源氏物語「帚木」あらましと感想1


帚木ははきぎとは、信濃国(長野県)園原にあるという伝説上の樹木だそうです。

ほうきを立てたような形から帚木ははきぎといわれ、遠くからは見えるけれど近寄ると見えなくなってしまう不思議な木で、この章に登場する女性になぞらえ源氏が和歌に詠んでいます。



源氏と頭中将


光源氏はこの頃、17歳で中将という位についています。
元服げんぷく(成人の儀)後、左大臣家に婿入りしましたが足繁くは通わず、内裏の宿直所とのいどころで寝泊まりすることが多かった源氏。
左大臣家の人々から恨めしく思われながらも大切に扱われています。


源氏の妻・葵の上の兄君である頭中将とうのちゅうじょうは、源氏と大の仲良し。学問も遊びも共にする友人です。異性関係も派手な華やかな貴公子で、それに比べると源氏は周囲の目を気にして恋愛には慎重であったように書かれています。(いや慎重?と疑問は残りますが…)

五月雨の降る夕方、
内裏での源氏の部屋となっている桐壺きりつぼで、頭中将は棚に置いてある女性からの手紙を見たがりました。


平安時代において手紙のやり取りは、男女間のコミュニケーションの要のようです。
美しい色紙にしたためたり、ふみを花の折枝に結んだりしてお洒落に演出します。また綴られる和歌のセンスも問われるようで、歌がまずいと素養を疑われるような描写があったりなかなか大変そうです。


源氏宛の手紙を読み、差出人を当てようとする頭中将ですが、そこから女性についての所感を述べ出します。

「利巧ぶった人や、上っつらの感情で達者な手紙を書く人は多いが、合格点に入る者はなかなかないですね」

「大切に育てられた深窓の姫と結婚すると、男性側の想像で補っていた部分がはがれて、だんだんあらが出てこないわけはありません」 

「上流階級の女性は大事にされて欠点も目立たず済む、下の階級の女性には自分は端から興味がない、
中流階級の女によって、はじめて我々はあざやかな個性を見せてもらえるのだと思います」

このような調子で、辛辣かつ残酷であります。
「光る君へ」で、似たような事を誰かが言っていた気が。


源氏も興味が出て質問をしているところへ、左馬頭さまのかみ藤式部丞とうしきぶのじょうの二人の貴公子が、共に過ごそうと部屋を訪ねてきます。
源氏や頭中将とうのちゅうじょうより地位は格下で、やや庶民的な印象のお二方です。


雨夜の品定め


四人の男性が女性談義に興じるこの下り、『雨夜の品定め』として有名な場面です。

大河ドラマ「光る君へ」では
道長、公任きんとう斉信ただのぶが、内裏で色恋話をする場面がありました。
ノリノリの公任・斉信に比べ、道長はちょっと引いた目線で参加していたのが印象的でした。
この場における源氏も、多くは語らず笑いながら聞き役に徹しています。
けれどもこの内輪話、この後の源氏の思考と行動パターンにしっかり反映されていくので面白いです。
いや影響されてるんかい!とツッコミを入れたくなります。

左馬頭さまのかみは、妻に選ぶ女性の理想形、過去の嫉妬深い恋人や浮気癖のある恋人のエピソード、女性の教養についての考えなんかを、まあつらつらと語ります。
風流男と名高いらしいので、頭中将よろしく恋愛経験が豊富なようです。


藤式部丞とうしきぶのじょうは頭中将に責め立てられ、仕方なくエピソードを一つ話します。
学識のある女性を妻にしたが事毎ことごとに小難しい事を言われ、閉口させられたという内容です。

藤式部丞は人の好いイジられ役らしく、貴公子たちに「もう少しよい話をしたまえ」とやいのやいの言われて
「これ以上珍しい話があるものですか」と退出していきます(笑)
なんか可愛いですね。

頭中将と、撫子なでしこの和歌のひと


雨夜の女性談義の中で頭中将とうのちゅうじょうは、自分の前から忽然と消え失せてしまった恋人の話を語ります。


その女性は父親を亡くし心細い境遇であったものの、たまにしか訪れない頭中将に恨み言も言わず、実に可憐な人でした。二人の間には女の子が生まれていました。

頭中将の正妻の家から嫌がらせを受け、男からの連絡もなく煩悶した女性は、ある時、撫子なでしこの花につけた手紙をよこします。

『山がつの垣は荒るとも折々に
哀れはかけよ撫子の露』


そこには小さい我が子を、なでしこの花にたとえた和歌が綴ってありました。
頭中将が久しぶりに訪ねてみると、女性は相変わらず穏やかですが、少し思い悩んでいる風です。
(頭中将は、正妻からの嫌がらせがあったことを知りません。暢気な奴め)


頭中将は、

『咲まじる花はいづれとわかねども
なほ常夏にしくものぞなき』

と歌いかけます。

常夏とこなつは、なでしこの別名だそうです。
撫子に例えられた子供の事は言わずに、まず恋人に
『あなたを(他の女性より)一番に愛していますよ』と伝えたのです。

女性は、

『うちはらふ袖も露けき常夏
あらし吹きそふ秋も来にけり』

と返します。


常夏
の花の散ってしまう嵐の吹きすさぶ秋、あなたが私に飽き去って行く季節が来てしまったのですね。


涙を見せるものの、すぐに紛らせてしまい、正面から恨みを言う事はありませんでした。
しかしその後、彼女は突然姿を消してしまったのでした。

(※和歌について不勉強で、載せるのも恥ずかしいのですが、物語の進行に関わってくる下りなので大まかに入れさせてもらいました)

頭中将は、恋人とその娘のことを捜し出したいと思っているものの、何の手がかりもなく今に至るようです。


長くなりました


少し長くなってしまったので、今回はこの辺で。
帚木ははきぎ」は次回に続きます。
改めて『源氏物語』を読み、理解できない部分は調べつつ進むなかで、新たな発見をいくつもしています…。


高校時代はまるまる飛ばしていた和歌ですが、苦手意識はまだあるけれど意味が分かるとおもしろいですね。
ダブルミーニングがそこらに仕掛けられていて、混乱しつつも、和歌の奥深さを感じます。

拙い説明、感想文ですが
ここまで読んでいただきありがとうございました!

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