俺はバナナ🍌
俺はバナナ🍌。ミスターバナナ。トロピカロリーナ州の伯母、キウイ婦人🥝の住むホームにステイ中だ。
朝だ。俺は屋根裏部屋のパン布団の中で目を覚ました。
「FUAA、良く寝た。」ふかふかのパン布団は肌触りが良い上、適度な反発力で俺の体を包んでくれる。今流行りの良質な睡眠がとれる優れモノだ。まだ寒いからクリーム色の毛布も追加して快適な温度環境で俺は過ごせている。
部屋の中央の床は四角く繰りぬかれ吹き抜けになっており、ベルトコンベアーが設置されている。下の階の各部屋に直結しているのだ。
俺はベルトコンベアーの電源を入れ動き出したベルトに座りバスルームへと移動した。
今日は町を牛耳るマスクメロン伯爵🍈が訪問する日。
マスクメロン伯爵🍈通称マスクは礼儀にうるさく、異物に厳しい。少しでも汚れていると残飯を見るような目で圧力をかけてくるのだ。よく体を洗わなければ。
俺はスポンジでホイップクリームを泡立て体の隅々に行きわたらせた後、消毒液のシャワーで洗い流した。
「FU-。さっぱりした。」
再びベルトに乗りキッチンへ。キウイ婦人🥝が待ち構えていて声をかけてきた。
「グッモーニン、ミスターバナナ。昨日はよく眠れたかしら?」キウイ婦人🥝はお喋り好きなご陽気婦人。
顔を合わすや否や近所のゴシップを教えてくれる。
お蔭様で俺も情報通だ。次々情報を提供してくれるから、俺は聞き役に徹する。話が終わらなくて気がつけば夕方ということも少なくない。そんな時キウイ婦人🥝は「あらもうこんな時間、悪いわねえ、長々と話しを聞いてもらっちゃって。」と沢山の甘いクッキーを俺のポケットに詰め込んでくれる。「お礼よ、少しずつ食べるのよ。」とウインクする。
「もうすぐマスクメロン伯爵🍈が来る時間よ!」
キウイ婦人🥝は伯爵をもてなす準備で大忙し。ストーブに薪をくべたかと思えば魚を捌きオーブンへ。オーブンを覗いたかと思えば庭先に出てハーブを摘んでみたり。テーブルクロスにアイロンをかけたかと思えば、ホウキで泥棒猫を追い払ったりしている。
「今日はゴシップ話お預けだね。」俺が軽口を叩くとキウイ婦人🥝は立ち止まり、「そうね。でもとっておきのゴシップがあるわよ。いつか話すからお楽しみに!」と左右の目を交互にウインクし、にやりと笑った。
「手伝うよ。」俺はキウイ婦人🥝の持っていた寸胴を預かり、火にかけた。
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「プー」
家のベルが鳴りマスクメロン伯爵🍈のお出ましだ。
「ごきげんよう、キウイ婦人、そしてミスターバナナ。」
俺は慌てて皮を着た。
伯爵のいでたちはモスグリーンのテーラードジャケットに網模様のスラックス。胸ポケットにオレンジ色のハンカチーフが覗いている。
「赤肉メロンをイメージなさっているんですね。素敵です。」キウイ婦人🥝が褒めると相好をくずしたが伯爵は俺を一瞥すると真顔になり、くるりと背を向け俺の椅子にドカッと座り話し始めた。背中の勲章を俺に見せつける。
マスクメロン伯爵🍈のジャケットには銅製で凝った彫刻の物や金ぴかの物、角度によって色が変わるオーロラタイプのバッジなど沢山の勲章バッチが付いている。
『敢闘賞』『貢献したで賞』など何だかよくわからない賞もちらほらある。今まで獲得した勲章を一つ残らず付けているのだ。賞は年々増え続け、ジャケットの背中にまでバッチで埋められている。
重くないのだろうか。俺は思ったが伯爵のことなので平気なのだろう。オシャレは我慢の時代の人だから。
会話の内容は銀行強盗のニュースのお話が少々。残りは勲章一つ一つのうんちく。興味がないので俺は手持無沙汰で立ち尽くしていた。俺の考えていることがバレたのかもしれない。
伯爵が再びこちらを見据えた。伯爵の目が皿のようになる瞬間を見た。その目は「そばかすだらけの皮と態度はなんだみっともない。けしからん。」と言っているようだった。
実際言っていたんだと思う。
俺はタイミングを見計らってその場を去ろうとしたが、このままだとマスクメロン家で俺の悪口を吹聴するに違いない。
俺は伯爵の一番気に入っているであろう勲章の一つに着目しゴマを擦った。散々褒めちぎり伯爵が自分に酔いしれるのを確認、そっと海老🦐のように後退りしながらその場を後にした。
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翌日。
朝だ。俺は屋根裏部屋のパン布団の中で目を覚ました。
「FUAA、良く寝た。」ふかふかのパン布団は肌触りが良い上、適度な反発力で俺の体を包んでくれる。今流行りの良質な睡眠がとれる優れモノだ。まだ寒いからクリーム色の毛布も追加して快適な温度環境で俺は過ごせている。
部屋の中央の床は四角く繰りぬかれ吹き抜けになっており、ベルトコンベアーが設置されている。下の階の各部屋に直結しているのだ。俺はベルトコンベアーの電源を入れ、動き出したベルトに座る。バスルームを通過、皮に着替えてキッチンへ直行する。
「ヘイミスターバナナ。グッモーニン。」
いつもの挨拶。いつものキウイ。いつもの朝食。
のはずだった。ふと香水と下水を混ぜたような臭いが鼻をつき、振り向くと、見知らぬ女が俺の椅子に座っていた。
さも当然のような顔をして俺の椅子に座り朝食を食べている。フォークを持つ手にはルビー、ダイヤなど大粒の宝石で彩られたドクロの指輪が全指に嵌められている。女はフォークをカチャカチャ鳴らしながら俺の朝食を平らげた。レースやビジューが装飾された高そうなワンピースを着ている。足元を見ると編み上げの上げ底ブーツを履いていた。
土足で家に入ってきているのだ。
俺が近寄ると女は椅子から立ち上がり、またすぐ座った。
立ち上がると2メーター強になり天井に頭が付くほどだった。上げ底ブーツを脱ぐと1メートル50に満たないだろうと思われた。女はまた威圧するように立ち上がり、座った。上げ底ブーツをかたくなに脱ごうとはしなかった。
女は俺を無視すると両手を広げ宝石を見せびらかしながらキウイ婦人🥝に宝石の素晴らしさを語っていた。そしてクネクネと身をよじらせながら「お金ないの。少しでいいから貸してくれない?」とねだった。
俺が「そのご自慢の宝石や高そうな服を売ればいいんじゃない?」と言ったら女はキッとこちらを睨みつけ、「こんなバナナに何がわかるのさ。あたいがどれだけ苦労してきたと思ってるんだい。ひっこんでな。」と叫び、顔を伏せしくしくと泣き始めた。こういうタイプは責めるとすぐに泣き真似をすると決まっている。
「それより誰なんだ。そこは俺の椅子だ。どけよ。」と言おうとした所でキウイ婦人🥝がそれを遮り、キッチンの隣の部屋に俺を連れて行き、「あの子は『ミエコ』と言ってねえ、だんなの遠い親戚の兄弟の息子の連れ合いの子でねえ、平気で嘘をついたりするの。でもかわいそうな子なのよ。許してあげて。」となだめた。
「はあ?」と思ったが、こちとら居候の身、仕方がないので朝食は見送る。俺は海老🦐のように後退りし、引き下がったのだった。
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翌々日。
朝だ。俺は屋根裏部屋のパン布団の中で目を覚ました。
「FUAA、良く寝た。」ふかふかのパン布団は肌触りが良い上、適度な反発力で俺の体を包んでくれる。今流行りの良質な睡眠がとれる優れモノだ。まだ寒いからクリーム色の毛布も追加して快適な温度環境で俺は過ごせている。
昨日は風呂も入らず皮を着たまま眠ってしまった。
朝風呂に入ろう。ベルトコンベアーに座りスイッチを入れるとベルトが逆回転。
なんだどうしたと目を白黒させていると階下からベルトに乗って段ボール箱が何個も運ばれてきた。その数60個。
アッという間に部屋が段ボールだらけになり、身動きがとれない。すると60個目の段ボールがパカっと開き、大きなスイカ男🍉が登場した。スイカ男🍉は俺を見下ろし、
「ハハハッ、久しぶりだなミスターバナナ。相変わらずだな。俺が誰だかわかるかい?そう、俺はキウイ婦人🥝の長男だ。俺のマザーをそそのかし何年もこの家に居座りやがって。やっと海外赴任から戻ってきたぜ。今日から俺がこの家の主だ。ここは物置にする。出ていけ!」と、口の中から種を飛ばし捲し立てた。
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20年ぶりのスイカ男🍉だ。昔はあんなに小さかったのに特大サイズになっている。
「そうそう、先週起きた銀行強盗の犯人が着ていた皮とお前の皮がそっくりだったとマスクメロン伯爵🍈が仰られていたなあ、お前がやったんじゃないか?」
俺は何のことだか分らぬので、止まったベルトコンベアーに飛び乗り一気に駆け下りた。
キッチンに行くとキウイ婦人🥝がうなだれた様子で、でもしっかりと目を見開いてこう言った。
🥝「マスクメロン伯爵が銀行強盗の犯人はあなたなんじゃないかと言い出して警察犬が嗅ぎまわっているらしいの。」
🍌「そんなバナナ。俺は屋根裏部屋とバスルームとキッチンしか往復していない。外に一歩も出ていないのにどうやって銀行強盗ができるというんだ。アリバイ証明してくれよ。おばさん。」
🥝「私もよくわからないけど、今は遠隔操作でなんでもできる時代よ。裏で手を回し、知らない間に罪を擦り付けられたいうゴシップ例もあるわ。今は何も言わずここから出て行った方があなたの為になるんじゃないかしら。」
🍌「そんなバナナ。いや、もしかして、昔トイレで財布を置き引きされたことがあったよ、まあ、現金は200円だけしか入れてなかったけども、でもパスポートが入っていたから警察に届けたことがあったよ。出てこなかったけども。悪用されていなければよいがと思っていたけども。もしかしてあの時に?」
🥝「いやそれは知らないわ、ミスターバナナ。私にできる事はこれくらいしかないの。ミスターバナナ。」
婦人は涙をにじませ、数枚のクッキーと片道切符を俺のポケットにねじ込んだ。
キウイ婦人🥝の後ろからスイカ男🍉がニヤニヤしながら近づいてきた。善意なのか悪意なのか見分けがつかない笑い方だった。「ありがとう、さようなら」俺は二人に別れを告げ皮一枚で外へ飛び出した。
つづく
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