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江部航平
2024年8月22日 15:26
窓に触れる木の葉々が風に揺れて、屋上からおが屑を撒くみたいにがさがさ、さらさらと音がする。八月も暮れに差し掛かり、公園の向日葵はもううつむき始めている。「もう寝よう」僕の声にランテコはなんにも応えなかった。彼女は窓の外を見ていた。夜の波が音もなく窓にぶつかっては引いていった。言葉は独り言になって床に転がり、水屋の角にぶつかって真ん中から割れた。 部屋には僕と彼女の二人きりで、他にあるものとい
2024年7月15日 10:59
盆を過ぎ、駅前の夜はじっとりとした熱気の中にあった。拭えぬ湿気の中に漂うたばこの匂いが鼻に当たり、目前を歩く中年の男が手に差した小さな赤い光に視線が当たる。男が歩くたび、腕が振れて赤い点が暗い中で明滅する。僕はシーツやらTシャツやら何やらがぎゅうぎゅうに詰め込まれたIKEAの青いキャリーバッグを手に歩いていた。街灯が道路脇に植った低木の葉々をぼんやり照らし、その景色が歩道を沿っていた。低木の導く