高齢な親の介護日記⑯
2024年11月3日 日曜日 晴れ
認知症の父を隣町Aに連れて行き、かつての父の友人達に会わせてみた。
父がまだ隣町Aで一人暮らしをしていた頃、よく集まっていた仲間で、父が認知症だと知っている女性2人と男性1人。2年前は父もまだ認知症予備軍であったものの車をほぼ毎日運転していたので、よく車で友人達をランチやモーニングやらに連れていっていた。
その後、施設に入居してからも、父はLINEで友人との連絡は続けていて、男性は父の入居先にも一度遊びに来てくれている。もっとも最近はLINEの操作を忘れてしまい、私がかわりに文章を送っているのだけれど。
久々に会えたら嬉しいだろうなとは思っていたけれど、父はもう1人では隣町Aには行けない。私が連れていけば何とかなりそうだけれど、そこまで面倒なことをしなくてもいいだろうとも思っていた。
そう思っていたある日、父の入居している施設の前に救急車がとまっていて、その救急車に施設から小さなおじいさんが運ばれていくのを目撃してしまう。
そして、そのおじいさんが父とぴったり重なった。
あの時、父をA町まで連れて行って友人に会わせてあげたら良かったと後悔するかもしれない。
それは今かも。
気候もよくなってきて外出しやすい今を逃せば、来年は父の心臓病も認知症もまた一段と進んでいるだろう。
そんなこともあり、思い切って隣町Aまで一緒に行ってみないかと父に提案してみた。
父はよく電話をする高齢の女性に11月3日にA町まで行くけど会えないかと電話で伝えると、彼女は大喜びで他の2人も誘ってくれて、ついに父と友人達が2年ぶりに再開する日取りが決まった。
さて2年ぶりの再会の前日、私は父に、明日は朝の9時半に迎えに行くねと電話した。
すると父は、明日は何か予定があるのかと聞いてきた。
あんなに楽しみにしていた約束をすっかり忘れている事に、もはやもう驚かない。
そしていよいよ今日、約1時間半かけて父と電車でA町に向かった。その電車の中で、
あんたも一緒に来るんか?
何時に待ち合わせだったっけ?
あんたの旦那は今日は仕事か?
どこで待ち合わせやったっけ?
今日は何曜日だったっけ?
俺は何歳だったっけ?
という質問を7回ぐらい順番にされ、こんな状態の父を会わせて本当に大丈夫なのだろうかと不安になる。
なんとなく認知症なのかなとわかっていても、約2年ぶりの再開なので、かなり驚かれるのではなかろうか。その場合、父の自尊心は大丈夫なのだろうか。
不安の中、約束の時間に約束の場所まで父を連れて行くと、父の友人の1人と合流することができたので、その方に父を託して私はその場を立ち去った。
約2時間後、父から連絡があった。
電話越しの父の弱々しい声に不安を抱きながら父を迎えに行くと、なんともいえない歪んだ顔の父が友人達と駅で待っていた。父の友人達に早々に別れの挨拶をして別れると、父はかなり疲れているのか早く帰りたいと言った。
電車の中で父は眠っていた。晩御飯を私達家族と一緒に食べて帰るかと聞くと、父は施設で食べるからいいと言った。
やはり認知症の父をかつての仲間に会わせるのはよくなかったのだろうか。
私の勝手な推測だけれど、昔と同じような気持ちで会話に入ろうとしても、話の内容についていけなかったりで自信をなくし、取り繕うのにかなり疲れたのかもしれない。
父の疲れきった歪んだ顔からは楽しかったの微塵も垣間見ることはできなかった。
しかしこれで、父のためにあの時ああしておけば良かったと思う事はひとつなくなった。
元気だった頃の思い出は、そのままそっと胸にしまっておくほうが本人のためになるのだと、身を挺して理解することができたのだから。