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観葉植物はじめました

 観葉植物イイですよと喫茶店の店長さんに勧められたのがはじまりだった。




 近頃よく行く喫茶店があるのだが、そこの店長さんと仲良くなった。

 仲良くなったきっかけは、初めて喫茶店に伺った際、僕が図書館で借りたホラー映画の写真集を窓際で1時間ほどぱらぱら読んでいた時のこと。

 自分としては、
「なんか面白いアイデア無いのか?」
と探しつつ、軽い気持ちで読んでいただけだった。
 でも店長さんからしてみれば僕の姿は、
「見たことない男が店の端っこで怖いタッチの写真と1時間ずっとにらめっこしている」ように映ったのだろう。
 その、ある意味、怖い写真よりも怖い僕の姿が気になったのか、お会計の際に、
「あのー、ずっとなにを読まれてたんですか?」
と店長さんに声をかけられた。

 しかし、急に話しかけられたことへの動揺と、変な本を読んでいた奴と思われたかもしれないことへの照れにより赤面した僕は、
「いや、あの、まぁ、その、ホラー映画の写真集なんですけどね、はい。へへへ・・・」
と、歯切れの悪い返事をしてその日は逃げるように店を出てしまった。

 そういう時にごにょごにょと返事をしない人間になりたい。

 しかし数日後に再び喫茶店に伺うと、
「あ、ホラーのお兄さんじゃないですか!」
と店長さんにまた声をかけてもらえたのだった。
 その時に僕は、
「ホラーのお兄さんってあだ名で覚えられていたのか・・」
と思い、2度目の赤面をカマしたが同時に、気さくに声をかけてもらえたことがなんだかとても嬉しかった。

 結局、その日以来よく店に行くようになり、今や店長さんに近いカウンター席で仲良く談笑できるまでになった。

 お店の人と親しくなると日常にしあわせがひとつ増えたような気分。




 そんな、声をかけてくださった店長さんとつい先日、趣味の話で盛り上がった。
 その際に、
「いやー、人に話せるコレといった趣味がないんですよねえ・・・」
とちっちゃな悩みを漏らした。
 するとその際に、
「え、だったら観葉植物イイですよ!」
と店長さんに勧められたのである。

 それがはじまりだった。

 店長さんいわく観葉植物は趣味に向いているとのこと。

 店の中には観葉植物がたくさんあり、喫茶店の雰囲気を明るく穏やかで清新なものにしていた。

 僕はその空気感に惹かれて店に通っていたこともあったので、その勧めには説得力があった。

 しかもおまけに、
「観葉植物は種類によるが週に1度水をあげるだけでもいい」とか、「最初は3COINSに売ってるような安い植物から選べばいい」とか、はじめるハードルを地面スレスレまで低くするような情報まで教えてもらえた。

 だから、観葉植物すぐにでもはじめてやるぜとその場で決心したのであった。




 とはいえ、観葉植物をはじめるもなにも、植物の飼育なんぞ小1のアサガオや小2のプチトマトで止まっている。

 そんな自分からすると、一体何からどうはじめればいいのかさっぱりワカラナカッタ。

 だからGoogle先生に、

「観葉植物 最初は」
「観葉植物 おすすめ」
「観葉植物 育てやすい」
「観葉植物 費用」
「観葉植物 ひとり暮らし 男 キモい」

など、初心者丸出しの質問とキモさを問う質問を投げた。

 するとGoogle先生は、あらゆる質問にわかりやすくかつ、若い男が植物を育てる行為がキモくないことも教えてくれた。

 そしてその質問と学びの過程で、とあるyoutubeの動画に出会った。

 それがこちら。

 この『植物系男子研究室』というチャンネルの【超入門シリーズ】の動画である。

 これら2本の動画は、観葉植物をはじめる人向けに、観葉植物の選び方や必要なものを説明してくれた。

 また植え替えという、買ってきた植物を鉢に移す作業の方法も説明してくれた。

 しかもビジュアル的にたいへん見やすく。

 これらの動画を見ただけで早とちりにも、
「もうこの2本の動画を見るだけで観葉植物育てのスタートラインまですぐ立たせてもらえるじゃん!チョロすぎ!」
と思ってしまうくらいには素晴らしく充実した内容だった。

 事実、良い意味でチョロかったし。

 そのため僕はこの動画に倣って観葉植物をはじめることにした。



 まず、はじめるにあたって、観葉植物の購入の前に、植え替えのために必要なモノを揃えることから手を付けた。

 動画によると植え替えで必ず準備すべきものは、

・鉢
・観葉植物用の土
・鉢底石
・鉢底ネット
・割り箸

で、必ずではないが準備したほうがいいものは

・ゴム製の手袋
・新聞紙
・小さなスコップ
・オルトラン(虫除け用の農薬)

とのことだった。

 僕は、新聞紙はビニール袋、小さなスコップは使い捨てのスプーンで代用し、あとの物は実際に買うなどして揃えた。

 費用は総額2000円くらいで済んだ。安い。

 ただ、揃える過程で、Amazonで買ったオルトランについては色々ハプニングが起きた。

 ちなみに、それについては前回の記事に書いたので良かったら読んで頂きたい。







 そして植え替えのための道具を揃えた後、今度は観葉植物を選びに、喫茶店の店長さんオススメの3coinsに足を運んだ。

 3coinsには、『植物系男子研究室』の動画に映っていた育てやすい植物がいくつもあった。

 だからその中から選ぶことにした。

 植物コーナーの真ん前にいた主婦達を押しのけて30分熟考。

 その結果、「サンセベリア」という植物を購入することに決めた。

 その理由は大きく3つ。

 1つ目。
 サンセベリアは水やりをする頻度が「2週間に1度」で済むから。
 水やりの手間がほぼかからない低カロリーな育て方が出来る楽ちんぷりに胸が躍った。
 その上冬場は休眠状態に入るため全く水をやらなくていいらしい。
 なんて手間のかからぬ自立心旺盛な植物!

 2つ目。
 葉っぱの形が奇抜で存在感があったから。
 鋭く上を向いた、分厚くてドシッと構えた葉の容貌に惹かれるものがあった。
 アート。あれはアートだね。

 3つ目が、2000年代前半にあったらしいサンセベリアブームを終え、現在はブームが過ぎ、人気が落ち着いているという、時代の荒波を乗り越えてきた植物であるという点に渋みを感じて好感を持ったから。
 東京スカイツリーの現役バリバリ感も格好いいが、東京タワーの全盛期を過ぎた少し寂しい気配もたまらなく好き。
 そういう気配をどこかサンセベリアにも感じた。


 ゆえにサンセベリアを育てることにした。




 その後しばらくして植え替えの作業を行った。



植え替え中の写真



 鉢底石を鉢に詰めたり、観葉植物の土を鉢に詰めたり。

 『植物系男子研究室』の動画を見ていたので作業はスムーズに、良い意味でチョロく行うことが出来た。

 また普段、実際に土や植物に触れて匂いを感じるという経験をしていないから、作業自体とても新鮮だった。

 湿った土の重みを感じる匂いや、サンセベリアの根っこのゴワゴワとしていて繊細な触り心地はとても刺激的なのに、同時にリラックスをもたらしてくれたような感覚があった。

 それが面白かった。



 そして、植え替え時にふと考えたことなのだが、僕を含め現代の人間は生活の中で、五感で言うところの、視覚と聴覚と味覚の働きに集中しすぎている気がした。

 視覚(スマホを見る)や聴覚(音楽や動画を聴く)や味覚(食事を採る)で満たされすぎているというか。

 逆に言うと、触覚(緑に触れる)や嗅覚(土の匂いを嗅ぐ)を働かせる体験が生活の中に足りていないような気がした。

 で、そういった不足しがちな感覚の栄養素、心の栄養素を摂れるなら、観葉植物は趣味として素晴らしいなと思った。

 とはいえ、観葉植物と名前がついているので、
「お前、触覚と嗅覚を働かせることの出来る趣味は良いみたいなこと言っておきながら、視覚メインの趣味はじめようとしてんじゃねえか。観るメインじゃねえかインチキなこと言うな」
というような反論も起こりそうだが、そこはご愛嬌だということにして許してほしい。

 それに、そんな反論をしてくるカリカリした貴方にこそ観葉植物はオススメだよん。

 僕はきっとこれからもサンセベリアとの交流の中で、綺麗になった空気を嗅いだり、水気の有無を確かめるべく土を触ったりするだろう。

 そこで嗅覚と触覚の埋め合わせをするために。
 もちろんサンセベリアのためにも。

 そして、その上で、視覚もバチバチに使って楽しんでやろう。

 観葉植物を鑑賞し、網膜にグリーンを映しまくってやるぜ。




 いやー、にしても、けっこーいい趣味なんじゃないか?

 観葉植物を育てるっていうのは。

 手間もそれほどかからない。
 初期費用も安い。
 日常に不足した感覚をもたらしてくれる。

 なにより植物がある暮らしってのは素敵だ。
 なんだかとってもきもちいい。



 良ければこれを読んでくださった方も観葉植物はじめてみては?

 日常に幸せがまたひとつ増えますよ。

 ということで、僕はこれから喫茶店に行って、観葉植物をはじめた報告と感想を店長さんに伝えたいと思います。

 それでは、さようなら。

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