装飾写本《ベリー公のいとも豪華なる時祷書》より(後編)
此れは、中世フランスの一年、12ヶ月を通しての当時の暮らしが描かれた門外不出の豪華本。15世紀に王族が作らせた装飾写本です。
|時祷書《じとうしょ》とは、日本人には馴染みのない言葉ですが。文字其の物からの感じでは、「時と共に祈る為の書物」となります。
前編に続いて後編として7月から12月までの話です。
[7月]小麦の刈り入れと羊の毛刈り
夏の盛り7月、農民たちの暮らしはますます忙しくなります。
城のすぐ側の麦畑と牧草地です。その間を小さな川が流れています。
左下の隅には、川の流れに浮かぶ白鳥の姿も見えます。
麦畑では小麦の収穫が、牧草地では羊の毛刈りが行われています。
来年はこの麦畑は休耕して、羊がその草を食べては消化された物が落とされ土地の力を回復させます。
自然の力で大地を守り蘇りを計る生活の知恵ですね。
描かれてはいませんが、羊の毛刈りの後は次の仕事が待って居ます。
洗浄、梳りなどの行程から糸を紡ぐ作業、機織り機で布地にして着衣を作るのです。全ては手作業で熟します。
厳しい冬が来る前に済まさなければ成らない大切な作業は夏場から用意を始めなければ成りません。
[8月]鷹狩りに出かける貴族の男女と、水浴する農民たち。
忙しく立ち働く領民たちに比べて何と呑気な貴族達でしょう。
男女そろって狩りに行くのですから。
何でも、狩りも、魚釣りもスポーツとか申しますからね。
あらあら、道すがら川では農民が素裸で泳いでいますね。昔はフランスの貴族と言えども風呂に入る習慣は有りませんから却って農民達の方が水浴びで身体を洗う事が出来たのでしょうが、石鹸も無い時代ですから清潔だったとは言い難いです。それにしても公衆の面前で.....
貴族の奥方も、其れを目にして見えない振りでしょうか、それともチラ見で楽しんだのでしょうか。
その様な8月は前の2ヶ月とは変わり貴族が鷹狩りに出かける様子です。
鷹狩りは貴族の遊びで、王侯貴族にだけに許された夏の娯楽でした。
先導する男性は長い竿を使って、茂みから動物を追い立てる役を担っています。
騎馬男性の後ろには女性も同乗しています。
狩りは毛皮を取る為か、動物の肉を食べる為、もしくは立派な角の有る雄鹿の頭部を壁に飾る為か、又は男性のみの遊び(唯、殺すため)かと思えば女性も同伴とは日本人には考えられませんね。
楽しそうに森へ出かけるこの挿絵、実は男女の愛を表す別の読み解きがあります。
鷹狩りの鷹は男性を表し、長毛の犬は女性を表しているそうです。これは開放的な夏の日に、森に出かけ仲睦まじく過ごす喜びを意味しています。
中世と言う時代「愛」は五感を満たすものとされていました。描かれている貴族が5人なのは、それも暗示しているようです。愛も視、聴、嗅、味、触の感覚でプレイするものなのですね。
宗教では禁止されている事も、上手く逃げ道が作られています。成る程、其れで妻帯禁止の教皇であっても愛人を囲っていたと言う話に納得です。
[9月]ブドウの収穫
農民たちが丹精込めて育てたブドウの収穫が行われています。
ロワール地方ではワインを作るための、ブドウが作られています。
腰を屈めてブドウを収穫する人々の後ろでは抓み食いをしている人の姿も見えますが、ワイン用のブドウの味は如何でしたでしょう。
ワイン用のブドウは小粒で意外と甘みが有るそうですが種が多いとか。
皮も硬そうに思いますがヨーロッパ人は皮も種も食べちゃうそうですから
収穫の際の抓み食いは有ったかも知れませんね。
収穫した葡萄は軸を取り去り樽に放り込まれ圧搾して果汁を絞りますが、其の昔は裸足でブドウをグチャグチャと潰して圧搾していたのです。
圧搾された果汁は樽に詰められ発酵となります。中世のワイン造りでは樽の底に溜った澱の処理はどうしていたのでしょうね。
それら全て手作業でワインを仕上げて行くのです。今年のワインの仕上がりは如何でしょうか。
[一寸一服]ワイン樽の底に溜った澱の処理
一節に寄ると、ワイン樽の底に溜った澱や不純物を取り除く為に大量の卵白を使用したと申します。
では「余った卵黄が勿体ないでは無いか」と言う事で16世紀頃、修道院のシスターたちが作りだした焼き菓子が、最近、洋菓子店やブーランジェリーで見掛ける「カヌレ」なのです。カリカリしたカヌレ、味わい深いです。
では、ワインを頂きながらカヌレを頂きましょうか😋🍷🍷
[10月] 冬越しの種まき
秋は、次の年に実を結ぶ冬小麦の種まきが行われます。
後方にはルーブル宮殿があります。
此処は花の都パリの中心地ですが、当時はこのように畑が広がっていたのでしょうか。この絵から察せられますが、まさか後のチュイルリー公園だった場所❓
うしろの畑、中央には弓矢を構えた案山子が立っています。
手前の畑では、既に人目を盗んで鳥たちが小麦の種をついばんでいます。
ノンビリしてますね〜片端から種を食べられては収穫に差支えが有ろうかと思いますが、鳥の腹を通って排出された方が肥料付と言う事で案外発芽率が良かったのかもしれません。
天変地異や自然災害も戦争もなく、季節が正常で平和な世が巡り去年と同じ仕事ができる事は、当時の人々にとっても、現代人に取ってもでも、とても幸せな事ですね。
[11月]森でドングリを食べる豚(豚は年末年始のご馳走)
ドングリに群がる太った豚たち、男達は樹上に向って棒を投げドングリの実を落としています。
男の上着は秋の日差しを受けて、黄金色に輝いています。横にはじっと豚を見守る番犬の姿が。
豚肉はこの時代、冬を乗り切るための大切な保存食になります。冬も間近なこの時期、豚飼い達は少しでも多くのドングリを落として、豚に食べさせ太らせるようにします。
肉は、塩漬けにして油は調理に使えます。血からはブラッドソーセージを作ります。勿論、脳ミソの料理も有ります。豚の耳はコリコリとして美味しいサラダになるとか、豚足はコラーゲンタップリ、骨だってスープの出汁が取れるでしょうから、余す所なく全てを無駄なく使い切っていたでしょう。
豚の皮もパリパリにコンガリ焼いたり...料理に使えます。
他には皮革製品にも使われたでしょうね。
[12月]イノシシ狩り(貴族の鍛錬でもある)
農作業が行われない12月。
郊外の森では貴族たちがイノシシ狩りをしています。
冬の野生動物はフランス人にとって、最高のご馳走でした。(ジビエ料理ですね)
後方の赤い服の男性は興奮した犬を引き離そうと耳を引っ張っています。
ズームして見ると中々エグい顔をしていますね。
右側の男性は角笛を吹いて、獲物を仕留めた事を仲間に知らせるための合図をしています。
仕留めた獲物は城に持ち帰り裏庭で解体に入ります。逆さに吊るして血を抜いて皮を剥ぎ...
さて、今夜の御馳走は猪の丸ごと焼きでしょうか。
いえ、丸ごと焼きは時間が掛かります。
日本なら、しし鍋って所でしょうが、フランスではどのような料理が供されたのか興味深いですね。
ボジョレーヌーボーの出来も良かった。クリスマスも近い一日です。
🍷 🍷 🍷 🍷 🍷 🍷 🍷 🍷 🍷 🍷 🍷 🍷 🍷
中世のヨーロッパの貴族や、その貴族に仕える人々の暮らしを垣間見ると此の様な物でしょうか。合間に戦争も有ったでしょうし通信は手紙と馬に鳩。
現在と違って当時は緊急の伝達事項は何日も掛かって、事が治まる頃に返信が届いたりしたのでしょうね。
まあ、時祷書の様子では平時の生活でしょうが、戦争でも起これば庶民や農民は大変です。何時の世でも犠牲になるのは多くの平民です。
平和な世が続いて...戦争中の国々も一日も早い解決で平時に戻り穏やかな生活が送れますよう願っております。
投稿資料はネットより、創作文を加筆しております。画像は所蔵本より。
下記の貼り付けは、1月から6月迄の時祷書の前編です。
写本に関してはミック@アート好きのノートさんが、詳しく御投稿をされておられますので貼り付けさせて頂きました。
御興味の有る方は閲覧されてくださいませ。
有り難う御座いました。