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もうひとつの童話の世界、12 はにわの『花子』3/3

はにわの『花子』3/3

 ナギサが玄関ベルを鳴らすと、ドアがゆっくり開き、思いのほか元気そうな  大和花子先生があらわれた。
「いらっしゃい。トンボ先生のせいとさんね。」
  タケルとナギサは ぺこりとおじぎすると、
「あのー、はにわの『花子』をもってきました。」
 大和花子先生はニッコリ微笑み、
「ちゃんとトンボ先生から聞いていますよ。
 さあ中にはいって。」
 応接室に通され、しばらく待たされると,ケーキとリンゴジュースがでてきた。
「みてもいい?」
 大和花子先生は、新聞紙の束を受け取り ゆっくりと開けた。
 そしてはにわを取りだすと、うれしそうに、
「なつかしい!
 あたしの作ったはにわにまちがいないけど?
 たしか、手を上げてたとおもうんだけど?」
 じっと見つめていた。
 タケルは、おかしそうに、
「また、きんちょうしてるんや。そのうち両手をあげるよ。」
 ナギサも、おかしそうにわらってる。
 大和花子先生は、ふしぎそうに、
「わたしと一緒にお墓に入れて欲しいっていったの?
 信じられない。
 でも、もしほんとうならうれしい。」
 タケルとナギサも、きんちょうしていたが、先生の喜ぶ顔がみれてほっとした。
「先生、ケーキたべてもいい?」
 大和七花子生はわらいながら、
「えんりょしなくていいのよ。どうぞ食べてね。」
 二人は食べながら、図工室でのできごとをはなした。
 大和花子先生は、いとおしそうにはにわの『花子』をみつめている。
 タケルはたずねた。
「『花子』って先生の名前?」
「そうよ、わたしの家のお庭には、いつも花がさいていたの。
 私の両親は花がだいすきで、花のようにみんなからあいされる子になってほしいって花子ってつけたの。」
 大和先生は、なつかしそうに昔のことをおもいだしていた。
「トンボ先生から電話があった時は、初めは信じられなかったけど。
 でも、あなたたちが来てくれて、こうしてはにわを見ていると、先生になりたてのころをおもいだすの。
 その時につくったこのはにわが、わたしのことをずっと忘れずにいてくれたなんて・・・。
 わたしが亡くなったら、わたしといっしょにお墓にいれてもらうね。
 それまでは、この壁の棚で私といっしょに住もうね。」
 大和七花子生は、少し涙ぐんでいた。
 先生が壁の棚にはにわを置くと、
「あっ、はにわの『花子』がよろこんで笑ってる!」
 ナギが小さく叫んだ。タケルも、
「ほんとうだ!『花子』よかったなあ。」
 タケルもなんかうれしくて、胸が熱くなってきた。
 大和花子先生は、気持ちが落ち着くと、自分の病気のことを話してくれた。
 病気が進んで、もう手術ができないこと。
 これからは、自分と向き合いながら生きていくときめたこと。
 二人には、たんたんと話している先生が、何か輝いて見えた。
 最後に先生は、
「あなたたちは、まだこれからの人生だから、自分のやりたいことをしっかり見つけてがんばりなさい。」
 と、ぎゃくにはげまされた。
 帰りしなに、もう一度はにわの『花子』みて、ナギサはびっくり、
「あっ、両手をあげてる!」
 先生も、タケルもびっくり。
「ほんとうだ。ばんざいしてよろこんでる。」
「うれしそうにわらってる!」
 みてるだけで、なにわの『花子』の気持ちがつたわってきた。

 先生の家からの帰り道、ナギサはずっと考えていた。
「タケルは、しょうらい何かやりたいことある?」
 ナギサがたずねても、タケルはなにもおもいつかない。
 しかし・・・、 
「うーん、おれは、『花子』のような自分の『はにわ』を作りたい。
 はにわにタケルと名前を入れて自分の部屋にかざりたい。」
「あっ、それいいね、あたしも自分のはにわを作りたい。」
 ナギサとタケルは、はにわの『花子』のうれしそうな顔をおもいだすと、トンボ先生に言って、クラスみんなで自分たちのはにわをつくりたいとおもった。


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