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もうひとつの童話の世界7  さみしい こえ


さみしい こえ

 ケンは ふしぎな子。
 あたまの なかで こえ がきこえる。 
 きこえる こえ と おはなしできる。
 こえが、たずねる。
「なに してるの?」
 ケンは こたえる。
「おえかき してる。」
「ひとりで さみしくない?」
「さみしくないよ。」
 こえ は しんじない。
「いつも ひとりで おるすばん。
 それでも さみしくない?」
 ケンは だまってる。
 こたえると さみしく なるから、 
 しずかに おえかき つづけてる。

 だれもいないのに ひとりで しゃべっている ケンを、
 おかあさんは しんぱいそうにみてる。
 はじめは、
「かわった子・・・。」と おもってた。
 おとうさんも
「へんな子・・・。」と おもってた。
 でも やっぱり しんぱいになって、
 ある日 おかあさんは、しごとを やすんで、 
 ケンを びょういんに つれていった。
 びょういんの せんせいは、 
 おかあさんの はなしを きくと、
「いつも だれかと おはなし してるの?」
 ケンは ちいさく うなずく。
「どんな おはなし してる?」
 ケンは こたえる。
「‐‐‐‐ いろいろ」
「いつから きこえる?」
「‐‐‐‐ わかんない。」
「どんな こえ?」
 ケンは くびを かしげて こたえる
「‐‐‐‐ さみしい こえ。」
 せんせいも くびを かしげる。
「どうして さみしい こえ?」
「さみしい子にだけ きこえるんだって。」
 せんせいは  
「きみも さみしい?」
 ケンは くびを かたむけた。
 よくわからない。
 こえが さみしいのか、
 ケンが さみしいのか 
 おかあさんは せんせいに たずねた。
「びょうきで しょうか?」
 せんせいも、くびを かたむける。
「なんとも いえないですね。
 もうすこし ようすを みましょうか。」

 かえりみち、
 おかあさんは ケンに たずねる。
「ひとりで るすばんして さみしくない?」
 ケンは くびを よこに ふった。
「こえ と おはなし できるから?」
 ケンは ちいさく うなずいた。
 おかあさんは、しんぱいそうに ケンと てを つないだ。
 いえに かえると おとうさんが きいてきた。
「どうだった?
 せんせい、なんていった?」 
 おかあさんは、
「もうすこし ようすを みてくださいって。」
 おとうさんは しかたなく うなずいた。
 ケンは おえかきを つづけてる。  
 こえと  おはなし しながら、 
 おえかき つづけてる。

 つぎの日 こうえんで カナちゃんが はなしかけてきた。
「ケンちゃん だれと おはなし してるの?」
 ケンは こたえる。
「こえ と おはなし してる。」
 カナちゃんは くびをかしげる。
「こえ って?」 
「あたまのなかに きこえてくるんだ。」
 カナちゃんは ふしぎそうに たずねる。
「あたしも、こえ と おはなし できる?」
 ケンは うなずいた。
「できるよ。カナちゃんも こえ と おはなししたい?」
 カナちゃんは、いつもひとりで おるすばん、
「あたしも こえ と おはなし したい。」
 ケンは カナちゃんに ちかずくと、 
 耳もとで ちいさく つぶやいた。
「こえ さん カナちゃんと おはなし できますように。」
 しばらくすると カナちゃんが さけんだ。
「あっ きこえた!」
 こえ が カナちゃんに はなしかける。
「あなたは だあれ?」
 カナちゃんは こたえる。
「あたしは カナ。
 あなたは だあれ?」 
「わたしは こえ。
 あなたの なかに すんでる。」
 カナちゃんは うれしそう。
 こえ と ともだちになれた。 

 ケンは こえ に たずねる。
「こえ も ともだち ほしいんだ?」
「‐‐‐‐‐‐‐。」
 こえ は なんにも こたえない。
 でも ケンには わかってる。
「こえ も おはなし できる ともだちが ほしいんだ。」
 それから ケンは さみしい子を みつけると、
 その子の 耳もとで そっと ささやいた。
「こえ さんと おはなしできますように。」
 すると、
 さみしい子にも、こえが きこえてきた。
 こえは、たのしそうに はなしだす。
 しらないあいだに、 
 こえ と おはなしできる子どもたちが、
 まちじゅうに あふれていった。

 それでも、
 ケンは、やっぱり ひとりで おえかきしてる。
 ママは、やっぱり しんぱいそうに ケンを みてる。

 



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