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米国大学院時代の友人が大切にした日々の習慣とその効果30年後

 37歳の私は博士号を目指して米国留学を決意、12年間勤めた会社を退職、妻と娘二人を連れて米国へ渡りました。そして大学院で出会ったのが同じ研究室のデールでした。
 デールはアイオワ州立大学で獣医学部卒業後、5年間大動物臨床に従事した後、イリノイ大学で修士、そしてミネソタ大学へ博士号を取りにやってきていたのです。専門は農業動物でのデータサイエンスです。
 こんなに研究に没頭できる男を見たことがありませんでした。朝7時にパソコンのスイッチを入れ、夜7時にスイッチを切るのです。その間12時間、昼飯は軽食用ベビーニンジンをかじり、ジュースかコーラをパソコンの画面を見ながら飲むのです。耳栓をしてひたすらキーボードを打つか、考えこんでいるのです。たとえ3分でも世間話をしようものなら、彼は不機嫌になります。
 私も彼の研究スタイルを見習おうとしてみたのですが、昼の3時を過ぎると、体力も気力も続かない、一週間でもう疲れてだめでした。身長2メートルの大男の体力とスタミナと集中力は驚異的でした。
 彼の机の前には「人生で多くのことをするための10の習慣」という張り紙がありました。そして彼はそれを確実に実行していたのです。
 1)「早起きせよ」前もって朝にするタスクと、その日の優先順位を決めておくのです。
 2)「一度に一つのことに集中せよ」1つのタスクに集中して予定を完了させてから、次のタスクに移るのです。そうすれば多くのことも同時進行でできるのです。
 3) 「ぐずぐずと先延しするな」決めるのが早い男でした。私は優柔不断なところがありました。デールの習慣を知ってから、間違ってもいいから早く決めるようにしました。間違いは修正できます。始めない仕事は修正もできないのです。
 4) 「アイデアを書き留めよ」彼の机の周りは、あらゆるところに付箋メモを貼ってありました。
 5)「ディスカッションでは積極的に耳を傾けよ」彼はセミナーなどでディスカッションになると必ず発言していました。よく聞き、よい質問をすることでディスカッションの中から新しいアイデアが生まれます。
 6)「任せられることは人に任せよ」仕事を細分化してそれぞれの部分を他人に任せる、アメリカ流の賢いやり方、と言えるでしょう。スケールの大きい仕事、多彩な仕事をこなすには不可欠なやり方だな、と思います。
 7)「事務仕事は最小限に。そして書類をみるのは1度だけに」組織の中で働いていると、書類と事務仕事に巻き込まれて、時間が過ぎていきます。でも本当の仕事はそこにはないのです。
 8)「絶えず自分自身に問い続けよ。 今、私の時間を何に使うか?」デールは時間の使用に注意深い男でした。自分の時間も人の時間も浪費してはならないのです。
 9)「人生の目標のリストを定期的に見直せ」何のための人生なのか、自分は何をしようとしているのかを問い続けることは大切です。日々の忙しさの中で、大切なことを忘れてしまうことがあります。自分のキャリアにおける使命・目標・専門分野を入れた業績・職務経歴書(CVと言われます)を彼は定期的に改訂していました。
 10)「何をしても楽しんでやれ。重要なことのための時間は常に十分にあるのだから」楽しいと一生懸命やれるし続けられます。また時間がないことに疲れてしまうことがあります。時間は十分にあると知ることは大切です。
 周囲の院生のなかで、研究者としてのスケール、馬力、アイデアの多さで彼以上の男はいないのでは、と敬愛していました。多くの研究プロジェクトを巨大なエネルギーで実行していました。荒野を爆走するブルドーザーのようでした。
 就職活動も強かった。当時の不況の中にあっても、面接に行くすべての団体で内定をもらってきました。2つの大学から教員に、と内定をもらっていました。特にある大学からは破格の条件をもらったようでした。最終的に彼が選んだのは、当時は中堅どころのワクチン会社の獣医技術サービス部門でした。
<習慣の30年後の結果>
 デールはあれからも同じ会社の技術サービス部門で働いています。社長など上級管理職を目指すこともできたはずですが、彼は専門家として生きる道を選んだようです。
 昨年、デールが米国での講演会に招待され講演を行った記録がネットで公開されていました。そこで講師による自己紹介文を見つけました。大学院時代と同様に、多くのアイデアと多くのプロジェクトの中にいるようです。そして個人生活も多彩な趣味で充実しているようです。
あれから30年後の彼が今、個人生活で楽しんでいることは
家族、バックパッキング、読書、音楽
 家族を大切にしてきたようです。高校時代から交際していた奥さんとの間に4人の子供がいること、さらに卒業してからは夫婦で山歩きをよくしてたのは知っていました。
 読書・音楽が好きだったことは知らなかったです。自己紹介文に読書・音楽が好きと書くのは、造詣が深い自信があるからかと思いました。また彼が学生時代にモットーとした10の習慣の中には「家族や趣味を大切に」とはなかったのですが、そこはアメリカ人で、個人生活の充実は当然のことだったのでしょう。彼の楽しんでいることはまだ続きます。
考えること、学ぶこと
創造的な人々と革新的なことに取り組むこと
現状に挑戦すること
 ある程度の年齢、地位になるとなかなかできないことです。学生時代と同様にストイックな気持ちを今も持ち続けているようです。私自身への戒めになる言葉です。

専門的な関心も自己紹介文にありました。
動物生産システムの設計と改善そしてその成績測定」大学院時代から同じデータサイエンスの分野にいるのです。あれから30年、研究を深化させているのです。
病気のリスク評価・分析システム」:コロナ禍の時よく使用されていた感染症疫学的な分析の動物版です。
ビッグデータ管理システム」:農場には多くのデータが記録されています。これを深堀りできれば多くの有用な知恵になります。
サイバーフィジカルシステム(CPS)」:農場においてセンサーで観測記録した動物のデータを、定量的に分析するシステムです。
 後半2分野は彼が大学を去ってから新しく登場した分野です。彼は新しいことを常に追いかけているようです。
 デールは動物の病気を治療するのではなく、動物生産のデータを扱うデータサイエンスの専門家の道を歩いてきているのです。大学院時代と同じスタイルで、新しい分野も取り入れ進化してきている彼の足跡がうかがえました。
 卒業してから30年、アイデアがたくさんで、多くのことを同時に進行させて、相変わらずやっているようです。どうやら彼の大学院時代からの10の習慣は、彼のその後の人生に多くのことをもたらしてくれたようです。
 彼の活躍を見たり聞いたりすると、30年前に彼が実践していた習慣を思い出します。人生での大切な日々の習慣、それは生き方です。そして彼の習慣はいつのまにか私の人生の生き方に大きく影響していることに気づきました。
イラストはmage.spaceでAI生成しました。

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