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続・空家対策に感じる違和感

前回、「空家対策に感じる違和感」というタイトルで記事を書いたところ、想像以上にたくさんの方に読んでいただき、色々なご意見が寄せられ勉強させてもらいました。ありがとうございます。

今回は、「住宅政策の矛盾・ねじれ」という視点で感じたことを記してみたいと思います。

1.再建築率が示す日本の住宅事情のヤバさ

皆さんは「住宅の再建築率」という言葉を聞いたことがありますか?
日々の暮らしの中では、まずお目にかからない言葉ではないかと思います。
国土交通省が公表している『住宅着工統計による再建築状況の概要』によると次のように定義されています。

住宅の再建築:既存の住宅の全部又は一部を除却し、引き続き当該敷地内において住宅を着工すること
再建築率:全新設住宅着工戸数に占める再建築に係る新設住宅着工戸数の割合のこと

つまり、全国の新築住宅のうち、既存の敷地で建て替えしている住宅がどれくらいあるかの割合ということです。
先の国交省の資料のよると、令和4年度の住宅新築着工戸数:86万戸に対して、再建築戸数は4.8万戸で、再建築率は5.6%となっています。
これ、正直驚きませんか?
だって、同じ敷地内で建て替える住宅が1割もないんですよ?
驚愕の少なさだと思いませんか?
94.4%の住宅はこれまで住宅がなかった土地を開発するなどして新築されているということになります。

さらに、この再建築率の推移を調べてみると、平成15年度の14.0%から年々減少し、ここ20年で割合が半減してしまいました。

国として「コンパクトシティ」を標榜して久しいですが、コンパクトどころかスプレッドしてしまっている状況に、とても危うさを感じます。

2.国際的にみても低い中古住宅の取引率

次に、中古住宅の流通と新築の関係についてみてみたいと思います。
総務省「平成30年住宅・土地統計調査」と国土交通省「住宅着工統計(平成30年計)」のデータによると、日本の中古住宅の取引戸数は平成30年度で16万戸です。
同じ年度の新築住宅着工戸数が94.2万戸なので、中古住宅と新築住宅の流通量全体に対する中古住宅取引の割合は約14.5%になります。
先ほどは、新築着工戸数のうち同じ敷地で建て替えられた住宅の割合(再建築率)についてみましたが、これは、新築と中古の住宅の全体取引量のうち、中古住宅の取引量がどれくらいの割合を占めるか、という見方です。
中古住宅、圧倒的に少ないですね。
全国には空家が900万戸もあるというのに。

一方、住宅が社会インフラとして多くストックされている欧米の事情はどうなのでしょうか。
国交省が公表している資料によると、多くの日本人が想像しているとおり、欧米の中古住宅の流通割合は日本のそれと比べてはるかに高いです。(2018年度データ)

アメリカ:81.0%
イギリス:85.9%
フランス:69.8%
  日本:14.5%

https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001323215.pdf

なぜ欧米とこれほど違いが生まれてしまうのか。
僕は学者でないので確たることを述べることはできませんが、生成AIに質問してみました。

日本で中古住宅の取引量の割合が欧米に比べて少ない理由は、いくつかの要因が考えられます。以下に主な理由を挙げます:

1. **文化的要因**: 日本では新築住宅に対するこだわりが強く、「新しいものが良い」という考え方が根強いです。これにより、多くの人が中古住宅よりも新築住宅を好む傾向があります。

2. **住宅の品質と耐久性**: 日本は地震が頻発するため、建物の耐震基準が厳しく設定されています。このため、古い建物は耐震性の面で新しい建物に劣ると見なされることが多いです。また、日本の住宅の寿命は比較的短く、20~30年程度とされています。このため、古い住宅の価値が下がりやすく、中古住宅市場が活発でない原因の一つとなっています。

3. **法制度と税制**: 日本では、新築住宅を購入する際に受けられる税制上の優遇措置が多くあります。例えば、住宅ローン控除や固定資産税の減額などです。一方で、中古住宅にはこうした優遇措置が少ないため、新築住宅が選ばれやすくなっています。

4. **リフォーム・リノベーションの文化**: 欧米では中古住宅を購入して自分好みにリフォームすることが一般的ですが、日本ではリフォームやリノベーションの文化がそれほど根付いていません。このため、中古住宅を購入して改修するという考えが浸透していないことも、中古住宅市場が発展しない一因です。

5. **不動産市場の構造**: 日本では不動産業者が新築住宅の販売に力を入れる傾向があります。新築住宅の方が利益率が高いためです。また、不動産取引の透明性が低く、中古住宅市場が活発でないことも問題となっています。

これらの要因が複合的に影響し、日本における中古住宅の取引量が欧米に比べて少ない状況を生み出しています。

ChatGPT

さらに、日本の景気判断として住宅着工件数の多寡を重要視する伝統も影響しているかもしれませんね。
あくまで新築がベースなんですよね。
一方で、例えばアメリカの場合は、中古住宅販売件数(Existing Home Sales)という指標があり、経済の健康状態を評価するための主要な指標の一つとされているそうです。
毎月発表があり、行政関係者や経済アナリスト、投資家が注目しているそうです。
中古住宅の市場が大きいから、これらの指標が注目を集めやすいということもあるのでしょうが、日本とはこういう点でも大きな違いがありますね。

3.まずは住宅政策と都市政策の矛盾から

今回取り上げた2点をみても、どうも日本の住宅政策は矛盾が生じてしまっていると思います。

  1. 人口減少に伴い都市をコンパクト化すべきところ、住宅を再建築せずに土地の開発が進んでいる

  2. 多量の空家が発生しているにもかかわらず、中古住宅ではなく新築住宅が取引の中心になっている

現在の空家対策は、まさに対症療法的なものです。空家の利活用の促進もそうです。
これらは一定程度、必要な取組だとは思いますが、空家問題の根本的な解決には、日本の住宅政策ひいては都市政策そのものを抜本的に変えないと、大きな変化は起こらないのではありませんか?
いや、国もそんなことは百も承知で、さまざま手を打っているわ!と怒られてしまいそうですが、例えば中古住宅流通の切り札でもある長期優良住宅ひとつとっても物足りない点はある気がするんですよ。
長期優良住宅の断熱性能は、現在、等級5以上のはずですが、2030年には長期優良住宅の認定に関わらず最低水準になってしまうし、そもそも認定にあたってデザイン性とかは全く無関係だし、中古住宅の価値を高めるための認定制度としては緩いですよね。
それに、結局、立地適正化計画の居住誘導区域外などでも長期優良住宅として認定されるので、再建築率が上がらない要因の一つになっているような気がします。

これらの点だけをとっても矛盾というかねじれが生じていると思いませんか?
ただし、こういう課題の解決は、国だけが取り組めるものかというと、決してそうではなくて地方自治体にも取り組める余地があると思います。
さらに言えば、行政だけでなくて不動産業界や建設業界などの民間企業とも意識を共有し連携することが不可欠です。
言うは易し、ですね。一歩ずつ行動に移していかねば。


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