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あなたにもできる!学校断熱ワークショップのススメ

今、各地で広がりを見せている学校断熱ワークショップの魅力とは何なのか。
実際に進めるにはどのようにしたらよいのか。
2023年3月25日に神奈川県藤沢市で実施した学校断熱ワークショップの体験を元にその魅力とHOW TOをまとめました。
失敗や反省点も全て記載しています。
これを読めばあなたの地域でも学校断熱ワークショップができます!

⒈学校断熱ワークショップってどんなもの? 

(1)断熱とは

その名のとおり「熱を断つ」ことを言います。
建物で言えば屋外からの熱を屋内に伝えにくくすること。
夏は室内の温度上昇を防ぎ、冬は冷気から室内を守ります。
冷房や暖房の効き方にも影響するので、断熱をすると省エネルギーにもつながります。
さらに、急激な温度変化を防ぐことができるので、ヒートショックなどになりにくく、健康にも大きな効果があると言われています。

(2)ワークショップの意義と目的

  • 教室の環境改善・・・昭和から平成前半に建築された公立の学校の多くは断熱性能が低く、簡単な断熱工事を施すことで室内環境を改善させることができます。

  • 断熱効果の検証・・・教室内の暑さや寒さを体感できるほか、温度変化や電気使用量を計測することで、建物を断熱することによる効果を確認することができます。

  • 環境やエネルギー問題への意識の啓発・・・脱炭素や省エネルギーを身近な問題として捉えるきっかけをつくることができます。また、子どもたちと教室でこういった社会問題をテーマにしたワークショップをする、ということ自体がインパクトがあるようで、様々なメディアに取り上げられることが多く、意識の啓発には大きな効果があります。

(3)ワークショップの概要

環境学習の要素を加えながら学校の教室で子どもたちとDIYで断熱工事を体験するものです。
主な断熱工事の内容は次のとおりです。

  • 外気に面する壁の断熱化

  • 外気に面する開口部の断熱化

  • 天井の断熱化

詳細は「⒋断熱工事はどうやるの?」で説明します。
このほかに教室の廊下側壁を断熱化したり、適切な二酸化炭素濃度を保つために換気設備を設置したりする例もあります。

⒉どのように始めるの?

(1)チームビルディング

断熱WSは一人ではできません。
広報や資金調達、現場の調査・設計・施工、参加者の募集など、やることがたくさんあります。
これまでの事例を見ると、チームの構成としてよくあるものは、市民や団体、工務店などの建設会社、行政の職員、断熱のスペシャリストらが一つのチームとなって運営しているケースが多いです。
では、誰がWSをやろうと言い出すのか、ということですが、これは正直誰でもよいです。
全員が趣旨やビジョンを共有できていれば、誰が言い出したとしても同じ方向に進むはずです。
藤沢市の場合、WSの発起人は私でした。もちろん一人では何もできないことはわかっていました。
そこで私が声をかけたのが「#7年後も本当に住みたい街大賞1位とるぞ藤沢プロジェクト」というめちゃくちゃ長い名前の環境保護などの活動を熱心にやっている団体のみなさんです。(現在は#6年後も…になってます)
彼らが藤沢市議会で公共施設の断熱化について一生懸命陳情しているのを聞いて、彼らなら力になってくれるかも、と思いました。
代表の藤法淑子さんに連絡をとり、一度会って話をしたところ、二つ返事で快諾してくれたので、さっそく「ふじさわ学校断熱ワークショップ実行委員会」を立ち上げました。2022年9月のことです。

そして、このWSで絶対に外せないのが地元の工務店や設備業者の方です。彼らの協力なくしてはWSは実施できないと言っても過言ではありません。
私たちの場合は、藤沢市に本社のある「株式会社門倉組」に声をかけました。
なぜ門倉組に声をかけたかというと、同社に藤沢市の公民連携事業で4年ほど一緒に仕事をしてきた方がいたからでした。
相談を持ちかけると、ほとんどその場で快諾してくださって、数日後には協力してくれる大工さんや設備業者さんまで集めてくださったのです。
本当にありがたいことです。

門倉組の皆さんと実行委員会のメンバー

(2)役割分担

#7年後…のメンバーには、資金調達(後述します)や広報、WS参加者の募集、当日のスタッフをお願いしました。
門倉組をはじめとした協力会社の皆さんには、WS実施現場の調査、断熱工事の設計、材料の手配・加工・現場施工を担ってもらいました。
私はというと、市役所内の関係部署との調整や実施する学校の先生方への説明、日程調整、WS全体のプログラムの立案等を主に担当しました。

今回、WS当日まで非常にスムーズに進められたのではないかと思っているのですが、その要因としては、まず、上記の通り最初に役割分担を明確にしたこと、それから#7年後…・門倉組・私、それぞれ一人ずつがコアメンバーとして活動したことで、意思決定がスムーズだったことがあげられます。
また、隔週でオンラインミーティングを実施したことも情報共有とコミュニケーションを図る上で重要でした。

⒊資材や費用はどうやって集めるの?

WSを実施するには、断熱材のほか仕上げ材などの材料が必要ですし、何よりそれを加工したり取り付けたりする施工費が必要です。
今回、材料の加工や施工は全て門倉組をはじめとした協力会社の皆さんが無償で提供してくださいました。
残る材料費や宣伝費その他の経費を合わせた合計110万円はクラウドファンディング(CF)で集めることにしました。
と言ってもCFなんて誰もやったことはなく、まさに手探り状態です。
CFサイトのCAMPFIREを使い、有料の支援コンテンツも使いながら必死の資金集めが始まりました。
39日の期間中、メンバー全員で手分けをして営業活動をしまくりました。直接連絡してお願いをしたり、フライヤーを配布したり、オンラインのイベントに参加して宣伝したり。
その甲斐もあって、締切日前日に目標額を集めることができました。
寄付をしてくださった方々には感謝しかありません。

⒋断熱工事はどうやるの?

(1)実施した教室の概要

まず、どのような教室でWSを実施したかを簡単に記しておきます。

学校:昭和57年築の市立小学校、鉄筋コンクリート造4階建て
教室:最上階の普通教室(現在は英語専用教室として使用)、面積:約60㎡

教室選定のポイントは、
①断熱が施工されていないこと→当たり前ですが、すでに断熱されていると断熱する意味がほとんどありません。
②最上階の教室であること→最上階の教室は屋根面に直接日射を受けるため、教室内の温度が上昇しやすく天井裏に断熱材を敷設することで断熱効果を得やすいのです。
③採用しているエアコンがEHPであること→回路に電力計を設置して使用量を計測できるためです。(私たちのケースではマルチエアコンだったため計測が困難でした)
④既存の状態が断熱工事がやりやすい構造・仕様であること→大工や建具、電気工事のプロと現場調査し、工事に支障のある構造物などがないかをよく確認する必要があります。意外とカーテンの位置などが問題になることもあります。
⑤同じ構造・同じ条件の教室が近くにあること→非断熱の教室と断熱を施工した教室で室温変化や電力使用量を比較できると効果の検証がやりやすいです。
⑥学校側の理解があること→実はこれはかなり重要なポイントだと思います。何をやるにも学校側、特に校長先生の理解がないとスムーズに進めることは難しいです。

(2)壁の断熱

多くの公立学校と同じく、教室は南側に面していて、大きな窓がありその上下に壁がある構造でした。
この壁(床面から100㎝くらい)の内側にポリスチレンフォーム厚さ75mmと25mmを重ね貼りし、その上にシナ合板厚さ5mmを貼って仕上げました。
仕上げのシナ合板は、貼り付ける前に、その裏側にみんなで自由に絵やメッセージを描いて楽しみました。
子どもたちとWSをするときは、こういうちょっとした遊びの要素を入れると盛り上がります。

ポリスチレンフォームt75を貼った様子

(3)天井の断熱

天井と屋根(屋上の床)の間には40㎝くらいの空間があります。
この空間にグラスウール厚さ100mmを2重に敷き詰めました。
天井の石膏ボードを一部取り外して、そこから前面に敷設しています。
先ほども書きましたが、この上は屋上になっています。太陽の直射日光を浴びて熱せられた屋上面からの熱を遮る役割を担います。
特に夏期は屋上の表面温度が80度近くになるほど、強烈な日射を受けます。
この直下に断熱材があるかないかで、室内の温度上昇度合いはかなり違ってきます。

下から見るとこんな感じです。下地材とボードの上に載せるだけ。

(4)窓の断熱

既存のものはアルミサッシに強化ガラス1枚という仕様で、屋外からの熱が貫入しやすいものでした。
このサッシの屋内側にもう一つ木製建具を取り付けて、既存のアルミサッシと木製建具の間に中空層をつくり、熱の貫入を防ぐ方法を採用しました。
いわゆる二重サッシというものです。
建具は地元の建具業者の方があらかじめ工場で製作したものを現場に搬入しておいて、WS当日に枠にはめ込むという作業を体験してもらいました。
他の断熱WSでは建具の製作作業も当日に行うケースがありますが、私たちのWSの場合は参加者に小学生もいたことから、作業効率や安全性を考慮してこの工程は省略しました。
その代わり、一つの建具を現場でバラして、どのような構造になっているかを解説しながら、再度組み立てる様子を見学してもらいました。

窓の構造と断熱の仕組みについて解説している様子

(5)カーボンニュートラルと断熱に関する講義

順番は前後していまいますが、WSを始める前に、東北芸術工科大学教授で、『みかんぐみ』共同代表、エネルギーまちづくり社代表取締役でもある竹内昌義さんから、子どもたちにもわかりやすくカーボンニュートラルのこと、断熱のことをレクチャーしていただきました。
竹内さんは「断熱男(だんねつお)」と呼ばれるくらい熱心に建物の断熱化に取り組んでおられる方で、各地のWSにジョインしてくれています。
僕のように建築を学んできた人間とっては、建築家としても断熱の専門家としても神のような人なんですよ。

熱弁をふるう竹内昌義さん。みんな釘付けです。

(6)設計図

教室の一部分を改修するとはいえ、きちんとした実測に基づく詳細な設計図の作成は欠かせません。
特に、建具はちょっとした施工の狂いでうまく開け閉めができなくなってしまうので注意が必要です。
今回は、門倉組と職人さんの建築スペシャリストの方々が入念に現場で打ち合わせを重ねながら、CADで設計図を作成してくれました。
その設計図について、作成した門倉組に公開のご了解をいただいているので、参考にご覧ください。

株式会社門倉組作成設計図(無断利用・転載はご遠慮ください)


(7)断熱ワークショップの様子

WSの様子は動画で撮影し、編集したものをYouTubeで公開しました。
当日の雰囲気をぜひご覧ください。

また、クラウドファンディングのリターンとして作成した報告書についても、CFリターン実施から一定の時間が経過したので以下に公開します。

⒌効果測定はどうやるの?

効果測定の方法はいくつかあります。
もっとも一般的なものは「室温の温度変化の測定」です。
断熱WSを実施した教室と同じ仕様で何もしていない教室それぞれに温度計を設置して、数日間同じ条件のもと温度を測定し続け、その変化の違いを検証するものです。
断熱がうまくいっていれば、冬は冷えにくく、夏は暑くなりにくくなるはずです。
私たちのWSではこの方法を採用しました。

また、上記のような2種類の教室それぞれのエアコンの電気回路に測定器を設置して、空調に使用する電力を比較する方法もあります。
これができると、省エネルギーにどれくらい効果があるかを私たちが知っている指標で比較することができるので、とても有効な効果測定の方法だと思います。
私たちもこれをやりたかったのですが、エアコンの仕様が教室毎に計測できるものでなかったために断念しました。
この点は、先に調べて分かっていたのですが、断熱WSを実施することが可能で、かつ、電気式の空調設備(ガス方式のものもあります)で教室毎に測定可能な条件を探して調整する時間がなかったので諦めた経緯があります。
もし、これから企画される方はいたら、この効果測定ができる条件で対象を決めることをお勧めします。
この効果測定ができるか否かは、その学校(建物)の電気設備に関する図面を用意して、電気工事に関する職人さんか役所の電気技師に確認してもらってください。

そのほかにも換気設備を設置して二酸化炭素濃度を併せて測定したり、サーモカメラで表面温度を撮影して断熱工事実施前後の違いを確認する方法などがあります。
ぜひ先行事例の測定方法を参考にしたり、専門家のアドバイスをもらったりして、効果をわかりやすく示せるよう工夫してみてください。

中空層に熱が溜まっているのがわかります

⒍WSをやって何か変化は起きた?

劇的な変化があったわけではありませんが、確実にいろいろなことが変わってきました。
何しろ、自分たちの予想以上に様々なメディアに取り上げてもらいました。
私が把握しているだけでも、10社以上のメディアから取材があったんです。
多くの新聞や情報誌に取り組みを紹介されたことで、問い合わせや視察の申し込みが相次ぎました。
実行委員会のメンバーがエントリーした「脱炭素チャレンジカップ2024」では、市民が行政や議会などと連携した取り組みが評価され、環境大臣賞(市民部門)を受賞しています。
また、市議会議員や当時の副市長にもWSの様子をご覧いただいたことで、市役所の中でも「断熱」というキーワードが政策議論に取り上げられるようになり、公共施設のZEB化の推進をはじめ様々な脱炭素に係る取り組みに影響を与えたと言ってもよいと思います。
学校断熱ワークショップ終了後も#7年後…の皆さんが、他の団体と合同で政府に学校断熱の促進を働きかけたり、民間の建物でWSをやったりと、精力的に活動されていることも、今回の学校断熱ワークショップがきっかけになったと言えるかもしれません。
学校断熱ワークショップ自体は決して強烈なインパクトを与えるような効果があったわけではありませんが、参加者はもとより企画した自分たちの意識も大きく変化した気がします。
「やったら効果があるか?」とか「実施して意味があるか?」ということに悩んで何もしないより、まず一歩踏み出すこと。これは勇気がいることですが、大事なことですし、何より志を同じくする人と行動すれば可能性が広がるのです。
そんなことに気づけたことも含めてとても貴重な経験でした。
これを読んで、ピンときた方。今すぐ行動しましょう!そして、学校の断熱化をはじめとした脱炭素の取組をみんなで広めていきましょう!

⒎相談できるところはある?

全国で初めて学校断熱ワークショップを実施したのは、岡山県津山市の小学校です。2019年のことです。
津山市のスーパー公務員が「都市経営プロフェッショナルスクール」という実践的まちづくりを学ぶ社会人スクールのプロジェクトとして実施したのが始まりでした。

その後、同倉敷市や長野県上田市などでも断熱ワークショップが行われています。
都市経営プロフェッショナルスクールから生まれた学校断熱ワークショップですが、そこのOB・OGが中心となって組織しているNPO法人自治経営の中の「FMアライアンス」というチームが学校断熱WSのレクチャーや伴走支援をするプログラムを運営しています。
もし、相談先に困っていたり、伴走してくれる経験者を探しているなら、こちらに連絡してみるのもアリです。

さらに、竹内昌義さんがいらっしゃる株式会社エネルギーまちづくり社でも、「学校断熱ワークショップ指導者養成塾」が開講するようです。
これはすごい!より実践的で面白そうな講座ですね。

⒏支援者の紹介

最後に私たちの学校断熱ワークショップを支援してくださった方々を紹介させてください。
こちらの方々の支援がなければ、成功に導くことができませんでした。心より感謝申し上げます。

(1)クラウドファンディングで費用を支援してくださった方々

(敬称略・順不同)

  • 株式会社 門倉組

  • 有限会社 工匠

  • 中堀 一弥

  • NPO 自治経営 FM アライアンス 三宅香織

  • 星野敏之

  • 中村浩野

  • 岡田良寛(りょうかん)

  • 廣瀬健二

  • 内山章

  • 山本伸司

  • 一般社団法人 エコウェーブ21

  • 竹内昌義

(2)断熱工事及びWS実施の協力企業

(敬称略・順不同)

  • 株式会社 門倉組

  • 株式会社 鈴木木工

  • 株式会社 飯森塗装

  • 株式会社 フジミ

  • 東海新建工業 株式会社

  • 株式会社 タカノ住装

  • 株式会社 誠建社

  • 有限会社 大地電設

  • 相和設備工業 株式会社

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