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Watashi in NewYork (1)

私は、先日ニューヨークを一週間旅行した。一人旅だ。
旅の目標は「盗まれない、襲われない、死なない」だった。

英語力は高校レベル、それも10年のブランク。
付け焼刃で、直前に絶対必要であるだろう単語とフレーズを小さなノートに書き溜め、更に指さし英単語長を携帯した。

私はスマートフォンを持っておらず、ガラパゴス携帯使用者なので咄嗟のネット利用は不可能だった。

ずっと、ニューヨークを旅行したいしたいと思っていたが、「もしかして、旅行したいと思ってるだけじゃ、旅行できないんじゃないか」と、ある日気が付いた。
そして、「予約さえしてしまえば行かざるを得ないだろう」と、未来の自分の怠惰ぶりを予想してその週の内に予約してしまった。
ホテルは6人相部屋のドミトリー、場所はロウワーイーストサイド。
ガイドブックを見直していたら、その地区は危険地域として黄色く塗られていた。

「盗まれない、襲われない、死なない」様に、貧しい格好をして、色気を封印して、用心に用心を重ねて旅行せねばならない。
事件・事故に遭遇した時に使える英単語までは、ノートに書ききれなかった。

貧しい格好は得意である。普段からそう言う格好をしている。
(パンツは汚いのを持って行って、ホテルで捨てて帰るつもりだ)
色気の封印が解かれたことは未だかつて一度もない。
疑り深さと用心深さ、笑っているが本心は腹黒いなど、内面の闇の深さには定評がある。だが、長女らしく時々抜けているとよく言われるので、そこだけ気を付けたい。

以上を書くと、「さぞ、旅慣れているのだろう」「何度か海外旅行を経験しているのだろう」と思われるかもしれない。
実際は、五年前にイタリアツアー旅行に家族で行った事しかない。
二度目で、いきなりニューヨークの一人旅である。

前々日ぐらいに「何で私は一人で海外なんて行こうと思ったんだ…死ぬかもしれない…」「死にはしないかもしれないが、絶対何かトラブルに巻き込まれるに違いない。英語も出来ないのに」「レイプされた挙句、薬中になって売春宿に売られるかもしれない」と、嫌な考えばかりが頭を巡った。
「やっぱ、行くの止めようかな」とすら思った。

そして、ふとネットニュースを見ると、旅行期間中にトランプ大統領の就任式があって目を疑った。
「テロで空港爆破されて死ぬ」「メトロで暴動起きて死ぬ」
もう悪い事しか思い浮かばなかった。

が、前日ぐらいになると悩みが突き抜けすぎて
「ま~~何とかなるっしょ!」
と、開き直り、元気いっぱいに岡山空港行きのリムジンバスへと乗り込んだ。

何より私はこのニューヨーク旅行で一つ、とても楽しみな事があった。
ガイドブックなどで三冊に一冊の割合でしか取り上げられていない「オフブロードウェイ」のある体験型演劇だった。
その劇の名前は「スリープノーモア
どのガイドブックの説明でも記事は小さく、
「チェルシーにある体験型演劇」
「観客は仮面を付けて役者を追いかけて物語を追う」
「仮面を付けたら喋ってはいけない」
程度の説明しかされていなかった。

「仮面を付けて、役者の演技を間近で見られるなんて面白そう」

と、思った。

私はまだ知る由もなかった。

この「スリープノーモア」の所為で(お陰で)、大昔に登録していたnoteを掘り起こし、このニューヨーク旅行の手記を書く事になる事を。

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