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Watashi in NewYork (4)

私は雨に濡れてコートびしょ濡れのまま、マッキトリックホテルの列に並んだ。
幸い屋根があり、これ以上は濡れないだろう。
コートも濡れているが、中までは滲みていない。

ほっとしつつ、周りを見渡す。
カップルや友人連れと思わしい人が多く、アジア系は少なかった。
前に並んでいる男性が、何度もこちらをうかがう様に見てきたので「一人参加が珍しいのかな」と思った。
(スリープノーモア鑑賞後、違う…あの時のあれは『え?!?!子供は立ち入り禁止だよね?!?!どうして子供が一人で?!?!』」な感じだった。と思い直す)


ニューヨークに来て思ったことがある。
とにかく、皆、背が高い。
時には同じ人間とは思えないほど大柄な人がいる。
私の宿泊しているホテルが6人相部屋だった為、同室の女性が三人居た。
うち一人の白人女性の背の高さ、そして足の長さたるや…である。

それは、ホテルやスーパーのトイレでもひしひしと感じた。
よっこいしょと、便器に腰掛ける。――足が床に届かないのである。

日本において、152センチの私は「どちらかと言えば背は低い方、不便はない」ぐらいの立ち位置だ。
しかも「小さくて可愛い♡」と言われる事は決して無い程度の身長と顔面である。

そんな事を考えながら並んでいると、黒いスーツを来ただるまみたいに丸い男性が現れた。
(お、予約表バウチャーの確認か?)
私はすぐにコピーしてきた予約表を取り出して渡す。
ーーだが、「これじゃない。IDだID」と言われる。

IDって何?である。
そう思っていると、後ろのお兄さんが免許証みたいなカードを見せていた。
海外ドラマでよくあるアレだ。
あの「被害者のIDから、名前はトーマス・ギルバート、30歳と判明しました」の「ID」だった。
ID…ないんですけど…と思う暇もなく、後ろのお兄さんが「パスポートでもいいよ」と教えてくれる。
私は慌ててパスポートを取り出して、黒スーツのスタッフに提示した。

(以後、便宜上登場人物には仮面が付けられています)

その時の私は、とにかくパスポートを出すことに精一杯で後ろのお兄さんにありがとうと言えなかった。
帰国してからもその事が心残りであった。
失敗して凹んでは次からはこうしようと思い、実践することの多い旅行だった。
これからは、落ち着いてありがとうって言おう。

ID、パスポートが必要だったのは、年齢確認の為だったらしい。

そして、無事マッキトリックホテルへと足を踏み入れる。
その日の私の格好はこんな感じだった。
コートの中に財布と貴重品入れを下げて、リュックも無し状態。
とにかく、「動きやすい服」「走りやすい靴」との事だったので、温かくて歩きやすい防水ブーツだった。

しかし、中に入るのにこのコート(雨でびちゃびちゃ)と、更にマフラー、貴重品入れに財布まで預けなければならなかった。
しかも、$4かかる。
最終日と言う事で$10しかなかった私セーフである。
一応、中にATMがあるが、他の人が使おうとしていたが電源が入っていなかった様でお金を下ろせていなかった。
何のためのATMなのか……。

クロークチェックの前までくると、二人のカッコいいスタッフに荷物を預ける。
コートがびちゃびちゃで私は本当に悲しかった。
そして、預けた荷物と引き換えに番号札を貰う。
机の両脇に集められた$4を入れる瓶があって、何だか妙に悲しくなった。

クロークチェックを終えて、更に進むと今度はチェックインカウンターがある。
さっと並ぶと、スタッフのお姉さんが「名字は?」と聞いてくる。
私は「ヤマモ~ト」と英語訛に答えた。普通に「ヤマモト」でも伝わるのだろうが、「ヤマモ~ト」と言った方が伝わりやすい気がするのでそうしている。
一種のおまじないみたいな物だ。

そして、ここで雰囲気有りげな柄のトランプを貰う。
端に穴が合いていて、切符みたいだな~と思った。
結局、ネットで予約した時の控えは要らなかったが、もちろん念のため用意しておいた方が良いだろう。

コートを脱いだので、身軽になった。
黒のタートルネックとジーンズ、そしてブーツである。
髪も邪魔にならないようにまとめてみた。

チェックインを終えて、そのまま進む。
この時点でようやく、ほっとひと心地ついた。
これでようやく、集中してこの面白そうな演劇を楽しむことが出来る。

私は足取り軽やかに、暗くて狭い迷路に続く入り口へと向かった。

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