五月の病

 ああ、憂鬱だ。
 真っ暗な部屋、ベッドに横たわる私はスマホの画面をつけた。
 時刻は既に午前1時を回っている。
 長い連休明けの今日、朝から重い気分と体を無理やり引きずって会社へ向かった。そんな状態で仕事に身が入るわけもなく、私はあくびをしながらパソコンとにらめっこ状態。
 それで上司に少し嫌味を言われた。
 なんだっけ、「気合が足りない」だのなんだの…。
 休み明けに元気になれって方が難しいっての。
 あーあー、思い出しただけで腹立ってきた。
 違う違う、仕事に対してちゃんとするのは当たり前、それができてない私が駄目なんだ…。
 と、こんなことをぐるぐる考えていたら、布団に入ってからすでに4時間程経ってしまった。
 もう1時か、明日も仕事なのに。早く寝ないと。
 と思いつつ、動画投稿サイトを開く。
 これでも見てみるか。
 私は、おススメに出てきた動画をタップした。
 「はいこんにちは。今日は―」
 「あはは、面白い」
 本当は面白いとも思っていない私は、無理した、乾いた笑い声を出した。
 胸中は全く穏やかではない。
 こいつは明日休みなんだろうな。とか、こうやって好きなことでお金稼いでいていいよなとか、良くないことばかりが頭に浮かぶ。
 そうしてまた胸のあたりがざわついて、ぐしゃぐしゃになって、わたしはスマホを放って布団の中で丸くなった。
 本当は「ああああーーーー」って叫びたかったけれど、アパートだからそれもできない。
 もうどうしようもなくなって、行きついた先は、「あ、死にた」という傍から見れば最悪の感情。でも私にとっては自然と湧き上がってきたものだった。
 あーもうなんか怠い。いいやー。
 私は死に方を調べようとスマホを手に取った。
 画面を切り替えようとしたその時、私の目に入ってきたのは、ラーメン屋でラーメンが出来上がるまでの動画だった。
 ただまな板で素材が切られる音と、お湯の沸くぐつぐつという音、湯切りの音が心地よい。
 完成したラーメンを見たとき、私の口が自然と開いていた。
 「…お腹空いた」
 私はむくっとベッドから起き上がると、手探りで電気をつける。
 眩しくて、目を細めながらキッチンへ向かうと、やかんに水を入れ火にかけた。
 「確かここに…、あった」
 私は何かあったとき用の保存食カップラーメンを一つ棚から取り出し、包装フィルムをはがした。
 パチッという破裂音が、静かな空間に鳴り響く。
 お湯が沸くまで、私は部屋をとことこ何周もした。
 やかんが騒がしくなったので、火を止める。
 カップラーメンのふたを開けて湯を注いだ。
 ジョボジョボジョボっという音に、妙に落ち着く。
 蓋を閉めて三分間、私はじっと容器を見つめた。
 「まーだーかーなー」
 三分後に、スマホのアラームが鳴った。
 瞬間に、私はアラームを止め、蓋を開ける。とても良いシーフードの香りが六畳間に充満した。
 「あ、箸」 
 私はキッチンに行くと、棚から割り箸を取り出して、居間へ戻った。
 「いただきます」
 と手を合わせてから、パキッと割り箸を割る。
 少し掬うと、フーフーして思い切りすすった。
 「うまこれ」
 体の中が一気に温まる。
 少し汗ばんできた。
 私はただ黙々と麵をすすった。
 気づけばスープも飲み干していた。
 「おいしかった。いただきました」
 私は汗を流そうと、シャワーを浴びてからベッドに横になった。
 ねむっ。
 時刻は午前3時。
 私は目を瞑ると、すぐに気を失った。
 

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