庭師になるまで05 驚くべき菌類の働き

土中に配慮した環境づくり。
そこで欠かせない「菌糸」の働き。

見えない土中で繰り広げられる菌糸と樹木の共生関係とはなんだろう。

「菌根ネットワーク」や「植物の知性」といった”森の相互扶助”システムや、自然の仕組みを知るうちに、気づけば世界の見え方が変わっていた。

庭づくりをはじめる前とは別人になった僕がいる。

菌糸の正体
菌糸の働きには触れたが、そもそも菌糸って何?
白い糸状のものってのはわかったけど…

その正体は、実は僕らの暮らしに馴染みがあり、秋の味覚を代表するアレだ。

そう、キノコ。
”キノコ”の由来は”木の子”というように、木とキノコは密接な関係にある。

僕らがキノコと呼んでいるのは菌糸の”子実体”(植物では果実や花に相当する部分)という器官で、菌糸が集まって塊状になったもの。

まさかキノコの本当の姿が、木の生育に重要な役割を持つ菌糸だったなんて…
思わぬところで庭と食卓が結びついた。

腐生菌と菌根菌
キノコは栄養の取り方によって、大きく「腐生菌」と「菌根菌」に分かれる。

”腐生菌”は、枯れ葉や枝、動物の死体や排泄物などを栄養分として分解する。
木の幹や枝には、セルロースやリグニンといった難分解性の物質を含んでいるが、これらが土に還っていくのは腐生菌の働きによるもの。

森では”掃除屋”、
食卓では”シイタケやナメコ”となる。

”菌根菌”は、菌糸を土中に張り巡らせ、生きた植物と共生関係を築いて生活している。
木と共生関係を結んだ菌糸は、根を包み、周りの土の中にも広がってく。
さらに、その木の根の範囲を越えて、ほかの菌糸や木の根とも結びつく。
こうしてネットワークを形成して、水分や養分、情報(害虫警報など)の交換を行う。

森では”インターネット”、
食卓では”マツタケやトリュフ”なわけだ。

うーん…森の勉強はお腹が空く。笑

森の社会福祉
土壌の団粒構造を維持して植物と共生するのは”菌根菌”で、例えばマツは、尾根沿いや海岸沿いなどの過酷な環境に適応することが知られているが、その裏側にはどうやら菌糸の働きがあるらしい。

面白い話がある。
ドイツの森林管理官(当時)ペーター・ヴォールレーベンのブナ林では、土壌の柔らかさや石の多さ、湿っぽい土や乾燥しがちな土、土壌に含まれる養分の違いなど、それぞれ違った環境に立っている木が、信じられないことに、どれも同じ量の光合成をしていたという。

ヴォールレーベンの考えによれば、太い木も細い木も仲間全員が葉一枚ごとにだいたい同じ量の糖分を光合成でつくりだせるように、木々はお互いに補い合っており、その調整は地中を通じて行われている。
根を通じて、人が想像する以上の情報が交換されているにちがいない、と。

豊かなものは貧しいものに分け与え、貧しいものはそれを遠慮なく頂戴する。
現代社会では、文明の発達とともに失われつつある”社会福祉システム”が、森の中では菌類の巨大なネットワークによって行われている。

このような仕組みが採用されるのは、そのほうが結果的に生存確率が高いということだろう。

人間が森に学ぶべきことは多い。

植物の知性
木々は菌根ネットワークを介して、まるで会話をしているかのように、お互いに情報や物質の交換をしている。

スザンヌ・シマード博士の研究によれば、”マザーツリー”と呼ばれる森のひときわ立派な巨木は、菌根ネットワークによってかなり遠方の木々にまで養分を分け与えていることがわかった。

つまり長老格のマザーツリーが、他の木々や森の状態を把握して、森全体を育てているのだ。

さらに驚くことに、マザーツリーは森の中で発芽した自分の子どもを識別して、そこに優先的に養分を送っていることも確かめられた。

”森に備わる知性”は生態系のために働き、死期を悟ったマザーツリーは菌根ネットワークを通じて将来世代へ生命力を送る。

もし、自分にそのような時がきたら…
マザーツリーのように精一杯バトンを渡せるだろうか。

自然を深く知ることの面白さと、それを受け止める人間社会の複雑さを知り、自らの役割は何か考えるようになった。

考えたところで、きっと答えなんてないのだが。笑

次回は、”自然の循環に学ぶ”。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?