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【怖い話】曰く付きのアパート

人と幽霊どっちが怖いですか


 中学生の頃に曰く付きのアパートに住んでいました。
赤ちゃんが不審死した、男性が自死した、女性の幽霊が出るなど曰く付きとはつゆ知らず、小学校を卒業すると同時に引っ越してきて、初めて見た薄気味悪いアパートに愕然としました。
外見がとても汚くて、友達を招くのも恥ずかしいアパートでした。

アパートは2階建てで10室あり、1階の管理人室が私の両親と弟の部屋。
私は外付け階段を上がった2階の1室を与えられていました。
中学生にして、わたしは独立した部屋に住んでいたのです。

6畳と4畳半、2畳のキッチンにトイレ。
最初は快適に過ごしていましたが段々とストレスを感じるようになりました。夜中に何度か目が覚めるようになったのです。

窓のある6畳にベッドを置いて寝ていましたが、ある日夜中に目が覚めて足元のザラザラした壁を見ると何か白いものがボ~ッと映っていました。
窓の真横の壁ですから月明かりや車のヘッドライトでもありません。

(何だろう?)と思ったのと同時に心臓が耳までせり上がり、ドクドクと大きな音が頭の中で響きました
冷汗が噴出して真夏だというのに体は冷えて歯がガチガチ鳴りました。
あれは本当に≪恐怖≫を感じていたのだと思います。
私はひたすら数字を数えていました。早く寝てしまえ!と念じながら。

はっきりした幽霊の姿ではありませんでしたが、以来おそろしくて夜中に目が覚めても絶対に目を開けられなくなりました。
足元に何かがいる感じがするのです。

嫌でも目が覚めると、目を瞑ったまま明かりを求めて上半身を起こし、天井に取り付けてある蛍光灯の紐を探しました。でも触れないのです。消す時は届いていたはずの紐に手が届かないのです。仕方なく布団を被って数字を数えていました。

寝る前に机に座って宿題をする時は、部屋の電気は消してクレーン型のスタンドに明かりを灯していました。安い白熱電球を使用していたのですが時々 パリーン と割れていました。母に話すと白熱電球だからそういうこともあると言われそうなんだと思い込みました。

台所の薄緑の壁も気持ちが悪く、見ないようにしていましたが、ふいに目をやると白い手が見えて、この頃は両親の不仲を悩んでいた時期で友達からはストレスなんじゃないかと言われていました。

時々ベッドがグルグルと回転している時や部屋に突風が吹いている時もあり布団が飛んでいきそうで必死で掴んでいました。部屋の中をバサバサと物が飛び交い、明日の朝は片付けが大変だなと思いながら数を数えて寝るのですが、朝になると部屋に異常は無く、やはり夢だったのだとホッとしました。

息苦しくて目覚めると猫のような何かが胸の上にいて、下がっていくので手を伸ばして掴むと赤ちゃんの手でした。ああ、足元にいるのはこの子だなと納得しました。

そんなアパートに住んでいて1番怖かったこと。
それは客用布団を片づけてある押し入れで見つけました。
白い布団の上にくっきりと≪黒い靴の足跡≫が付いていました。
天井裏から私の部屋に空き巣が入っていたのです。

2階の部屋の住人は全員被害に合っていました。
すぐに警察に捕まり男は私の貯金箱からお金を盗んでいました。
減っているな?と思ったことは有りましたが弟が犯人だと思っていました。

もしも空き巣と鉢合わせしていたらと思うとゾッとしました。
幽霊と人どっちが怖いか? 私は人である空き巣の方が怖いです。
それからは部屋に入る時は傘を手に「誰かいるの!」と大声をだし、部屋を調べてからドアを閉めるようにしていました。

どんなに怖くても1階の部屋に私の居場所は無く、我慢するしかありませんでした。
3年間住んでいましたが、両親が別居して母と弟と共に曰く付きのアパートから離れることが出来ました。
祖父の家に引っ越すとぐっすりと眠れるようになり、不思議な体験も無くなりました。

あの薄汚いアパートはもう取り壊されて、現在は綺麗なマンションが建っています。曰く付きだと知ったのはアパートを引き払ってからずっと後で、しかも母から聞いたのでした。

今でも時々あのアパートの夢を見ます。夜中に目が覚めて目を瞑ったまま電気の紐を探しても、白い手が邪魔をして紐に触れることが出来ない、そんな夢です。









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