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シミュラクラ現象からは逃げられない

僕は子どもの頃オカルト大好き少年だった。
心霊写真や呪いの動画全盛期に育ったのだから必然といえる。愛読書は地獄先生ぬ〜べ〜。

そういう時代だった。

でも僕は怖がりでもあった。
幽霊に怯えていた。
トイレのドアは全開。
シャンプーは目をあけながら。
寝るときは電気を消せない。
夕方の階段はダッシュ。

殿堂入りの怖がりさんだ。
裏を返せば、素直な少年だった。
今のひねくれた僕からは想像できないかもしれないが、ピュアな心の持ち主だった。

そんなピュアな僕の家は5階建ての団地。
エレベーターなし。

めっちゃ怖い。


団地のたたずまいって無条件に怖い。
ホラーのテイストが全て詰まっている。
住んでいた僕が言うんだから間違いない。
絶対に墓地より怖い。

階段は階の途中で折り返すオーソドックスなタイプ。
この折り返し地点がとにかく怖い。

折り返し際、チラっと階下が見える。
そこに一瞬いるはすのないモノが見える。
ような気がする。

僕の家は4階。
なんと404号室。
縁起悪っ!

だから折り返し地点が3回ある。
毎回怖い。
とくに冬は怖い。

階段の照明はセンサーではない。
タイマーだ。
だからいくら外が暗くても時間にならないと照明は灯らない。
とても子どもひとりで登れる状態ではない。

照明が灯るまで待つか、4階にむかって大声で「おか〜さ〜ん」と呼んで迎えに来てもらう。
とびっきりの怖がりさんの僕。

怖いときにはオリジナルの呪文?お経?を心の中で唱えてやり過ごしていた。
それが功を奏したのか 幽霊には一度も遭遇していない。
僕は呪術師の素質があるのかも。

当時はシミュラクラ現象なんてオシャレな言葉はなかった。
点が3つあったり、線があることで顔のように見える現象だ。
心霊写真はだいたいがこのシミュラクラ現象だと言われている。

さて、団地の天井はだいたい汚れている。
もうシミュラクラ現象の宝庫だ。

顔 顔 顔。


天井は顔で埋め尽くされる。

寝る時 電気を消すと怖い。
でも点けっぱなしだと天井のシミュラクラ現象が怖い。
いったいどうすれば。

寝るしかない。

でも怖い想像が膨らみ眠れない。
なんど眠れぬ夜を過ごしたことか。

こんな怖がり少年だった僕はきっと息子が幽霊を怖がっても否定せずに受容してあげられるはずだ。
なんならオリジナルの呪文を教えてあげてもいい。

そして子どもの頃の僕に伝えたかった事を伝えたい。

トイレの時 ドアが全開だと余計に怖いぞ。
目の前に誰か立ってたらどうする。

シャンプーの時も同様に 目の前にあるはずのないものが見えたらどうする。

寝る時に電気を消さないと安眠できず 悪夢に苛まれるぞ。

怖いときには目を瞑れ。
だが安心してはいけないよ。
目を瞑っているとなんだか光の点や筋みたいなものが見えるだろう。

油断するとそれがシミュラクラってくるからな。

諦めて怖さを受け入れる。
それしか方法はない。

シミュラクラ現象からは逃げられない。
受け入れろ。

こんなこと息子にいうと嫌われてしまいそうだ。
余計に怖がらせて妻からも冷たい目で見られるかも。

僕は壁のシミュラクラさんに話し掛けるしかなくなる。

ハハハ。


ほらシミュラクラさんはあなたのとなりにも。

ではまた。

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