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中小企業の経営者に知ってほしい賃金制度の作り方#2

第2回のテーマは「水準」の考え方です。賃金の水準について、”いくらが妥当なのか?”、”うちの賃金水準は適切か?”という相談をよくいただきます。

このような賃金の水準に関する疑問に対して回答するならば、「それは視点によって変わります!」となります。

「それ言っては…」と思われる方もいらっしゃるでしょう。

だからこそ、多角的に見ることのできる視点を持っているか持っていないかで大きく違うのではないかと私は思うのです。

それでは、賃金水準に関する論点について説明したいと思います。ただし、前述のように賃金水準に関する論点は複数あるため、何回かに分けて説明していきたいとと思います。

まず、以下の図をご覧ください。

【図1】”水準”4つのポイント

「水準」を考えるにあたって4つの視点があるのですが、定量的に判断ができるものは、「付加価値」・「労働力需給」・「生計費」の3点です。労使交渉は、会社によって事情がことなるので、今回は取り扱いません。

まず、「付加価値」の視点で賃金の水準を考えてみたいと思います。

私は仕事柄、数多くの経営者にお会いしますが、再生案件レベルでもない限り、賃金を低く抑えようという考えを耳にすることはありません。
むしろ「もっと支払いたいけれど…」と悩む経営者が多いと感じています。

私は”会社の成長”がなければ人事戦略は限界を迎えてしまうと考えています。そして、”昇給をするならば前年と同じことを会社は続けていてはならない”のだと考えています。

話を戻して、「付加価値」から考える賃金の水準についてです。第1ステップとして、「付加価値」に占める人件費の割合を表し、人件費が適正な水準かどうかを判断しましょう。

いくら自社の給与が低いと思っても、ない袖は振れません。したがって、まずは自社の賃上げ余力を把握しましょう。

シンプルな確認方法は”昇給率”をいくつかのパターンに分けて、自社の経常利益等を予測することです。以下は、1.0%で考えていますが、2.0%の場合はどうかなど試してみるとよいでしょう。

【図2】経常利益等の予測

上記の方法と併せて「人件費率」・「労働分配率」・「利益率」の3点も確認してみてください。以下の表をご覧ください。単純な比較をするとC社の人件費は、A社やB社よりも高くなっています。しかし、利益率を見るとC社は最も高くなっています。

【表1】会社別 人件費率・労働分配率・利益率の一覧

ただし、「自社はどのていどの支払い余力があるのか?」と確認する場合、ない袖は振れないという視点だけでは注意が必要です。

「お前は何を言っているんだ…」という声がどこからか聞こえてきそうです…。しかし、ない袖はふれないという視点だけではいけないのです。

上記の【表1】で分かる課題は、”人件費率の高さ”よりも、”付加価値率の低さ”にあるのではないかと考えることも大切だということです。”いくら上げられるかではなく、いくら付加価値が必要か”ということも同時に考えてみてください。

人件費の限界、ポストの限界、人材獲得の限界、人材投資の限界…などなど、会社が成長していないと手詰まりになります。

だからこそ、成長戦略とそれを実現できる組織マネジメントが重要です。

なお、人件費総額の見込みから必要売上を逆算する場合、人件費はできれば絶対額管理(※ 定期昇給をしないパターンのことです。)に近いほうが見通しを立てやすいです。

さらにポスト管理ができていれば人件費を本当に固定化できます。

このように「付加価値」という視点で、賃金水準を確認する際には、会社としての成長戦略についても思考を巡らせる必要があります。

このように会社として成長しているのかという視点で水準を確認する場合、「労働生産性」の経年変化を見てみましょう。

【図3】労働生産性を確認する視点

少なくとも直前期から5ヵ年ほど遡って、「労働生産性」を計算します。
すると、会社として”成長”しているのか”膨張”しているだけなのか?ということが分かります。

給与として支払っている分は、従業員に働いてもらわねばならないのです。

仮に間接部門(活動が売上等に直結しないセクション)の人員が増えていたとしても、そのことで直接部門(活動が売上等に直結するセクション)の稼ぐ力が高まってなければなりません。

仮にそのようになっているならば、テコ入れすべきでしょう。(※言うのは簡単ですが、とても難しいことであるのは確かです…。)

ここまでお話ししてきましたが、「付加価値」という視点で賃金水準を見た場合、「ない袖は振れないからこそ、いくらまで支払えるのか?」という視点と「これくらい支払うためには、いくらの付加価値が必要なのか?」ということが重要なのです。

もし、皆様が同業他社の情報をお持ちならば、上記の視点で確認してみてください。きっと気づきがあるはずです。

次回は、賃金水準4つの視点のうち「労働力需給」に触れたいと思います。

採用に苦戦されている会社も少なくないかと思います。この採用という観点と賃金水準の関係についてお話ししたいと思います。


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