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「燃ゆる女の肖像」感想


2021年あたりに配信サイトで初めて観て以来、何度か見直すほど好きになった、静かで熱のある映画。

画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を頼まれる。だが、エロイーズ自身は結婚を拒んでいた。身分を隠して近づき、孤島の屋敷で密かに肖像画を完成させたマリアンヌは、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを否定される。描き直すと決めたマリアンヌに、意外にもモデルになると申し出るエロイーズ。キャンバスをはさんで見つめ合い、美しい島を共に散策し、音楽や文学について語り合ううちに、恋におちる二人。約束の5日後、肖像画はあと一筆で完成となるが、それは別れを意味していた──。

https://filmarks.com/movies/84102

視線の変化

秘密裏に肖像画を描くマリアンヌと、描かれる側のエロイーズ。最初は一方的だった視線の関係が、中盤からは双方向に変化し、相手を深く知るというフェーズに入る。互いの仕草を言い当てるくらいに。こうして相手を通して自分の知り得なかった自分を知ることができるくらいの関係性になった2人の行く末が「別れ」に行き着くことが切なくてならなかった。当時の時代背景を鑑みても、どうしようもできないことだったから尚更。


言葉より雄弁

オルフェウスの神話のそれぞれの解釈を踏まえた別れのシーンでエロイーズは振り返ってと言い、マリアンヌはそれに応える。永遠の別れになると分かっていても。そしてラストの演奏会では、エロイーズの方を向くマリアンヌと決して視線を向けようとはしないエロイーズ。頑なに彼女を見ないその目は愛だったり、または覚悟の炎を灯しているように見える。その眼差しには想いが乗っている。

このように時間や周囲は何事もなく進んでいるけど、そこにいる2人だけにしか分からない空気が好きだ。あの場面は2人だけの空間で2人とも互いしか意識していなかった。オーケストラたちが演奏するヴィヴァルディの「四季」夏に乗せて、エロイーズのワンショットで向かうエンディングが心に焼き付いて離れない。

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