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ASDとアルコール依存症〜ハームリダクションとは?

こんにちは、精神科医のはぐりんです。

今回はとあるASDの方のアルコール依存症に関して、比較的うまくお酒と向き合えるようになった方をご紹介したいと思います。


アルコール依存症とは?


まずは一般的な知識について。ご存知の方も多いかとは思いますがアルコール依存症とは文字どおりお酒に依存してしまっている状態で、わかっているけど止められない(精神依存)、身体的にも最初に飲み始めたころよりもどんどん量が増えていって、お酒が抜けると手が震えだし、そのうち震えや吐き気を止めるために朝迎え酒をするようになったりします(身体依存)。アルコール依存症になると、順に、職を失い、家族を失い、健康(命)を失う、とも言われ、どこかの段階で底つき体験を経てようやく受診につながるといった方も多いです。

このアルコール依存症、治療についてですが、薬物療法や断酒会などいろいろある中の一つに、古くからARP(アルコールリハビリテーションプログラム)というものがあります。3か月ほど入院してもらい、お酒なしでの生活習慣を築いてもらい、その間酒害教育や、当事者同士でお酒について話し合ってもらったり、といった入院治療をしています。ただ現状として何十年と同じ治療がなされているものの、実際には退院してもスリップ(再飲酒)する方がほとんどで、継続して断酒につながっている方をほとんど見たことがありません。人によってはスリップするたびに複数回ARP入院を繰り返している方もいます。

ハームリダクションという革命!?


この一向に改善につながらない現状を憂いてアルコール依存症の治療に対して数年前から導入されたのがハームリダクションという概念です。これまで治療といえばとにかく『断酒』一辺倒でしたが、このハームリダクションという概念は、必ずしも断酒しなくても良いというものです。harm reduction、直訳すると被害の低減、つまり飲酒による被害を減らそうという概念の治療になります。元々は違法薬物の注射器の使いまわしで広がったHIV感染に対して、違法薬物自体をやめさせるのではなく、新しい注射器を提供することでHIV感染を減らそう、との考えから生まれた概念だそうです。これまで何十年もアルコール依存症の治療といえば『断酒』とされていたものが、必ずしも断酒しなくてもいい、という風に変わったのはかなり革命的なことでした

ASDの方へのアプローチ

いよいよ本題、タイトル回収ですが、とあるASDの患者さんに当初は断酒を指導していたら、家で飲みたくなって暴れたり、断酒に関して家族と主治医(私)がグルになっていると被害感情を持ったり(ASDの方によくある他罰感情)して、どうにも上手くいかなくなってしまいましたそこで本人・家族と相談の上、週1日決められた曜日・時間に、決められた量の飲酒ならOK、との取り決めをしたところ、見違えるように状況は良くなりました。断酒ではなく減酒ですね。断酒一辺倒のこれまでの治療で上手くいかなかったところを、治療者も家族も本人もみな納得の上で減酒に成功しました。また、こだわりや習慣性・常同性、目に見える形で飲酒に関するマイルールを作ってあげる、といったASDの方の特性をうまく生かして減酒に取り組んだのも良かった点だと思っています。これは例えばASDのお子さんのゲーム依存などにも応用できると思っていて、曜日と時間を決めてゲームをさせる、またお子さんの場合はトークン(ご褒美)を使った行動療法的なアプローチもできると思います。

おわりに

アルコール依存症の一般的な話からハームリダクションの話、ASDの方の場合と話が多岐に渡りましたが、アルコール依存症に限らず最近は診断にしても治療にしても、より柔軟性が求められているようになってきている気がします。以前に比べると発達障害の問題なども絡んでくることが多いので、患者さん個人個人に合った対応や治療法を選択していく必要性があるように思います

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