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私は両親に厳しく育てられた。ときにそれはしつけの範疇を超えていたと思う。やりたいことはできず。外食も旅行も連れて行ってもらった思い出などない。褒められた記憶もないし、怒られた記憶しかない。

代々うちは医師の家系だ。それもあって医師にならざれば人でないというのが、私の家の暗黙の常識。いや、暗黙ではなく実際にそういった言葉を使われたこともある。だから私は血のにじむような努力をして医師になった。

私の専門は児童精神科。厳しい親の元で育てられた経験があるので、子どもの心に寄り添えると思ったからだ。頑張っているのに親に認められない。いじめを始めとする理由で不登校となってしまった。つらい。でも学校に行かないという自分の意志は親に認められず、家に居場所がない。そのような子どもの心は痛いほどわかる。子どもたちを支え、そしてそのような子どもたちに支えられてこれまで医師人生を生きてきた。

しかしこれは正しい生き方だったのか?

今でも疑問に思う。でもこれしか私の生き方はなかったのだと答えを出しては、またそこに戻る。戻っては進んでいた。どうしても答えが見つからないからだ。

だが最近、高校生の息子が私に向かって、お父さんみたいな医師になりたいから、学費出してねと冗談まじりに言ってきた。つい、「おおそうか。予備校でも何でも勉強したいなら金を出すぞ。学費も当然出すからな」と言ってしまい、息子にドン引きされたが……。しかしその瞬間、迷い続けた私の人生が肯定された気がしたのだ。きっとこの気持ちは私にしか分からない。ずっと迷って迷って不安になって同じところにいた私を、息子の一言が救ってくれた。これからは自分のために医師として人生を歩める。そして息子のためにも、私は医師であり続けたいと思った。

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