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遠藤保仁は都会のサッカーをするシティボーイだった


遠藤保仁の偉大さと「黄金のカルテット」

今年の1月に引退した遠藤保仁。その素晴らしさは私も身に染みておりました。

岡田ジャパンからザックジャパンになるにつれて、彼がリズムを作り、保つ才能は称賛され「替えが効かない」と言われていました。

初めて遠藤の良さを感じたのは2003年にフランスで行われたコンフェデレーションズ杯。大陸王者が集う今はなき大会で、日本の中盤は中田英寿、中村俊輔、稲本潤一、そして遠藤保仁でした。

そう、あの当時は遠藤ではなく、これまた昨シーズンで引退し惜しまれた小野伸二を加えた4人が「黄金のカルテット」と言われながらいまいち連携がギクシャクしていました。

でも、小野が怪我で離脱して遠藤が参加したのです。

すると、試合の流れが何となくスムーズに。遠藤の滑らかで簡素なパスがリズムを作っていたのです。

そしてフランス戦。中村俊輔のフリーキックによるゴールの後に遠藤保仁が蹴ったフリーキックはクロスバーを直撃。「もっと評価されていい選手が日本代表にいる」そう思いました。

その後、遠藤保仁(以下「ヤット」と呼びます)が不動の存在になるのには少し時間がかかりましたが、今では説明不要のレジェンドです。

遠藤保仁の凄さ

では、ヤットの何が凄かったのか?

それはきっと試合を作ることや保つこと、そして時に壊すこともできた才覚です。

試合を作ることはパスの開始、ビルドアップのこと。保つのは、前後ろ左右にパスを出し、試合をコントロールすることです。日本に、いや世界にパスの上手い司令塔はいますが、リズムを作られる名手は少ない。

そして彼は試合を壊すこともできました。正確には、相手の守備網を破綻させるシュートとラストパス。
現に、ヤットは日本の都である京都のパープルサンガ、そしてイメージの強いガンバ大阪で20年以上毎年5ゴール前後決めています。そして、非公式ながらJリーグ通算アシスト歴代1位です。

ゴールとアシストという決定的な仕事においても非凡な能力を見せたヤット。

下品なサッカーをしていた私(筆者)

ところで私は昔、下手くそなサッカー少年でした。所属チームではキラキラした攻撃の選手をしつこくマークするディフェンダー。

そんな自分が体育のサッカーになると実に下品なドリブルをしてゴールを決めてしまうのです笑。サッカー未経験者をごぼう抜きにしてネットに叩き込む。

成金の社長が不粋な贅沢をしたり、モテ慣れていない人がチヤホヤされると浮気性になるのと似ている気がします。

ドリブルでやたらと試合を壊すのは田舎もので貧乏性のサッカー。本当のシティパーソンはパスを回し、みんなで試合を作る。これが、私の考えです。

メッシにあってクリロナに無いもの?

考えてみれば、メッシがクリスティアーノ・ロナウドに差をつけ、エムバペ、ハーランドを寄せ付けなかったのも、ここにある気がします。

アルゼンチンの天才はゴールのみならずゲームメイクが上手かった。クリスティアーノ・ロナウドはまごうことなきレジェンドです。何の文句もつけようがない。

ただ、メッシにあってロナウドにないものがあるとすれば、それは試合の流れを作り、コントロールする掌握術ではないか。
引いてはW杯を優勝するのに不可欠な資質として、ゲームを操る才能に差があったのかもしれません。

天才マラドーナもジダンも……

さらに懐古厨のサッカーファンは、過去の試合やハイライトも遡りました。

するとどうでしょう。ペレも、クライフも、マラドーナも基本的には試合を操る動きが目立つのです。

「5人抜き」で話題になった試合のマラドーナでさえ、基本はパスでゲームメイク。その左足から繰り出す配球は、ドリブルにも優る芸術でした。

あの控えめなジダンも、基本はボールキープからのシンプルなパス。それでも大切な試合でゴールを決めるのは、勝負強いだけでなくやろうと思えばいつでもゴールを決められる個人技があるから。

点の取り方にも上品かどうかがある?

そのジダンと時代を二分したブラジルの怪物・ロナウドは昔ロマーリオという天才ストライカーと「RoRoコンビ」を組んでいました。

私はリアルタイムではなく後追いですが、若さに溢れたロナウドの強引な突破より、センスで簡単なことのようにネットを揺らすロマーリオの方が好み。

そう、点の取り方にも上品かどうかというのはあると思うのです。出来ることなら日韓W杯でロマーリオを見たかった……。

かつては強引だった若きロナウドも、のちに怪我と病気による体重増加で走れなくなりました。そのロナウドがすごい!ワンタッチでボールを手懐け、ゴールに叩きつけ、押し出し、流し込む。その様を見て私はようやく気付いたのです。

「ロナウドはもともとがフィジカル任せじゃない!技術だけでも点が取れることを今証明したんだ」

レアル・マドリードの得点はもちろん、ACミランで殆どお地蔵さんのようになってからのゴールは、人はセンスだけでここまで点が取れるという球技の法則の証明。

私は正直、怪我した後のロナウドに凄みを感じます。

遠藤保仁=ヤット=お出汁の味わい

さて、戻ってきてヤット、すなわち遠藤保仁。彼は、ドリブルも、ラストパスも、シュートも抜群。それでも、少し引いた位置から味方を動かし、楽しませて、おでんの出汁のように味のある存在でいることが殆ど。

田舎のドタバタ個人技サッカーができるにも関わらず、彼のサッカーは都(みやこ)そのものでした。

いざという時以外は一歩引いた位置から試合を掌握し、誰もが彼を頼り、恐れ、敵わないと認める。

サッカー界の他の世界中のレジェンドと同じく、ヤットもまたボールを蹴ることに対してシティボーイだったのです。

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