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お酒の席で起きた困ったトーク 

 先日、友人の男性からお酒の席でモヤモヤしたという話を聞いた。

 その男性は、Aさんと呼ぶことにします。


 Aさんは、今年の春に引っ越しをし、ご近所友達をたくさん作って、地元になじみたいと頻繁に近所の飲み屋さんに行っていました。彼がなじみにしていた小規模な飲み屋さんで起こった事です。
 一人で飲みたくない、誰かと話しながら飲みたいと思う時、彼はよくそのお店に行くそうで、小さなお店だからか、お客さん同士の仲も良く、常連さんも気さくな人が多いと気に入っていたと言います。
 その日もAさんは一人で訪れ、顔なじみになった店員さん(Bさん)と楽しくお話をしていました。そこに、常連の年配男性であるCさんが既に酔っ払った様子でお店に入ってきました。Aさんは過去に何度かCさんとも話をしていたこともあり、挨拶程度の軽い会話を交わしました。すると、既に泥酔していたCさんは、Bさん(店員さん)と楽しそうに話していたAさんを見て、「なんや。えらく良い感じじゃないか。もっと強気で行けや。キスくらいしたれ!」と、Aさんをたきつけるように言い、AさんとBさん(店員さん)の距離が近くなるように、腕を2人に回して肩が触れ合う距離まで二人を近づけるように押しました。
 まじめな性格のAさんは、ぎょっとして咄嗟には言葉が出なかったそうです。かろうじて小さな声で「やめてください」とだけ言ったと思う、とのこと。Cさんは「かわいい子が目の前にいるのに、口説く勇気が出ないなら、もっと飲め!」と、Aさんのドリンクを勝手に注文しようとし、Aさんは慌てて止めました。(Cさんは、お店にとって昔ながらの常連で、時々Aさんのような若いお客さんに対して奢ってくれたりする面倒見の良いおじさんという感じの人らしいです。)
 Aさんが何も返答できないで固まっていると、Cさんは笑顔で一方的にしゃべり始めました。
「強気で押したら、今夜ホテルに行けるかもしれんやろ?」
「Bちゃん(店員さん)のこと、可愛いと思っているんだろ?だったら、今夜抱くつもりで、しっかり口説け!」
「この、むっつりスケベが!」
「口説く勇気が出ないなら、酒が足りない証拠だ。もっと、飲め。」
  
 店員のBさんは、最初のうちはCさんをなだめるように「飲み過ぎですよ」と笑顔で言い、ソフトドリンクをすすめたりしていました。
しかし、Cさんが、
「しょうがないなあ…。俺が、見本を見せてやるよ!」と、Bさんの肩に手をまわす振りをし、キスや耳に息を吹きかける真似をしたりし始めました。(実際にはギリギリ触れていない距離を保っていたそうです。)
 Aさんは、「そういう事は、失礼だからやめましょうよ!」と言ったけれど、聞き入れられなかったそうです。
 そのうち、店員のBさんは苦笑いをしながら店の奥に消え、その後、店長さんが飲み過ぎのCさんを介抱するような優しい雰囲気で、水を飲ませてタクシーに乗せて帰したそうです。
お店にとってはよくある事なのか、店長の対応が慣れているように見えたとAさんは言っていました。


 確かに、Aさんは、店員のBさんのことを、「美人だな。可愛いな。」と思っていたそうです。でも、お店の人だし、年齢もAさんより一回りほど若いと思われたので、例え口説いたとしても付き合えるとは思っておらず、下心をもって接してはいけない相手と考えていたそうです。
 「Bさんが俺にやさしくしてくれるのは、俺がBさんにとって『お店のお客さん』だからであって、俺に好意があるからじゃない。そのうえで、あのお店を気に入っていたのに、まるで俺がBさんの事が好きで通っているみたいじゃないか!」と、Aさんは憤っていました。
 それと同時に、
「あの時、何と言えばよかったのか、どう対応するべきだったのかが未だにわからない。」
「Cさんの発言で、俺も嫌な思いをしたけれど、きっと店員のBさんはもっと嫌な気持ちになったと思う。Cさんの言動を止められなかった俺は、きっとBさんにとっては加害者側の人間だったんだと思う。申し訳ない…。」と悔しそうに言っていました。
 
 この話を聞いて、Aさんも、店員のBさんもどちらもCさんの軽はずみな発言による被害者だなと私は思いました。
 Cさんは特にAさんに対して、男性として「俺の方が男らしく積極的に動けるぜ!」とマウントを取りたくて、上記の言動に至ってしまったのではないかと感じました。
 Cさんは、Aさんのことを「男として情けない」とからかい、自分より格下の存在として見ていたのかもしれません。
 店員のBさんは、口説く対象、性的な欲望を向ける対象として、男性同士の競争(Aさんは乗り気ではなかったが、Cさんが勝手に始めた競争)にその存在が使われてしまったような感じがします。
 「私をトロフィーのように扱うな!」「私はモノじゃない!」と、店員のBさんは思ったかもしれません。
 そもそもCさんの発言には、店員のBさんが、実際のところAさんの事をどう思っているのか、という視点が抜けています。
「キスくらいしたれ!」という発言は、まるで「店員だから、客の好意を断るはずがない。(男性からの好意を)嫌だと思うはずがない。」という身勝手な前提に基づいて発言されたような気がします。
 自分自身の意思や選択肢がまるで無いものとして扱われていたわけですから、店員のBさんもCさんの発言にかなり怒りを感じたのではないかと私は思います。

 一方で、Aさんが傷つき、怒るのももっともです。
Cさんに「この、むっつりスケベが!」とからかわれたことを今でも許せないと言います。
「確かに、俺はむっつりですよ。スケベな面もあるよ。でも、酒の勢いを借りて店員さんにスケベなことをしたいと思ってあのお店に通っていたわけじゃないのに!」

 Cさんはきっと、スケベな思いを抱いて飲み屋さんに通うタイプの人なのだと思います。だから、他の男性達も自分と同じようにスケベな思いを抱いている、あわよくば性的な関係に持ち込めると思いながら飲んでいるに違いない、と思い込んでいるのだと感じました。

 お酒の席でのこのようなセクハラ言動は、周りの人達を不快にするから止めて欲しいと思います。しかし、それを言うと、年配の男性達から、
「可愛い子が居たら口説くのが紳士のたしなみだ。」
「可愛い子を口説けないなんて、世の中窮屈になったものだ」等々の、言い訳がましい言葉が延々と聞こえてきそうです。

 Cさんの言動は、「妄想型セクハラ」に該当する可能性があると思います。
『妄想型セクハラとは、相手が自分に好意を持っていると思い込み、恋人のように振る舞ったり、しつこくアプローチしたりすることを指します。』(下記Webサイトから抜粋)

参考にしたWebサイト:【セクハラ対策】企業がとるべき4つの防止策について解説

 上記ウェブサイトでは職場の上下関係の中で起こる事例を挙げていますが、「お客さんとお店のスタッフさん」という力関係の中でも十分に起こりえる事です。
 相手の許可を得ずに、酔った勢いで抱きついたり、キスをする行為は、「俺がこのような行為をすることによって、相手は喜ぶに違いない」という痛々しい勘違いをベースに行われます。
 お店のスタッフさんだって、誰とキスがしたいか、誰と性的なコミュニケーションを取りたいかについて選びたいし、好きじゃない相手にそのような行為を迫られたら苦痛でしかない、という当たり前のことがCさんの頭の中から抜け落ちていたのだと思います。
 Cさんは、自分がBさんにキスを迫ったり、ボディタッチをすることで、Bさんを苦しめる可能性が多大にある事を考えたことがあるのでしょうか…。
 Aさんはその可能性に気が付いていたのだと思います。だからCさんの言動に対して「やめてください」「失礼だからやめましょう!」とCさんを止めようとしたのだと思います。

 Cさんのような言動を取る人に、今後どのように対応することができるだろうかと、Aさんの立場から考えてみました。


 Aさん(お客さん)が、Bさん(店員さん)と楽しく話をしているところに、Cさん(年配のちょっと酔っ払ったお客さん)が、乱入してきたとします。
C「なんや。えらく良い感じじゃないか。もっと強気で行けや。キスくらいしたれ!」
と、AさんとBさんの距離を無理やり近づけようとします。

【すっとぼけて話題を変える作戦】
A「キス?何のことですか? 今、ちょうど〇〇について話していて、盛り上がっていたところです。Cさんは、〇〇好きですか?」

【にこやかに警告する作戦】
A「キス?しませんよ。急にそんなことをしたら、僕は明日からこのお店に来られなくなってしまうと思います。僕はセクハラをするおじさんにはなりたくはありません。」

【質問返し作戦】 
A「キス? Cさん、それはあなたの願望ではないですか? でも、お勧めしませんよ。Bさんに嫌われて、お店からも嫌われてしまうと思います。」

 そして、口に出して言う必要は無いと思いますが、下記気持ちを込めて、憐れみを称えた目でCさんを見つめてあげてはどうでしょうか。

『この人、店員さんとあわよくば性的なコミュニケーションが取れると期待して来ているのかな…。もしかして、店員さんが優しく接してくれているのを「好意」と勘違いしちゃってる? なんと、痛々しい…!!』


 ちょっと、意地悪な妄想だったでしょうか…?

 ひょっとすると、Cさんは飲みにケーション上のマナーをアップデートして学ぼうとしている人なのかもしれません。
 Aさん曰く、『俺が見本を見せてやる!』と言って、Bさんに対してキスをする真似などをした際に、直接はギリギリ触れていない距離を保っていたそうなので、無理やり身体接触をすることがNGであるという事は理解していたのだと思います。
 酔っていても、その理性は保たれていたことは、紳士だと思います。

 だけれど、「少しくらい性的にアグレッシブに攻めるのが男らしさというものではないか…。」と思い込んでしまっているのではないかと思います。
なので、行動には移さないけれども、口頭ではかなりアグレッシブに、セクシャルハラスメント的な発言をしてしまったのかなと思いました。

 男らしくある前に、人として付き合いやすい人でいることを志しても良いと思います。その方が、老若男女関係なく、様々な場所で、心地よい人間関係を築けると思います。

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