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アンパンマンの恐怖

「何をやっているんだ!アンパンマン!」と言ってピンチに駆けつけたのは、何と宿敵バイキンマン。まさかの展開に私は、度肝を抜かれてしまった。映画では、こんな夢のコラボレーションが実現するのか。

育児に関わって驚いたのは、アンパンマンの存在感だ。特に1~2歳の頃は、それはもう独裁国家の大統領のように、生活の至るところでお見受けする。おもちゃ、ぬいぐるみ、スプーンフォーク、パジャマ、おむつ、ミルク・・・、見かけないほうが難しいぐらいである。「助けた人に顔を食べられるヒーロー」というシュールな設定にも拘わらず、絶大な信頼を得ているのだ。

息子が4歳の頃、初めて観に行った映画もやはりアンパンマンだった。ストーリーには期待していなかったが、なかなかどうして立派な宇宙SFモノに仕上がっていて驚く。特に最後の宇宙を支配する大ボスとの対決シーン。アンパンマンは囚われ、ボロボロになって再起不能。カレーパンマン、食パンマンもアウト。この絶体絶命の窮地に現れたのは、バイキンマンである。「お前を倒すのはこの俺様だ!こんな奴にやられるんじゃない!」と、普段は敵同士にも拘わらず、必死になって助け出そうとする姿に不覚にも胸が熱くなってしまった。

敵の敵は味方。ドラゴンボールでは、地球を恐怖に陥れたピッコロが、サイヤ人襲来の前に孫悟空とタッグを組んだ。フリーザを前にすれば、ベジータだって地球人と手を組んで戦った。それまで死闘を繰り広げた相手であっても、より巨大な敵を前にすれば、味方となって戦う。お互いに命を削って戦ったからこそ、相手の実力を知って信頼関係をつくることができるのであろう。


敵の敵が味方になっていく過程は、アニメの世界ではワクワクする展開だったが、現実世界ではそうはいかない。かつて、その味方づくりの繰り返しによって世界が大きく2つに分かれて、2度も世界大戦が起きた事を人類は忘れたわけではあるまい。「敵」を前にすれば、それまであったわだかまりをいったん忘れて手を組む。しかしそれが連鎖すれば、2つの巨大な同盟国グループに収斂されてしまい、行きつく先は世界戦争なのである。

遠くて近い国である韓国が、徴用工問題において急速に日本に歩み寄っていることは歓迎するが、しかしその裏に、巨大な「敵」の影があることを見逃してはならない。中国とロシアが手を組み、隣国の北朝鮮がミサイルを打ちまくっている中で、韓国は日本と手を組んだのだ。

アンパンマンの作者のやなせたかしさんは、先の大戦の従軍経験から、本当の飢餓の苦しみを知ったという。そこから、お腹が減って苦しんでいる人へ甘くておいしいアンパンが空を飛んでやってくるお話が生まれたそうだ。飽食の時代には、助けた相手がむしゃむしゃと頭を食べる描写はシュールだが、シュールなままでいいと思う。本当に、アンパン1つ食べられないような世界にだけはなって欲しくない。


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