もう彼以外には満足できない
Víkingur Ólafssonというピアニストをご存じだろうか。
1984年レイキャビク生まれの私の好みの顔だちで(イタリアに住んでいながらイタリア人の濃い顔はちょっと、、)、顔はこの際無関係だが、Bachの演奏をさせたら世界一、とここ数年個人的に絶賛しているピアニストで、実際に2019年にBachの演奏に関する数々の受賞歴がある。
https://www.instagram.com/vikingurolafsson/
彼の演奏との出会いは、コロナ禍のLockdown中だった。
コロナの始まりの頃を思い出してほしい。
記憶を掘り起こせば、まず中国から北海道へ渡ったコロナだが(旧正月の頃に、流氷を見にたくさんの観光客が来て変な病気が流行ってるの、と母から言われたのを覚えている。私は道産子、今ここでこっそり暴露するのもどうかとは思うが、ペンネームのシマ子はシマエナガから取ったものだ)、その次にはなぜか、中国へ行ったイタリア人が持ち帰ったものがイタリアで蔓延し、北海道の実態よりもイタリアのそれが世界を震撼とさせたはずである。
この国の文化は、家族愛というか親戚の交流が頻繁であるから、規制を弱めたとたんに家族で集まり、感染し、という繰り返しがされて埒が明かなかったため、少し経った頃、州ごとに、白・黄・オレンジ・赤の4レベルに感染の度合いが分けられ、緊急でない場合は2週間ごとに色が更新され、行動範囲が規制された。それゆえ、長い間、映画館や美術館、ジムやスポーツ施設は閉鎖され、衣料品店やレストランも色によっては閉鎖され、公園や広場も閉鎖され、と、主な趣味がフランス映画・芸術鑑賞・ダンスの私にとっては大打撃だった。夜主にすることと言えば、筋トレとダンスの振付作り、語学勉強で、それ以外の時間は音楽を聴きながら読書をしていたのを覚えている。そんな最中、髪がボロボロと抜け始め、筋トレをする気分ではなくなった。精神の均衡を欠き、心の平安を求め、穏やかなピアノ曲ばかりを聴くようになった。そして出会ったのが、ÓlafssonのBachの演奏だった。
髪は女の命と、昔なにかのCMで流れていたように、私にとっても、白肌と背中の割れ目(ダンサー特有のもので、恐らく、背骨の両側の筋肉が隆起してそう見えるのだと)と髪は、私という一女の命だと思ってきたし、今でもそう思っている。だから髪がボロボロ抜け始め、他人との隔離生活でお茶をすることも叶わなかった時期は相当きつく、孤独の中、Radio Marconiというクラシックを流すラジオのチャンネルやSportifyで、主にBachとRameauとChopinを聴き続け、突然Ólafssonの演奏が流れた瞬間、死んだように薄闇のベールを被っていた心に矢のごとく落ちた衝撃は、今でも鮮明に覚えている。まるで静電気がバチッとなるような刺激的な痛みで目覚めたとでも言おうか、「私、まだ生きてる」という実感を味わったのだ。
それからは毎日、Ólafssonの演奏を聴き、Sportifyにある全てのアルバムを聴き、彼の熱心なファンになった。
Lockdownが終わり、普通の暮らしができるようになってもなお、彼の演奏を聴き続け、特に最新アルバムは最高だと、シマ子ではない個人のインスタのStoriesで何度も彼の曲を使わせてもらっている。
彼の演奏を聴くと、束の間、幸せな時間が訪れる。仕事で嫌なことがあった日など特に、1時間、2時間と聴き続け、そのまま寝ると、翌朝にはすっきりした気分になっている。
クラシックが嫌いではなく気分が晴れない方には是非試してもらいたい、副作用のない心の薬である。
さて、彼のHPのコンサート情報を見ていて、近々日本でも複数の都市・会場でコンサートをすることを知った。一昨日の確認では、チケットもまだ完売にはなっていなかったから、気になる方は是非、ナマの特効薬の恩恵を受けていただきたいと思う。
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